リーズニング:勝太の気付き

 ――なんで、なんで一樹じゃないんだ。全く、あの坊ちゃんは体力のない。

 伊織は山を降りながらひたすらイライラしていた。

 勝太がこのままじゃ独走してしまうじゃないか。それは避けたい。ならどうすればいいのだろう。

 ――ちょっと、主催者特権使おうかな?

 前のキュンです動画で結構トップ二人の間は縮まった。

 運動系は今回やった。早織への愛を試すことは出来たから、今回のゲームからは彼氏としての素質を試すもの。第二ステップは……やっぱり、アレだな。

「あの、伊織先輩」

「ん? どうしたの?」

 美佳子が声を掛けてきた。

「あの、ぶっちゃけ言っちゃいますよ? 早織って藍川君のこと好きなんですか?」

「……!」

 ――そんなの知ったことか。大体あの子は何回か私の気付かぬところで男子と腕組んでたんだけど……。

「ぶっちゃけ言うと、分からないわ」

 そう答えるにとどめた。本当は藍川君と付き合ってほしくない、なんて言ったら偉大なる鈴川伊織の求心力低下を招きかねない。冗談だけど。

「聞いてくださいよ」

 美佳子は目の前をタタタと軽やかに駆け降りていく早織を指さしながら言った。

「……分かった」

「早織、藍川君と付き合って欲しいなぁ。思いません? 伊織先輩」

 今度は咲来まで話の輪に飛びこんできた。

「……だね」

 次のゲームでこの子たちを使おうかと思ったのだが、やっぱり止めておこうかな……。




 誰が早織を自分のものにできるか競うグループ

 参加者 健吾・勝太・弘人・いおりん♪・かず


 伊織『はい、お疲れさまでした~♪』

 伊織『各自、山から帰ってこられた~?』

 健吾『はい、何とか』

 弘人『スマホが壊れたけどね……今はタブレットでやってます』

 かず『くぅぅぅぅ……命に代えてでもこの五十嵐一樹の融資を早織キュンに届けたかったっ……!』

 勝太『はい、無事です。ところで、一樹、お前銀行員か?』

 かず『は?』

 弘人『早織ちゃんに金貸すのか。そんな汚いやつだったとわ』

 かず『あ、ホントだ。あと、君は汚いやつだったとわ、って“わ”じゃなくて“は”でしょ?』

 伊織『はい、どっちでもいーの』

 伊織『というわけで、勝者は勝が名前に入った藍川勝太君でした~おめでと~』

 伊織『というわけで、勝太君には五点をプレゼント!』

 伊織『現在の点数は一位、健吾君六十七点です!』

 伊織『次に、並んで一位の勝太君六十七点!』

 伊織『それで、三位は十八点の弘人君、そして四位は十七点の一樹君です』

 勝太『ちょっと待ってくださいよ。五点って少なくないですか? もっとあってもいいのに』

 弘人『しかも、一樹と一点差じゃないっすか! 前はこんなことになってなかったでしょ?』

 伊織『そうだっけ?』

 弘人『あ、前の履歴消されてるし……マジか』

 健吾『暴言禁止だぞー』

 勝太『けど、さすがに……』

 伊織『ストップ、あまり独走してもらったら面白くないからねぇ』

 健吾『さんせーい』

 勝太『……はいはい、分かりましたよ……』




 ――さすがは勝太。やっぱり吞み込んでくれたか。これで俺はトップに立った。

 ここだけは喜べる。

 正直、公平とは言えないジャッジだったが、まあせっかくのチャンスを生かさないという手はない。

 次のゲームは何か知らないが、勢いが大きく俺に傾いたのは疑いようのない事実だ。

 気になるのは、なぜ健吾のついでに一樹のポイントが一気に増やされたのだろう。これだけは分からないが……まあ、どっちみちこれだけ差が開いているのだから、気にすることはないだろう。




 ――なんで俺が。あんなにダントツで勝って、しかもあんなにカッコよく親しげに早織ちゃんと話すことができたってのに、なんで五点しかないんだ。最後に俺に突き落とされた健吾と何で並ぶことになるんだよ。せめて十点はあるだろう。

 いくらなんでも親がいる場でグチグチと言うわけにはいかない。親に彼女出来たってのは言いたくない。

「……はぁ」

 次のゲームは何が来るのだろう。

 というか、伊織先輩は本当に俺に独走してほしくないのだろうか。いや、それはもちろんそうだろうが、それだけじゃない気がする。

 誰かにひいきするようなことはないのだろうか。

 ――ところで、なんであのタイミングで一樹が入ってきたんだ?

 一樹はなぜ入ってきたのだろう。まさか、そこら辺で一樹が早織を好きだという噂が流れたとして、伊織先輩は易々と入れるとは思えない。何か、理由があって彼を入れたのだろう。

 一樹を弘人とほぼほぼ並べたのもこれで納得がいく。

「……なら、何があるんだ?」

 五十嵐一樹と鈴川伊織の共通点らしきものはあまり無い。

「あ、来た」

 と、LINEの通知が入ってきた。




 伊織『というわけで、まずは言っちゃうけど、さっきのお姫様救出バトルから、あなたたちの“彼氏としての素質”を問うゲームになるからね』

 かず『なるほどぉ』

 弘人『さっきのは運動神経だったら、次は何が来るんですか?』

 伊織『それじゃあ、ちょっと予定がまだ組めてないから何とも言えないんだけども、取りあえずゲームだけ予告しておくね』

 勝太『お願いします。ところで、あとで聞きたいことがあるんですが』

 伊織『はい、分かった、あとで答えるわ』

 伊織『みんなは向いているゲームか分かりませんが、取りあえずだいはっぴょー!』

 健吾『早くしてください』

 伊織『分かった!』

 伊織『ズバリ!! 親切丁寧家庭教師対決!! です!』

 かず『漢字がめちゃめちゃ並んでて分かりませーん!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る