第31話 条件 × パンとケーキ
「クリスティーヌとアンナはどんな人を愛してるの?」
サラは超ストレートに質問する。
だが、その質問こそがまさに正解だった。彼女たちはいつも2人で『彼』について話をしていたが、そろそろ誰かに自慢したい時期だった。
クリスティーヌとアンナは、怒涛のように『彼』の良さ、凄さをプレゼンしていく。
乙女そのものの表情とともに。
さっとスーがパンとケーキをとる。
残りは3つ。
「それは素敵な人ね。2人でシェアしてるの?」
セレナが質問する。
「えぇ、そうよ」
アンナが答えた。
リンもその『彼』に興味を持った。それだけいろんなことを考えれるなら、会って話をしてみたい。
「2人の彼に会わせてもらえないかな?」
リンはそう彼女たちに頼んだ。
セイスがすっとパンとケーキをとる。
残りは2つ。
「彼は気まぐれだから」
クリスティーヌがそう言って、しばらく考えてアンナを見る。
何かを閃いた顔だ。
「あ、わかったわ。いいわよ。ベン、持ってきて」
しばらくすると、ベンがノートパソコンを持ってきた。それを開いて何やら作業をしている。
「どうぞ」
リンの前にノートパソコンが渡された。
「私たちの彼、『e-to』よ」
そこにはチャット画面が開かれている。議論チャット。今は『e-to』なるuserはいないようだ。
「あら、素敵ね」
サラが純粋に答えた。
「あ、もし。もし、今度よければ、僕たちに特殊メイクをしてくれないかな?それで撮影とか考えたいんだけど」
タラータが恐る恐る聞きながら、パンとケーキをとる。それに便乗して、チルが最後をとった。
ルーカスがまた冷や汗をかく。
クリスティーヌとアンナが何やら相談している。
サンク、オイトが泣いている。
リンとエミリオは半分食べて、サンクとオイトに渡した。
サンクとオイトが喜んだとき
「いいわよ。ただし、条件があるわ」
リンとエミリオは、『タラータよ、いらないお願いをするな!』と心で思った。
「『e-to』と仲良くなって、彼に会わせて。そしたら、どんなことでも協力してあげるわ。もちろん、無理やりとかはだめよ。ちゃんと仲良くなってね。多分彼は日本人よ、あなたは日本人ぽいし、きっかけがあれば仲良くなれるはずでしょ?」
クリスティーヌはチルを指差しながらそう言った。
彼女たちは研究が得意だ。
確かにチルは日本と韓国の混血なので、日本人には見える。
リンは無理難題を言われた。
と思ったが、リン自身も彼に興味が湧いていたので
「わかったよ。とりあえず試してはみるよ」
と、請け負うことにした。
それから、特殊メイクの会場を後にし、撮影現場の大道具や、小道具、スタッフの動きとかを見学して、帰路についた。
ルーカスとエミリオは、機械で作った生物を見学したり、CGを見せてもらったりして、知見を広めた。
……
それから、リンは議論チャットにはまった。『rino』として海外、日本のウィンドウを開き、海外では発言し、日本ではROMに徹した。
『e-to』なら、本当に世界を変えれるのでは?純粋な気持ちでそう思うようになり、彼の魅力に陶酔していった。
彼の発想は素晴らしいものであり、ついでにリンのマンネリ化の気持ちを吹き飛ばした。
クリスティーヌとアンナは、サラとセレナに胃袋を掴まれた。
たまに家に来て、ランチやディナーを4人でしているらしい。
話の内容を聞いてみたい。が、同時に恐ろしい。
背筋が凍るような気がした。
あと、サンクがここにきて才能を開花させた。
ネットショップを開いたのだ。
そこで、動画で使用した物を売っている。
メキシコのマゲイバッグや、ポルトガルのコルクブロック、ワンのソファや、ドゥーエの防音室、オイトのベッドやタラータの棺まで。
もちろん、再度構造や強度は検証してもらったようだ。
あとは、コラボ商品としてコルクを靴底にして、マゲイで編み込んだものを指先に縫い合わせたサンダルや下駄、ヒールサンダル。
色も豊富に取り揃えたりしている。
これがバカ売れしている。もちろん工場や製造者には多めに還元することにした。
輸送はリンの父の会社に業務委託しているので安心だ。
リンは『e-to』が発言したものを体現できないか次第に考えるようになった。地底王国がないか探したことはあるが、地底国家造って避暑地にするなんて発想がすごい。
早く『e-to』と繋がって仲良くなりたい! クリスティーヌとアンナにも催促されだした。
そろそろアクション取らないとヤバイな……
そう思い、1日を終えるのだった。
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