第十九話 初めての部下

 あの後、マリアの死体は燃やしてから古代大洞窟の入り口に埋めた。あの大穴に落として、下にいる魔物に処理してもらうことも考えたが、流石にそれをする気にはなれなかった。


「よし。と言う訳で、ケインに聞きたいことがある」


 大量の緑光石によって明るくなった古代大洞窟の中で、俺はケインにそう言った。

 因みにノアは、素材になりそうな魔物を討伐しに行ってくれている。


「なぜ、マリアが腕利きの暗殺者を六人も雇えたんだ?」


 俺はケインに、そう問いかけた。

 いくらマリアが違法奴隷を売って稼いでいたとしても、流石にあれほどの腕利きを六人も雇える程の金を出せるわけがない。


「ん? ああ、そう言えば言ってなかったな。あいつらと俺は、元々ガルド公爵に仕えていたんだ。だが、ある時、ガルド様が俺たちにハルス様の部下になるよう言ったんだ。その後、ハルス様は俺達をマリア様に貸したんだ。給料はガルド様が払っているけど、仕えているのはハルス様、命令をしてくるのはマリア様って感じの状態だったな」


「なるほどな……」


 それなら、給料を払うことが出来るのも納得だ。

 ガルド公爵が治めているのはメグジスと言う街なのだが、あの街は鉱石を大量に採掘し、売っているので、収入はゲルディンより少し上だ。何せ、あの街の鉱山からは、ミスリルやアダマンタイトが取れるからな。


「……お前はガルド公爵の部下なのか……そっちに帰りたいとは思わないのか?」


「いや、思わないな。ガルド様には恩はあるが、屋敷の中では堂々とやらかしているハルス様のことを調査しようとしないことに失望していたんだ。それに、俺はお前たちのことを知りすぎた。お前たちの秘密を守る為にも、俺はお前たちに仕えることにするぜ」


「何と言うか……律儀な奴だな。お前のような部下に見捨てられた奴が不憫ふびんでならない」


 仕えてくれるのは、正直言って、ありがたかった。

 諜報部員と言う、情報を集めることに特化した人間が一人いるだけで、格段に動きやすくなる。


「分かった。なら、ケイン。俺に仕えろ」


「分かった――いや、分かりました。カイン様」


 ケインはその場でひざまずくと、頭を下げた。


「ああ、これからよろしくな」


 俺はこの日、初めて部下を持った。


「まあ、とは言っても話し方は普通でいいだろ? そっちの方がやりやすいしな」


 敬語は情報伝達の速度が遅い。それに、ケインが敬語を使うのは何か違和感がある。


「そうだな。今まで通りに話すことにするぜ」


 ケインは立ち上がると、そう言った。


「てかさ、お前の恋人をあの大穴の中に行かせて良かったのか?」


 ケインは、木材が無くなって、むき出しになった大穴を指さしながらそう言った。


「大丈夫だ。流石に俺が行っても足手まといになるだけだからな。あと、恋人じゃないからな」


 そう。あれだけ仲が良くても、恋人と言う関係ではないのだ。


「え、マジで!? じゃあ何? 妹?」


「いや、違う。まあ、友達以上、恋人以下って感じの関係だな」


 友達にしては仲が良すぎるが、かと言って恋人と言う訳でもない。何とも説明しづらい関係になっている。


「なるほどな。まあ、応援してるぜ」


 ケインは笑いながら俺の肩を叩いた。


「……ありがとな」


 俺はフッと笑った。


「カイン! 狩ってきたよ!」


 その声と共に、ノアがあの大穴から飛び出してきた。

 ノアは、右手にブラックスパイダー、左手に翼のない亀のようなドラゴンこと、アースドラゴンを持っている。


「流石はノアと言ったところだな」


 ブラックスパイダーは危険度S、アースドラゴンは危険度S+の魔物だ。まあ、どちらも普通に生きていれば、見ることのない魔物だ。

 そんな魔物の死骸を目の当たりにした。ケインは言葉を失っていた。


「ねぇ、これどこに置く?」


「ん~と……取りあえず奥に置いてくれ」


「分かった」


 ノアは頷くと魔物の死骸を奥に放り込んだ。


「ありがとう。ノア」


 俺はノアの元に行くと、ノアを優しく撫でた。


「ふふっ」


 ノアは嬉しそうに笑い、気持ちよさそうに目を細めると、俺に抱き着いた。

 俺は、もう片方の手で、ノアの背中を優しくさする。

 え?ケインが見てるって?妬ましそうな視線を送ってくるって?

 そんなこと俺の知ったこっちゃない。ノアに抱き着かれて、引き離すなんてことが出来るわけがないだろう?

 そう思っていると、ケインが口を開いた。


「カイン。これで恋人じゃなかったら、逆に何なんだよ。説明してくれるよな?」


 リア充燃えちまえ~~のきっつい視線がケインから送られてくる。


「いや、まあ……うん。頑張れ」


「何の励ましだよ! お前! 一生呪ってやるぞテメー!」


 この後、暫くの間、古代大洞窟の中が騒がしくなったのは言うまでもない。

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