第十六話 影の支配者消滅

「よし。ノア、終わったよ」


 俺はそう言いながら、ノアの元にけ寄った。


「あ、カイン! お疲れ。魔力を回復してあげる」


 ノアはそう言うと、シザーズを片手だけ外した。その後、俺の胸に手を当てて、魔力を回復してくれた。


「ありがとな」


 俺はノアの頭を撫でながら、礼を言った。


「うふふっ 嬉しい。だから、邪魔するやつは許さない」


 ノアは嬉しそうにしながらも、部屋の奥を睨みつけた。すると、部屋の奥にあるドアから、三人の男が入ってきた。


「なるほど。おまえらがカインとノアか。ぐふふっ 確かに上玉だな。高値で売れそうだ」


 黒髪黒眼のガタイのいい男は、気持ち悪い舌なめずりをしながら言った。


「ああ、そう言えば俺の名前を言ってなかったな。俺の名前はガスラー。影の支配者シャドールーラーのボスだ。貴様らは俺たちを甘く見すぎだ。よし、貴様の目の前で、横にいる恋人を犯してやるよ。そして、お前は死んだ方がマシだと思うくらいの激痛を与えながら、殺してやる」


 そう言われた時、俺は心の中でブチギレた。


(こいつら……ノアにそんなことをする気なのか……)


 当然だが、こいつらがノアにそんなことをしようとしても、返り討ちにあうだけだ。だが、それでも、そうしようとする意志が、俺を怒らせたのだ。そして、それはノアも同じだった。


「あいつら……カインを殺すだと……」


 ノアはシザーズを手にはめると、濃密な殺気を出した。


「な……さ、殺気でこの俺を萎縮させるだと……くっ 死ね!」


 こいつらはノアの殺気で萎縮したが、それも無理やり振り払うかのように剣を抜くと、切りかかってきた。


「ノア、ガスラーは俺がやる。ノアは残り二匹をやってくれ」


「うん。徹底的に潰す」


 ノアはそう言うと、シザーズを構えた。


「ほう、この俺と戦うか。いいだろう。ただ、お前の戦い方は既に解析済みだ。そして分かった。お前では俺には勝てねぇってな。〈金剛〉!」


 すると、こいつの体が薄く金色に光り輝いた。


(なるほど、厄介だな)


 〈金剛〉のスキルは自身の耐久力を大幅に上昇させるスキルだ。このスキルを使われると、〈操作〉で動かす短剣では、、何十回攻撃して、ようやくかすり傷をつけられるようなものだろう。


「だが、それは耐久力しか上がらないんだよな。はあっ」


 俺はさっき作った鉄の盾で、ガスラーの剣を防いだ。


「ちっ だが、思ったよりももろいな」


 この鉄の盾は、今の一撃で、ひびが入ってしまった。だが、これは俺からしてみれば、軽い時間稼ぎだ。


「では、〈創造〉〈操作〉薬石粉末化」


 俺は〈創造〉でかなりの量の薬石を作ると、粉末化させて、〈操作〉でガスラーの頭上に移動させた。そして、下に投下した。


「な!? ぐう……」


 ガスラーは、薬石が目に入らないように、目を閉じた。これで勝てる。何故なら、戦いの最中で目をつむるのは、大きな隙をさらすことになるからだ。


「よし、これでどうだ!〈創造〉〈操作〉鉄鎖捕縛・改!」


 俺は両端に鉄球が付いている鉄の鎖で、腕と胴体をまとめて拘束した。


「ぐっ」


 ガスラーは鉄の鎖で縛られると、鉄球の重みでそのまま地面に倒れた。そして、倒れた衝撃で手放した剣を、〈操作〉でガスラーの首元に突き付けた。


「くっ……あああっ!」


 ガスラーは振りほどこうと必死に藻掻もがくが、手を動かせない状態で、合わせて八キログラムの鉄球の重りがかかっている。その為、どれだけやっても抜け出せるわけがない。


「くそ……まさか本当に〈操作〉のスキルだったとは……これほど正確に動かせて、あれほどの数を動かすとはな……お前、本当に人間なのか?」


 ガスラーは悔しそうに悪態をつきながら、俺にそう訊ねた。


「そうだな……俺は人間だ。ハズレと呼ばれたSキルを本気で鍛えた、ただの人間だ」


 俺は目つきを鋭くさせながら、少し自慢するように話した。


「そうか……なあ、お前の奴隷になってやる。だから、命だけは助けてくれ」


 ガスラーは、しおらしい態度で、ぬけぬけとこんなことを提案してきた。


「おい。俺がそんなことをするとでも思ったのか?」


「……いや、ありえねぇな。それに、あっちも負けたのか」


 俺はその言葉をを聞くと、ノアの方を向いた。すると、見るも無残な状態で死んでいる二人の男と、シザーズをしまうノアの姿があった。


「あ、カインの方も終わった?」


 ノアはステテテ―と小走りで近づくと、そう言った。


「ああ、今からとどめを刺すところだ」


 俺はそう言うと、ガスラーの首に突き付けてあった剣を手に取った。



「最後に言い残すことはあるか?」


 ここのボスと言うことで、一応聞いてみた。まあ、どうせ俺たちに対する恨み言だろう。そう思っていると、ガスラーは〈金剛〉を解除した。そして、ガスラーは穏やかな表情をしながら、口を開いた。


 この組織を消したら、お前らはあのお方に恨まれ、狙われるだろう。ま、せいぜいいつ死ぬか分からないという恐怖を味わいながら、ビクビク怯えて過ごすんだな」


 ガスラーはそう吐き捨てると、満足気な表情をした。その顔が、これから処刑される裏組織のボスの顔とは思えない。まるで、「お前も直ぐにこっちに来る羽目になるんだよ」とでも言いたげな顔だ。

 そのことについて、詳しく話を聞きたいのはやまやまだが、これ以上追及したとしても、こいつは何も話さないだろう。


「……分かった」


 俺はそう呟くと、剣を振り下ろした。

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