第六話 ミスリル糸

「は~やっと鉱山から出られた~」


 普通に歩いてみて思ったのだが、俺は相当な距離を歩いていたようだ。

 採掘に熱中していたせいで、こんなに進んでいたことに気づかなかった。


「じゃ、見せるか」


 俺は近づいてきた衛兵に、アイアンモールを討伐した証拠の爪を六個、ゴールデンモールを討伐した証拠の爪を二個、ミスリルの塊をマジックバッグから取りだした。


「お、ゴールデンモールがいたのか。こいつは中の奴らでは倒せないからな。ありがとよ。これなら、その量のミスリルでも問題ない。ただ、その爪は使いまわされないようにする為に、ここで買い取ることになっている。アイアンモールの爪は一個五百セル、ゴールデンモールの爪は一個十万セルだから、計二十万三千セルだ」


 衛兵はそう言うと、銀貨二枚、銅貨三枚を俺に手渡した。


「ありがとう。じゃ、昼食を食べに行くか」


「昼食ー!」


 俺はノアと昼食を食べる為に、メグジスへ戻った。




「は~美味しかった」


「うん。今日は沢山食べた」


 遅めの昼食ということで、空腹度がヤバかった俺たちは、いつも以上に沢山食べた。

 ノアなんか、ミノタウロスのステーキを三人前も食べて、店員さんをドン引きさせていたからな。


「それじゃ、ミスリルを使った新たな切り札の製作と実験をする為に、街の外に行くか」


「うん。カインの切り札。すっごい気になる」


 ノアは満面の笑みでそう言った。


「ありがとな」


 俺も笑みを浮かべると、ノアと手を繋ぎながら、街の外へ向かった。





「……この辺なら誰も来ないな」


 街の外に出た俺は、人目につかないところで、切り札の製作に取り掛かった。

 まず、俺はマジックバッグからミスリルとブラックスパイダーの糸を全て取り出した。


「では、〈創造〉!」


 俺はブラックスパイダーの糸に、ミスリルを染み込ませるようなイメージで、〈創造〉を使った。

 かなり繊細な作業だし、時間もかかる。この作業が出来るのは、世界でも俺だけだと思う。


 そして、作業開始から三十分。


「……出来た」


 俺はようやく、念願のミスリル糸を作ることに成功した。ミスリル糸の長さはおよそ八十メートル。片方の先端には、ロックコングの毛皮で作った持ち手が付いている。


「これがあれば、〈操作〉!」


 俺はミスリル糸の先端を掴むと、〈操作〉を使った。

 すると、いつもの〈操作〉よりも速い速度でミスリル糸が動き、一瞬で前方の上にクモの巣模様が出来た。


「あとは、〈創造〉」


 俺はミスリル糸に魔力を流しながら、〈創造〉を使った。すると、クモの巣の形を作ったミスリル糸から、鉄の短剣が出現した。


「成功だ」


 俺はニヤリと笑った。


「ねぇ、何をしたの?」


 ノアが興味深そうに訊ねてきた。


「ああ。まず、ミスリルというのは魔力伝導性が異常に高い物質なんだ。そして、〈創造〉を手で触れていない物に使う時にとんでもない量の魔力を使う理由は、空気中の魔力伝導性があまり高くないからなんだ。だったら、ミスリルを通せば、手で触れている時と変わらない魔力量で、遠隔で〈創造〉が使えるんじゃないか?と思ったんだよ」


「う~ん……よく分かんない!」


 ノアはニコッと笑うと、首をコテンと横に倒した。


「まあ、簡単に言えば、この糸のどこからでも鉄の短剣を作り出すことが出来るってだけだ」


「……なるほど!」


 ノアは元気よく頷いたが、多分ほとんど理解していない。まあ、そのことをわざわざ指摘する必要もないだろう。


「それに、この糸そのものを〈操作〉で動かすだけでも普通に強いんだよなぁ。ミスリルだから、この糸を手に持っている状態で〈操作〉を使えば、かなりの速度で動かすことも出来るし……」


 この糸を四方八方に張り巡らせて、隙あらば相手を細切れにする。ミスリルなので、魔力をしっかり流せば、切れ味はかなりのものになる。


「では、〈操作〉操糸」


 俺はミスリル糸に魔力を込めると、高速で動かした。

 その直後、前方の森にあった木が数本細切れになった。


「今の俺なら危険度S+の魔物と戦っても勝てるかもしれないな」


 強くなったことに興奮している俺は、ミスリル糸を〈操作〉できれいに束ねると、腰の金具に取り付けた。


「じゃ、帰るか」


「はーい」


 一気に強くなった俺は、ノアと共に、上機嫌でメグジスへ戻った。

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