第23話 感銘 × 相手のテリトリー

外堀を埋められた。


いや、既に内堀も埋められているだろう。


もう籠城も意味をなさない気がする。


これは、開かざるを得ない。


自分の鼓動が聞こえる……


どんどん心拍数が上がり続ける……


英人は、倒れた椅子を戻した。缶ビールも床に落ちている。


静かな部屋に、缶から床に溢れた炭酸音と、パソコンの作動音だけが響く……


汗が止まらない……


深呼吸をして落ち着こうとするが、なかなか鼓動が静まらない……



缶ビールを拾い上げ、床を拭いて呼吸を整える。


……


少し落ち着いてきた。


まず、名前がばれたということは、おそらく職場や・年齢・住所もばれていると思って間違いないよな?


そうなると、このメールを無視したとしても、接触はしてこられるってことか。


冷静に考えたら可能だな。


eightersは金銭面に関しては、一生いや次の世代、下手したらその次の世代も悠々自適な暮らしが出来るぐらい稼いでいるだろう。


そう考えると、人1人の身辺調査をすることなんて容易いこと。


しかも、チャットは日本と海外を開いているから、『日本在住』ぐらいは普通に推測できる。


ログインの時間でだいたいサラリーマンだってこともバレてそうだ。


『降参するしかなさそうだな。まあ、最初のメッセージを開かなかった自分も悪いしな』


英人は、半ば諦めたようにメッセージをクリックする。


『親愛なる久里 英人様へ eightersワンより


いきなり、驚かせることになってしまって大変申し訳なく思っています。


僕は。僕たちは、数年かけて英人さんの議論チャットを見て楽しませていただいてきた人々の1人、いや8人です。


いつも叶いそうで叶わない、叶わなそうで叶いそうな結論を独自の感性で導きだされ、まさに感服の至りです。


僕たちは動画をアップロードするに当たって、撮影するお題に日々悩み、8人の知識を振り絞って今を過ごしています。


僕たちは理念があって【u-tube】を始めました。


少し僕たちの話をさせていただきたいのですが、僕たちは混血の集まりです。年齢は24歳~26歳です。


僕たちは幼少期に色々あったり【u-tube】を始める前は、自分のRoots故郷に行ったこともない仲間もいました。


世界旅行をして、国レベルでの貧困格差、ルールの違い、充分に教養が足りてない地域、民族同士の差別、等があることも知りました。


【u-tube】の資金を元に少しでも世界を変えたい。

この思いだけは初心から変わらず、今も強く意識しています。


その中で僕たちは英人様に出会い、考え・理論・思考に感銘を受けました。


だから、一度僕たちと会って話をしてもらえませんか?


僕たちと英人様の考えに共通するものがあるなら、きっと世界を変えられる。と思うのです。


場所は、日本ならお伺いしますし、僕たちに会いに来てくれるなら、アメリカにご招待します。日程を教えていただければ、航空機のチケットをこちらからお送りさせていただきます。


是非ともご検討のほど、よろしくお願い致します。


PS.


ポテチ×コーラ動画は見てもらえましたか?見てもらえてるなら、どうだったでしょうか?


僕たちのしたいことは、あの動画を見てもらえれば、お会いできたときに伝わり易いと思います。


良かったら見てもらえるとうれしいです。


eithersより  』


やけに丁寧なメッセージの内容だった。


アメリカかぁ。


確か、今年のお盆は、有休を上手く組み合わせれば10日ぐらい連休にできたな。


でも、いきなり、相手のテリトリーに飛び込むのもなぁ……


また、新たな問題発生に英人は悩むのだった。


……


ぼくたちは7ヶ月後、陶磁器製造会社を買収する。


シンプルなお皿が量産される。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る