第3話【何で俺が・・・と思っていたが、即刻納得した件】

 特殊能力、またはスキルと言おうか。まあ、どちらでも良い。

爬虫ラプトル】、それが俺に与えられた能力の名前だった。


 言われた通り、閻魔大王の言葉をメモして父に見せ、能力のことについて明かした。すると父は、


「多分そりゃ本気だと思う。念のため、その本をしっかり読み込んどけ。」


 とだけ言って、何やら書斎の本棚を整理し始めた。

 そして、そのやりとりから半日ほどの間、勉強だと言って自室に閉じこもり、俺は説明書の大部分を読み終えていた。



 説明書によると、俺の能力【爬虫ラプトル】は、複数の能力を包含する「複合スキル」というものだとのことだった。スキルを受容するには、電子機器でいうところのデータ容量のようなものが必要で、たくさんのスキルを持つと容量を食うので、似た系統の能力をまとめて一つの高度なスキルにして付与するという手法らしい。いわばファイル圧縮みたいなもの。それでも、複合スキルを付与するには相当高い適性が必要になるとのことだ。


 そして肝心の能力内容だが、爬虫類に関する能力をこれでもかと詰め込んだような能力であった。たとえば、昨日使った銃弾も撥ね返す鱗、あれは【鱗片防殻】という能力らしい。他にも、ヘビのような柔軟性や筋力をもたらす力や、毒を分泌する力、カメの甲羅のように胴体を防護する力に、長時間の潜水が可能になる能力も付いているらしい。

 だが、こうして文面だけ見ていても頭には入りにくいもので、俺は休憩がてら散歩に出向き、幾つかの能力を試してみることにした。


 まずは水着を持って市民プールへ行き、潜水能力の実験。

 準備体操の後に例の瞑想を終えてから水に入ると、全く抵抗なく水中を滑るように泳ぐことができた。

 速く泳ぐというよりは、少ない力でいつまでも泳いでいられるといった表現の方が近いだろう。それこそカメのように。それに、息も全く苦しくならない。数分に一回息継ぎをするくらいでも、全然余裕だ。鍛えれば三十分以上潜っていることすらできそうだ。

 すると、突如横のウォータースライダーから子供が突っ込んできて、脇腹に激突した。しかしダメージは全くなく、泳ぎの邪魔にすらならなかった。これがカメの甲羅を模した能力とみえる。


 次に、健康増進を目的としたトレーニング設備のある大規模な公園に赴き、柔軟性と筋力の実験。

 これも能力の効果は驚くべきもので、柔軟をすれば新体操選手並み、走れば百メートル近い距離を数秒で走破、懸垂は小指一本で持ち上がってしまったので、この能力は人前で使うのは止めようと誓った。


 俺が文字通り超人的な力を得たようだということは、もはや疑いようがなかった。

 だが、疑問は残る。何故俺のような平和ボケしきった平凡な温室育ちに、そんな白羽の矢が立ったのかという話である。人間は七十億人もいるんだから、もっと適任者はいただろう。

 その疑問を拭いきれないまま家に帰り着いた俺は説明書の残りを読もうとして、もう一つ試せそうな能力があることを思い出した。


「この【戦型看破】っての、使ってみるか。」


 人に見えない赤外線を捉えるマムシのごとく、普段は見えない情報を感知することができる能力で、相手が持っている能力のキャパや練度を表す「気」を見ることができるらしい。さらに、感知した「気」の性質から相手の「戦闘タイプ」を導出することもできるという、【爬虫ラプトル】の中でもイチオシの能力らしい。


 試しに、部屋の姿見に映った自分に【戦型看破】を使ってみると、体の輪郭を満たすようにして青白いモヤが映っていた。そして脳内に、「バランス型」という言葉が漫然と浮かんでくる。ゲームのステータス表記のように文字や数値で見える訳ではないのが残念だが、相手の実力や戦い方を見極めることができるというのは非常に有能な能力だろう。


 すると、突如後ろの扉が開いて、姉のスカーレットが入ってきた。


「勉強は捗ってる?あんまり頑張りすぎても体壊すから、ほどほどにね。」


 そういって、おやつと飲み物の入った盆を机に置いてくれるスカーレット。長く伸ばした前髪で片目は隠れ、後ろ髪は腰まで伸ばし、おまけに絵に描いたように健康的な良いスタイルに、どう見てもカンストしている顔面偏差値。父が里親として引き取った戦災孤児で、父の共同研究者だったスラブ系の人の娘らしい。通っている大学も非常にレベルの高い国立大学で、極めつけは、俺も含めた年下の子に対する面倒見の良さ。まごう事なき完璧人間だ。


 もしかしたら、他にも隠れた才能を隠し持っているかもしれない。俺はそんな軽い気持ちで、部屋を出て行こうとする彼女の後ろ姿に、【戦型看破】を使った。


 ・・・そして、次の瞬間視界に飛び込んできた光景に、俺は立ち尽くすことになる。




 スカーレットの体の中には、白く輝く藤色の「気」が、まるで回転する銀河のようにゆっくりと美しく流れていた。それはさながら、一見美しくありながら、その気になれば全てを押し流す威力と化す大河の清流。

 そしてその理由は、脳内に浮かんだこの一言に結論づけられた。


「戦闘タイプ・・・、・・・『狂剣士』・・・!?」


 スカーレットが、よく木剣の素振りをしているのは長い間見てきた。・・・しかし、「狂剣士」って・・・!?俺の「気」でさえ、あんな薄くてまとまりのないモヤだったっていうのに、あれほど濃くて洗練された「気」の持ち主が暴れ狂って剣なんか振るったら一体何が起きるのか、想像したくもなかった。


 まさかと思った俺は夕飯時を狙って、家族全員がそろったリビングで【戦型看破】を使った。すると、予想していたことは見事現実になった。



 母も加奈もスカーレットも、双子の兄の多嘉志も、沙奈も、その夫の広人さんも。ついでに言うと、居候している多嘉子さんまで。皆、色や流れ方は違えど,そら恐ろしい量と質の「気」を内包していた。そして戦闘タイプに関しては、見てしまったのを後悔するレベルの内容が伝わって来た。


 長女、沙奈の戦闘タイプは「魔法格闘型」。三女、加奈は「大火力砲」。沙奈の夫の広人さんは「鬼神」、兄の多嘉志は「心理操作型」、多嘉子さんと母の戦闘タイプに至っては、多嘉子さんは「魔女」、母、まいは「魔法少女」と出ていた。どうりで二人とも、父より年上なのにあの若さなわけだ。


 そこへ、夕食のハンバーグの匂いにつられた父が呑気な顔で二階から降りてきた。その流れのまま父に【戦型看破】を使ってしまった俺は、「知らぬが花」という言葉の意味をイヤと言うほど思い知った。





 父、林田 和重かずしげ。内包する「気」の量も色も状態も不明。

 戦闘タイプ「複合型:錬金術師・魔王・軍人・魔法少女・食人鬼・神性」。





 なぜ俺なんかがあんな能力に選ばれたかと不思議がっていた、数時間前の自分にこう言ってやりたい。


「・・・選ばれない方が、おかしかったんだ。」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る