第51話 お金 × 地下帝国の層

 ディナー中は、議論をするのをやめて食事とコミュニケーションに費やした。

 普通に趣味だったり、好きなものだったり、みんな笑いながら話をする。


 サラとセレナが作る料理は、どれも有名なお店に行くほどの味で色も鮮やかだ。特にメインの牛すね肉の赤ワイン煮込みは、口の中に入れた瞬間、ホロホロと繊維がほどけて口いっばいに赤ワインの濃厚ソースが広がり、とても美味だった。


 ただ、みんなも会話のスピードが早くなったりして、思考が加速したままなのがわかった。


 ディナーが終わり、セレナがデザートと飲み物を持ってくる。今日のデザートはバスクドチーズケーキ。お皿に置いてもスライムのようにぷにぷにしている鮮やかな黄色を見て、満腹の中に無理やり隙間を作った。


「そろそろ議論を再開しようか?」

リンが口火を切る。


「三層目まで出来るかわからないけどね」

エートが思案する。


「まずは全世界へ先制しなきゃだよね」

セイスがまた悪巧みしてそうな顔をしている。


「ちょっと僕にも思惑があるんだけど」

リンが腕を組んで、なにやら思うことがあるようだ。


「どんなこと?」

エートは単純にそれが気になった。


「いや、eightersと、creatorsの関係性的なのをね。干支をテーマにすれば面白いかなって!」

リンが答える。


「干支?」

エミリオが確認する。


eighters(8人)×『e-to』×『cr』×『a』×『antonio』で12人。そこに、サラとセレナ。


干支『e-to』に被せると言うことか。


面白いっ!!!


「仮面はつくれる?」

エートがクリスティーヌとアンナの方に目をやる。前屈みにその場を立ち、目を輝かせている。


「愚問ね、それぐらいは1日あれば!」

クリスティーヌは当然でしょみたいにツンとしたが、顔は赤らめていた。


「なら、eightersのサブチャンネルで、干支をテーマにしてcreatorsをプロモーションしてもいいかもね」


「たしかにサブチャンネルを使わない手はないね」

エートはその辺のプロではないからなんとなくだがそう思った。


「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥。これ誰が誰だか覚えられる?」

サンクが大きな身体を揺らしながら確認する。


「さすがに無理かも」

チルは脚を組みながら、まだ飲んでいる。


「じゃあ、仮面を用意しといて、その日に好きなの適当に被るとかは?」

エミリオが提案する。


「それいいね。それなら、今後仲間が増えても12人しかいないと思われるだろうし。最初はサラとセレナも入れ替わったりして、忙しくなったら、誰かに頼んで出演してもらったりもできるしね!」

セイスがお気楽口調でバスクドチーズケーキをフォークでツンツンしながら話した。その度にスライムのようにプルンプルンと揺れる。


「牛と鼠はなんか嫌だわ」

アンナが本当に嫌そうな顔をしている。


「アントニオにどっちかは渡しとこう!」

みんな声に出して笑った。


「じゃあ、目だけ隠れる感じで仮面用意しといてほしい」

エートがクリスティーヌとアンナに軽く依頼した。


「あなたたち食べるものどうするつもり? 全部輸入するの?」

セレナが話を替えて地下帝国の層の話が始まる。


「あ、たしかに! じゃあ、三層目は食べるものでまとめる?」

タラータはまた少しお腹が空いたような気がしている。


「家畜区、穀物区、加工区」

オイトが一番現実的に想像している。オイトにとっては食べることが幸せだからだ。


「飲料区はほしいね。酒とかジュースも飲みたいし」

セイスがジェスチャーでまた軽く言う。


「なら、果物区かなあ」


「じゃあ、三層目は、家畜区、穀物区、加工区、果物区、飲料区」

エートがまとめる。


「ちょっと待って。働きに行くの遠すぎない? 居住区から研究区経由になっちゃうわよ!」

アンナが指摘する。


「本当だね。そしたら、二層目と三層目入れ替えよう。地下鉱物の研究とか情報漏洩防止も考えたら研究区は深い方がいいかもだしね」


結果

一層 カジノ区 ホテル区 買い物区 居住区 creator区

二層 家畜区 穀物区 加工区 果物区 飲料区

三層 動植物食物区 その他食物区 医療区 デジタル区 【地球】区


「取りあえずこんな感じかな。一層目は人が増えたら、横に増やしていけばいいしね。あと、リン。設計できる人いるかな?」

エートがもう一度再確認して、リンに訪ねる。


「う~ん、アントニオ呼ぼう!」

そういって、パソコンを起動して、回線を開く。


「やあ。あのね…… そっちと時差があるの忘れないでね」

アントニオは眠そうだ。しばしばした眼をかいている。


「ソーラー会社はどう?」

エミリオが尋ねる。


「ソーラー会社はほぼ子会社化できそうだよ」

「なら、すぐ工事始めて! 三ヶ月以内に完成させて。」

リンが言葉を被せる。


アントニオは困り顔だ。


「あと、設計できる人いる?」


「まあ、知り合いにいるのはいるけど」


『う~ん、なんか不安だな。あんまり地震もなさそうな気もするけど、日本の設計事務所の方がいい気がする』


「設計は日本で依頼しよう。どうせ僕は、日本にしばらく戻らないといけないし、その時に依頼するよ」

エートがこの件は預かることにした。


「ところで質問なんだけど? お金ってどれくらい使ってもいいのかな?」

エートがずっと気になっているが、聞けずにいたことを不安そうに訪ねる。


英人は、まだ一銭も出していないのだ。ここに来るのも全てeightersが用意してくれたし、昨日はクリスティーヌとアンナが支払いをしてくれた。その点が少し後ろめたかった。


「全部使っていいよ」

リンがあっけらかんと言った。みんなもエートを見て頷いた。


「へ?」

英人の一音あがった声が漏れる。


「全部って?」


「う~ん、会社買収とかアントニオの会社の株を買ったりして使ってはいるけれど、同時に配当もあったりするから、正直、あんまり把握してないんだよ。でも、10兆円は越えてると思うよ」

エミリオが額まで教えてくれた。


「私たちもベンに任せているからあんまりわかっていないけれど、1兆円は越えてると思うわ。家系の時価総額とかなら、eightersと同じくらいいくかしら。もちろん、英人が自由に使っていいわよ」

クリスティーヌもエミリオに続く。


エートはわけがわからなくなる。

「あれ、現実と妄想がちくはぐしだしたんだけど!」


みんなその姿を見て、大笑いした。

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