第4話 妄想 × しがないサラリーマン

202×年、日本。


毎日慌ただしく走り回る男の姿があった。


彼の名は、久里くり 英人ひでと

仕事好きなしがないサラリーマンだ。


やりたいことが見つからず、適当な職を選んだわけではなく、幼少期に建築物に魅了されたことで、マンションデベロッパーに就職した。


土地を買い、マンションを計画し、売買することにより収益を得る業態だ。


ただ、英人はルーチンワークが大嫌いというサラリーマンとして致命的な欠点を持っていた。


毎週の会議資料の作成や、定期更新さえも忘れがちで、ストレスを感じるので極端に嫌う。


だから事務業務を下に投げたい上司からは、高評価を得れるわけがない。


でも英人は、モノづくり、例えばデザイン・建物配置等を行うとき周りから見てもひときわ輝いた。

そのときの彼は、身体全体から、無→有を生み出す喜びを醸し出す。


まあ、そういうときは大抵やりすぎてしまうのだが。

というのも彼は、いわゆる妄想族だった。


誰もしたことのないことに惹かれ、それを採用しようとする。


マンションなのに、ツリーハウスを提案したり大森林を計画してみたり。


もちろん、社内プレゼンテーションを頑張るが採用されるわけがない。


空想がひどすぎて、社内では影で『妄想族総長』というあだ名までつけられている。


本人としても『妄想族総長』レベルだと自覚していたので、その言葉を否定できる理由もなかった。


ただ、無→有を生み出せない、形にしたいのに形にならない歯痒さともどかしさは感じていた。


そんな彼にも癒しの場があった。


それは、ネットワークコミュニティだ。


そこには、ありとあらゆる人間が大勢集まる。


英人は英語が話せたから外国とも繋がれた。

従姉がイギリス人と国際結婚したので学ばざるを得なかった為だ。


仕事が終わり帰宅すると、一番にパソコンを起動する。


この起動音で、脳内では地球全体と繋がるような感覚になり身体が熱くなる。


パソコンが立ち上がったら、いつもお決まりのチャットグループを、日本と海外で2window開く。


彼のハンドルネームは、本名をもじった『e-to』だ。


このチャットは、たまに【お題】があがり、それについて思考を巡らせ、好き勝手にディベートしたり議論したりする。


もちろん、話さないで聞き役に徹するROMというのも一定数存在するが、そこは表で会話する側からすれば全く気にならない。


日本チャット側で議題があがる。


今日の議題は、【×(かける)】だ。


『e-to』がおもむろに発言を始める。


ポテトチップス(通称ポテチ)×コーラの組み合わせについてだ。


アニメでは良く用いられる光景だったりするが、確かにポテチにはコーラのイメージがついて回る。


最初に、1つにするならジャガイモをコーラ煮にしてはどうか? との意見があがる。


それに対して、一度揚げてから煮た方がいいとか、コーラ煮ではなく、ジャガイモのコーラ漬けが美味なはず。等、議論が進んでいく。


中には食感が重要だから、ポテチのコーラ味がいいのではないかとの意見まであがる。


また、それにはコーラの炭酸感を重視するべきだから、ジャガイモをグミのような形に成形して、コーラにいれる方法が良いのでは? と、無茶苦茶なものまで。


もちろん、そんなことを試す人間はここにはいないし、なにかしらの結論が1つ出るわけでもない。


想像を膨らませて議論をし、より最適解をみんなで作り上げる。この行為が英人は楽しいと感じる。


こんな議論を日々行い、寝不足になるがやる気が戻ってくる気がする。


この場所が、いつも彼に生を感じさせた。


……


ぼくたちは8ヶ月後、メガソーラー会社を買収する。


英人は一面メガソーラーの景色を目の前にする。

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