ゲーム6:お姫様救出バトル①

 誰が早織を自分のものにできるか競うグループ

 参加者 健吾・勝太・弘人・いおりん♪・かず


 伊織『いやぁ、気持ちいい日差しが差し込んできましたなぁ』

 伊織『嘘、全然差し込んでもないけど、まああとちょっとくらい?』

 伊織『それにしても、みんなの会話を早織に見せてやりたいなぁ』

 伊織『見せちゃおっかな?』

 伊織『早織喜ぶと思うんだけどな―こんな好きでいる人がいるって』

 伊織『いやーどうしよ。見せようか見せないでおこうか……』

 伊織『ムフフ……』




 早織は朝が早い。

 日がまだ昇っていない六時前くらいに起き、顔を洗いに洗面所へ向かう。

「……あれ? スマホ」

 私のかと思ったけど、少し違う。ホームボタンが付いてないし、第一、私は自室の引き出しにしまっている。

「姉ちゃんのかな?」

 拾い上げてみると、まだ電源が付いていて、スマホの画面が明るくなった。

「あれ? LINEじゃん」

 グループ名は「誰が早織を自分のものにできるか競うゲーム」って書いてある。

「私? のこと? 姉ちゃん何やってんだよ……自分のものにできるかってナニ?」

 少し適当にスワイプしていると、これまでの話の断片が見えてきたような気がしたようなしないような……。

 と、急にガチャン!! と扉が勢いよく開く音が背中で聞こえた。

「え?」

 振り向くと、そこには小悪魔的な笑みを浮かべた伊織が立っていた。




 伊織『おはよーさん。それじゃあ今日もゲームを考えてみました。最近ネタ切れ辛いわ』

 伊織『今日って空いてる?』

 健吾『今日月曜日っすけど……』

 伊織『あ、そうだったね』

 伊織『これから学校じゃん。マジか……』

 伊織『明日は? 確か休日だったよね。何かは忘れたけど』

 かず『僕は行けるっす』

 弘人『まあなんもないけど……何ですか?』

 伊織『我が誰が早織を自分のものにできるか競うグループの野外活動ですが何か』

 健吾『良く分からんが、とりあえず空いてるには空いてます』

 勝太『おはようございまーす。なんか話してるらしいけど……』

 勝太『俺は幸いにも空いてるらしいです』

 伊織『マジか! よし、来た来た。(・∀・)ニヤニヤ』

 かず『顔文字……』

 伊織『じゃあ、ゲーム名だけ言っておくね。ズバリ! お姫様救出バトル!! でーす♪』




 お姫様救出バトル……それはつまり、どういうこと?

「野外活動ってか……?」

 健吾は一人呟いた。

「お姫様救出……お姫様抱っことか? まさか早織ちゃんを抱くわけじゃないよな……でも救出ってことは……」

 ブツブツ、ブツブツと自室で一人想像を働かせる。

「何がお姫様救出だ。童話でも見てんのか? なあ健吾」

 と、ノックもせずに兄の要吾が入ってきた。しかもダンベルを持って。

「何で来るんだよ」

「いや、筋トレしてるのに隣からブツブツブツブツうるせーんでよ。んだろなって思ってさ。けど……お姫様救出ってことは山の城に閉じ込められた姫を助けるとかってやつだろ? それがどうお前に関係するんだよ。まあ興味ねえけど」

 こんな兄の適当さというか、些細な気遣いが身に染みる。

 どっちみち、スタミナや運動能力は俺が一番上のはずだ。この勝負、もらった。勝太を抜いてトップだ。


『ねぇ、お姫様救出ってどういうことか分かる?』

 その勝太と俺は今電話をしている。

「だから、山とかに閉じ込められた早織ちゃんを救出しに行くってことだろ。兄ちゃんが言ってた。多分当たってると思う。それなら俺は有利だ。お前も結構いけるだろ」

『けどさ、伊織先輩って何考えるか分かんないじゃん。しかもさ、これどう考えても運動できないやつには不利じゃん。だからさ、何かあると思うんだよなぁ』

「例えば?」

『え? 早織ちゃんをお姫様抱っこしたりキスしたりとか?』

「ギャーッ!!」

 自分が早織を抱いている姿を想像して、思わず叫んでしまった。うるせぇぞ、と要吾の叱責が飛んでくる。今受験勉強中んだぞ、と。

『うるさいぞ、健吾。でも、あの先輩ならガチでやるかもよ?』

「そうならないことを祈るばかり」

 まさか、やらないよな。さすがに……。


 電話を切ると、今度はサッカーの友達から電話がかかってきた。

「よぉ健吾。なぁ、明日一緒にサッカー見に行かないか? チケット取れてさ」

「えぇっ! すげぇ。次の試合って外国と練習試合だろ? マジか、行く行く」

「っしゃ! じゃあ明日迎えに行くわ」

 これだけの会話で電話は切れた。




 伊織『よし、しっかりとまとまりましたぁ』

 伊織『もう一回聞くけど、空いてるよね? 明日』

 健吾『すみません……俺、友達との予定が入ってダメになっちゃいました』

 伊織『ハァッ? ふざけないでくれる? あんた、これがどういうゲームか分かってるの? たった今さっき空いてるって言ったじゃん。それならちゃんと空けとくでしょ。前からあったならまだ許すけどさ、友達と遊ぶとかを後から入れるってバカじゃないの? このグループから追い出そうかなぁ。暴言ばっか言うし。早織ともし付き合ってもこんなんじゃぁデートもできないわ』

 健吾『え! 追い出すのはさすがに勘弁してくださいよ。予定入れちゃったんすから。いや、どうにかできません? ちょっと点数減らすぐらいで。お願いしますよっ』

 伊織『ったく。どうすんの? 追い出されるか明日来るか。この二択。ルールブックはわ・た・し・で・す・か・ら・ね』

 勝太『どーすんの』

 健吾『え、どうしても無理ですか』

 伊織『無理』

 かず『返事はや』

 健吾『この通りですよ、お願いしますよ。無理ですか? サッカーに必要なことなんですけど……』

 伊織『それなら、青春を捨てちまえ!』

 健吾『分かりました……行きます……』

 伊織『それでよし』

 伊織『さぁて、それじゃあ休日の明日の午前十一時にアドベンチャーズに集合。場所は分かってるよね? 大山のとこよ。それまで、しっかりストレッチを頑張ってくーださい』

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