第28話 胃袋 × モーセの十戒

「「¡Hola, Cariño ハイ、  ダーリンっ!!」」


バルセロナ空港から移動して、ランブラス通りを8人で歩いていると、美しい女性が2人前から手をふって走ってきた。


すぐさま、リンとエミリオが6人の後ろに隠れる。


「セイスっ、頼んだよっ!」


そう言って、リンとエミリオは6人を壁にして、後ろを振り返り、走り出そうとした。


まさにそのとき


「「¡Quítate de en medioそこをどけっ!!」


セイス以外スペイン語はわからないものの、明らかにジェスチャーが『お前ら邪魔だ、どけっ!』と主張しているのが6人とも理解できた。


しかも、圧がすごい!


見知らぬ人々も、セイス達も避けて、リンとエミリオの背中に向けて道ができた。 


モーセの十戒だ。


次の瞬間、リンとエミリオの背中に2人の女性が抱きつき、すぐさま頬にキスをする。


「会いたかったわ!」

「待ってたのよ!」

サラとセレナだ。


彼女たちが、世界旅行で最初にスペインを訪れたとき、2人に求愛した情熱的な女性だ。


サラとセレナは、リンとエミリオの1つ年上であり、実はこの2人が、リンとエミリオの初めてだったりする。


「「や、やあ……げ、元気だったかい?」」


「なにが、「やあ、よ」」


「マイハニー、会いかたったよ。ぐらい言えないの?」


サラとセレナは、ニコニコしながらも言葉がきつい。

きついという表現より超ストレートと言ったほうがわかりやすいか。


「そうそう、私たちモデルはもうほとんどしてないのよ」


2人とも落ち着いた黒に近い茶色のlong hairで、スタイルも抜群だ。


彼女たちの身長は170cmを優に越えており、リンとエミリオも180cm近いのだが、ヒールを履いたら逆転されてしまうぐらいだ。


「私はレストランで働いているのよ。セレナは併設のパティスリーで働いているわ」


「時間が空いたらモデルもしてるけどね」


彼女たちは幼少期に子供服モデルのオーディションで出会い、これまで切磋琢磨してきた仲だった。


「そうなんだ。でもなんでモデル辞めたの?」

エミリオが疑問に思い、聞いてしまう。


「当たり前じゃないっ! 男はまず胃袋から掴まないとでしょ?」

サラとセレナがお互いの顔を見て笑っている。


「あと、2年ぐらい修行したらアメリカに行くから待っててね、ダーリン♡」


やっぱりか……


リンは何となく察したがその通りだった。


「とりあえず、僕たちの仲間を紹介させてくれないかな?」


6人はこの会話の間、まさに呆気にとられていたが、サラとセレナが6人を初めて視界に入れたので、お辞儀をする。


「じゃあ、まずは私たちのレストランに行って、食事をしながら話しましょ。今日はオーナーに言って貸し切りにしてもらってるのよ」

 

eighters一行は、今から観光する予定だった。


明日は、前来た時に出会った人たちにお礼を言う会、明後日は、何か撮影をする予定、その翌日は、セイスの祖父母に会う予定だった。


で、それが終わってから、サラとセレナに会う約束をしていた。

 

リンとエミリオは顔を見合い、困った顔をした。

だが、2人とももう答えが一つしかないことを理解していた。

 

「わかったよ。もちろん、今日からスペインを出るまで、ずっと一緒に行動するつもりなんだろ?」

 

「「Claro que sí!当たり前でしょ!」」

 

リンは頭をかきながら困った顔をしたが、少しうれしそうな表情をしているのを、エミリオは見逃さなかった。


「ごめんよ、みんなそういうことだから、スペインは撮影なしにしてほしいんだ」


「でも、セイスの祖父母に会うときは遠慮してね?」

エミリオが2人にこれだけはだめだよ。と、硬い表情で伝える。


サラとセレナは了解した。

 

「じゃあ、レストランに移動しよう!」


リンがそう言った瞬間、6人は『なぜ大学に行っているのに浮いた話がないのか』理解できた。


それは、リンとエミリオの顔が明らかにいつもと違ったからだった。



……



食事も終わった。


食事中は終始、サラとセレナの質問攻めだった。


eighters全員が2人にペースを取られ、圧倒された。


少し落ち着けた時間と言えば、メインをサラが調理しているときと、セレナがデザートを調理しているときぐらいだった。


eighters全員は、料理の腕前には度肝を抜かれたが、凄いとは言わなかった。


いや、言えなかった。


だが、胃袋は確実に掴まれた。


今はホテルに向かって帰っているが、サラとセレナは当たり前のように着いてきている。


これまでの国では、8人部屋とか4人部屋とか2人部屋もあったが、スペインは1人部屋だ。


「で、今日はどっちがどっちなんだい?」

リンが当然のように彼女たちに聞いている。


「今日は私がリンと、セレナがエミリオと2人よ」


「前と同じだね。じゃあ、明日は?」

エミリオが念のためみたいな感じで聞いている。


「明日は私がリンと、サラがエミリオと2人よ」


6人は驚きすぎて、呆気に取られている。


「それも前と同じだね。なら、最後の日は4人でとかこの前みたいなわがまま言うつもり?」


「は?」

思わず、セイスが声にしてしまった。


「何よ! 私たちは2人とも好きなのよ。だから、交互に2人をシェアするの。好きなんだから当然でしょ? 前は4人では断られたけどね」


「「断るに決まってるでしょ!」」


スペインの夜に奇妙な叫び声が響き渡った。

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