第14話女侯爵2

 一ヶ月以上経ってもドロシー・スーザン夫人の豪遊は終わりません。

 実家である男爵家は借金は無いようですが、家計は常に火の車。金銭面で随分と苦労されてきたのでしょう。お金の使い方が下品としか言いようがありません。残された遺産が底をつくのは目に見えているといいますのに。


「お兄様の遺産は娘に残したものだというのに……何を勘違いしたのやら。今度は公爵家に押しかけてきましたわ」


「どういうことなの?アリシア?」


「あの人、遺産を使い切ってしまったんです」


「……そう」


 驚きは有りませんでした。

 あれほど派手に使っていてはそうなってもおかしくないでしょう。


「公爵家に援助を求めてきましたのよ、あの女。『公爵子息の妻である自分を養う義務がある』と叫んでましたわ」


「そんな義務はないわ」


「はい、私も弁護士を通してそう伝えたら今度は『ヘンリーの娘を養育する義務がある』と叫ばれました。を養育するほどお人好しではありませんのに……」


「凄いわね」


「お兄様は可哀そうな人だわ。結局、お兄様の周りにいた友人たち(下位貴族)は最後までお兄様を『公爵子息』としてしか見なかったんですもの」


「ヘンリーは学園でが出来たと喜んでいたわ」


「クスッ。『公爵子息』というブランドに纏わりついてきたハエの間違いでは?お兄様は『公爵家の息子でない自分自身を見てくれる存在だ』と仰っていたけれど、私からしたら彼らの方が『公爵子息としてしか見ていない存在』だったわ。でも、私は彼らを非難するつもりはないの。それは仕方のない事ですもの。私やお兄様が『公爵家の人間』である事は間違いのない事実。それから逃げる事は絶対に出来ないわ」


「ヘンリーは気付かなかったのかしら?」


「まさか!幾ら鈍いお兄様でも一応『公爵子息』ですもの。当然、彼らの目が自分をどう見ているかなんて結婚して直ぐに気付いたと思うわ。親友や友人たちがお兄様のいない場所で『公爵子息の義兄』である事や『公爵子息の友人』である事を殊更自慢していたんですもの。下位貴族同士なら兎も角、彼ら、よりにもよって高位貴族相手にも同じようにマウント取っていたんですもの。馬鹿ですわ。高位貴族にそんなもの通用しない事に気が付かないのだから。しかも、お兄様は跡取りから外されている事は高位貴族で知らない者はいないわ。次期当主でもない、たかだか『子爵』でしかない『元公爵子息』を恐れる高位貴族なんて存在しない事が分からないなんて。まぁ、流石に私に対してマウントを取ってきた事はありませんけどね」


「それでもヘンリーは彼らとの付き合いを辞めなかったわ」


「ダイアナお姉様、それも致し方ないことです。お兄様の相手をしてくれるのは彼らしかいませんもの。跡取りから外れたお兄様に高位貴族は波を引くかのように去っていきましたから。御自分で選んだ結果だというのに随分ショックを受けておりましたわ。もっとも、自分がショックを受けたこと自体お兄様は気付かなかったのかもしれませんけど……」



 アリシアの言いたいことは分かるわ。ヘンリーは何かと鈍い人だったから。


「あの人、お兄様の『御友人』も引き連れて公爵家に文句を言いにきますのよ。言っている事が滅茶苦茶過ぎて笑いを堪えるのに精一杯ですわ」


 文句……。

 どんな神経をしているのかしら?

 常軌を逸していると言っても過言ではないわ。


「アリシア、大丈夫なの?」


 頭のおかしな人は何をしでかすか分からないとも言います。彼女と彼女の家族の安否が心配だわ。


「安心してください、もうじき全てが終わりますから」


 アリシアの意味ありげな言葉を理解したのは数日後のこと。

 



 ドロシー・スーザン夫人が逮捕されたと新聞の一面に、というよりもトップにでかでかと載っています。これは一体どういうことかと新聞を読んでいくと、「夫殺し」の容疑者として逮捕されていました。

 どうやらヘンリーの落馬は事故ではなく殺しであったようです。しかも妻のスーザン夫人だけでなく彼女の兄やヘンリーの友人の殆どがそれに関わっていたと書いているではありませんか。


 これは……貴族社会。とりわけ下位貴族は荒れますね。



 数ヶ月後、下位貴族の半数が族滅したとニュースのトップとして飾られました。



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