第十八話 マリアの最後
「あ、ケイン。足元気をつけろよ。うっかりこの木の板を破壊してしまったら、前の俺みたいに五百メートルぐらい落っこちる羽目になるから」
「こっわ。絶対にやらねーよ。頼まれてもやらないからって……ん!? 前の俺みたいにってどういうことだ?」
「前に言っただろ。古代大洞窟に落とされたって」
驚愕するケインに、俺は平然と答えた。
「いや、それは聞いたけどさ。どうやったらその高さから落ちて助かるんだよ」
ケインはあきれながら、そう聞いてきた。
「落ちた瞬間に〈創造〉で鎧を装備した状態になるように作る。その後、〈操作〉で鎧を少しずつ上に動かす。そうすれば、多少のダメージで済む」
「なるほどな……なってることは
ケインはもう、驚きを声や表情で表さなくなった。
「ん~と、この辺に……あ、あった」
俺は壁に作った穴の中に入れておいた武器と、マジックバッグを取り出した。
「お前らが領主館に入る時に渡したのが、剣一本だったのはそう言うことだったのか……」
ケインは、マリアを地面に置くと、感心したように言った。
「ああ。それじゃ、これからマリアとじっくりお話ししようじゃないか」
俺はニコッと笑うと、マリアの前に立った。
「起きろ!」
俺はマリアの頬をぺちぺちと叩きながら叫んだ。だが、中々起きない。何か、「あぁっ」や「んふっ」などの、やけに色っぽい声を出すだけだ。
「はぁ~……はあっ!」
俺はため息をつくと、マリアの頬を思いっきり引っ叩いた。
「あばぁ! な、何!? 誰!? 不敬よ!」
マリアはようやく起きてくれた。
「やっと起きたか。寝坊助が」
「な……カイン……こ、ここはどこよ! 教えなさい!」
マリアは自分が今、どういう状況に置かれているのか分かっていないのか、上から目線でそう言った。
まあ、ここでそのことについてイラついても意味がないので、質問には答えてあげるとしよう。
「ここは古代大洞窟だ。前に俺が落とされた場所だ。知らないとは言わせないぞ」
「う、嘘よ! あんたみたいな雑魚がそこに行ったら死――ぎゃ!」
流石にこの状況で、この態度はイラついたので、俺はマリアの手を踏みつけた。
「あのさ。俺はいつでもお前を殺せるんだ。それに、お前の方が弱かった。だから、ここに連れてこられたんだ。俺より弱いお前が俺を雑魚なんて言う資格があるのか? 雑魚が!」
俺はマリアを睨みつけると、そう言い放った。
「な、何よ!私は貴族なのよ! 貴族ではなくなったあんたとは格が違うのよ!
この状況でその発言とは……こいつは空気を読むことが出来ないのだろうか……
それに、こいつには、貴族を名乗る資格なんてない。
「お前さ、貴族を名乗るんだったら、民衆を
「何よ! 貴族の言うことが絶対なのよ! 価値のない平民を金に換えることの何が悪いって言うのよ!」
「悪いって思わないのならさ。街中で堂々と攫えばいいじゃん。何なら、その法律を管理している皇帝に直訴してみればいいじゃん。何でコソコソ人攫いをするんだ? まるで悪いことをしているみたいにな」
「う……」
ここで、ようやくマリアが言葉に詰まった。マリアの謎理論を正論で叩き潰すのは、思った以上に骨が折れる。
「まあ、こんな無意味な会話は終わりにして、取りあえず、お前には情報を吐いてもらうぞ。人を攫い、奴隷として売る計画を立てたハルスの目的はなんだ?」
「……言ったら私を街に帰しなさい」
マリアはここまで来てなお、上から目線の態度を崩そうとしない。まあ、無様に泣いて許しを請うよりは、貴族らしい態度とも言える。
「まあ、お前が嘘偽りなく言えば、帰してやってもいいだろう。だが、少しでも嘘を言ったら、指を一本切り落とす。その次は耳だな」
逃がす気なんてさらさらないが、さっさと目的を聞きたかった俺は、帰してやると言った。
マリアは視線を下に向けると、口を開いた。
「ハルス様はその金で私に贅沢をさせると言ってましたわ。そして、自分自身も、豪遊すると言ってましたわ」
「……嘘を付くな。あいつが豪遊する為にリスクを冒す訳がない」
俺はマリアを睨みつけた。
「ええ。それは分かっているわ。私の前ではそう言ってたけど、ハルス様の部屋や、服、武器などに変化はなかったわ。ただ、ハルス様はその金を裏組織に回しているような感じがしたわ……私が知っているのはこれだけよ」
マリアはやけにしおらしい態度で、そう答えた。
「「そうか……」
どうやらハルスも、何か悪いことを企んでいるようだ。これは、復讐ついでに調査をしておいた方が良いだろう。
「じゃあ、さっさとその剣で、私の首を切りなさい。一撃で終わらせなかったら、呪ってやりますわよ」
マリアは覚悟を決めたような顔をすると、そう言った。
「ん? 街に連れて行けとは言わないのか?」
マリアがそう言うのが意外だったので、俺は思わずそう聞いた。
「逃がすつもりがないことぐらい分かるわよ。だったら、こう振る舞うのが貴族というものでしょう?」
「こういうところだけ、貴族面されても何の好感も持てないな。まあ、分かった。何か言い残すことはあるか?」
俺は剣を振り上げると、そう言った。
「……地獄で待ってるわ」
マリアはそう言うと目を閉じた
「そうか」
俺は一言呟くと、剣を振った。
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