第5話【アレ】

「ご馳走様でした。めちゃくちゃ美味かった」

「どういたしまして~……あ、お皿洗うから良いよ?」


 俺がお皿を手に持ち、キッチンへと向かうと、彩花はそう声をかけてきた。


「え、マジ?」

「む、別に洗ってあげても良いけどさ? そういう時は料理作ってくれたんだからお皿洗いくらいするよ~って言わないとモテないぞ~」

「冗談で言ったんだよ。元から皿洗いくらい俺がするつもりだったって」

「本当かな~。もしかして私がモテないって言ったから慌ててそう言ったの?」

「違う」

「なら良いけど、悠太の彼女は私なんだからね? 私以外の女の子にモテるかモテないかなんて考えなくても良いの」

「彩花が彼女なのは分かってるって。てか、そう言うなら最初からモテないよとか言うなよ」


 彩花が彼女になったのはもうちゃんと理解している。

 こんな可愛い幼馴染が彼女なんて、他の男子からしてみれば羨ましい以外のなんでもないな。


「む、本当に悠太は一言多い!」

「はいはい、すみませんでした」

「はいは一回で良いの!」


 俺はその言葉を無視して皿洗いを始める。


「え!? 無視!? ちょ、ちょっと無視は傷つくよー」


 そう言って彩花は俺の所に来て、俺の腕を揺らしてきた。


「馬鹿やめろ、水が飛ぶ」

「ば……バカじゃないもん! 悠太が無視してくるのが悪いんだもん!」

「無視って……逆になんて答えればよかったんだよ」

「素直に分かりましたって言えばよかったの!」

「分かったから彩花の皿持ってきて」

「む、彼女にちょっと冷たすぎない? あと私のお皿は自分で洗うから良いよ」

「さっきまでは幼馴染だったんだから今まで見たいに接しちゃうんだよ。あと、ついでだから別に良いだろ。早く洗いたいから持ってきて」

「……もう」


 そう言って、彩花はお皿を持ってきた。

 皿が一枚増えたくらいそんなに気にならないし。


「ねぇ、悠太」

「何?」

「お風呂一緒に入る?」

「ッ! だから耳元で囁くなって。ゾクゾクってなるから」

「へぇ、ゾクゾクってなるんだ。悠太はやっぱり耳元で囁かれるのが好きなんだ」

「そっちのゾクゾクって意味じゃねぇよ!」


 てかさっきも言っただろ……。


「一緒に入らない?」

「入るわけないだろ馬鹿か」

「なッ! せっかく可愛い彼女が一緒にお風呂入ってあげようかなって思ったのに! もういいもん!」

「…………え? 風呂入ってくの?」

「え? そのつもりだけど?」


 なんで当たり前みたいな表情してんだよこいつは……。


「聞いてないんだけど」

「だって、もう外真っ暗じゃん? そんな真っ暗な中可愛い女子高生が一人で歩いて帰るのは危険でしょ?」

「……お前絶対今日泊るつもりだろ」

「うん!」


 彩花は満面の笑みを浮かべてコクリと頷いた。


「……家まで送る。荷物まとめとけ」

「え、え!? ちょっと!? ねぇ、酷い! ねえ泊まりたい!」

「あー、もう離せって! あと揺らすのやめろ」

「ヤダ! 泊めてくれるまで離さないもん!」

「分かった、分かったから」

「本当に⁉」


 俺が良いと答えると彩花は直ぐに手を止めてパァ~! と笑顔を浮かべた。

 

「俺は良いけど彩花の親次第だぞ? 親が帰ってこいって言ったら素直に帰らないとダメだからな?」

「分かった!」


 すると彩花は直ぐにスマホを取り出して電話を掛けた。

 相手は多分母親だろう。

 こういう時に父親に電話をすると超高確率で帰って来いって言われるだろうからな。


「もしもしお母さん? 今日ね、悠太の家に泊まっても良い?」


「……うん。うん。…………お母さん、明日帰るときにアレついでに買ってこようかな~でも家に帰っちゃったら買いに行く気無くなっちゃうかな~」


「……うん、アレだよ。……うん、それ。……ありがとう!」


 そう言って彩花は通話を切った。


「良いって!」

「お前絶対なんかしただろ」

「別に何もしてないよ? ただお母さんの大好きなケーキが売ってるケーキ屋さんに明日帰るついでに買ってこようかなって呟いただけだよ?」

「それをしてるって言うんだよ」

「まぁまぁ、小さいことは気にしないの。それより泊まりだからね!」

「分かってるって。約束したしな」



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