第12話公爵夫人3

 留学先から戻られたダイアナお姉様は女性の身でありながら「家」を継ぎました。嫌な言い方になってしまけれど女性で跡取りとなる人は少ないのです。大抵は婿をとるかもしくは養子を迎えるかのどちらかが主流。けれどダイアナお姉様は「自分がシャールトン侯爵家を継ぎます」と宣言されました。

 結婚相手が他国の王子殿下であったせいか「婿として継ぐのはちょっと……」という雰囲気だったらしく、侯爵家ではすんなりと跡継ぎ問題も起こらなかったそうです。格上の王子殿下に意見できる人間などこの国にはいないでしょうけど。

 ただ、令嬢として家裁を守る教育は受けていらしたものの、盛り立てていく教育は受けていらっしゃらないダイアナお姉様に対して「女の身で身の程知らずな」、「愚かな選択をしたものだ」と侮る貴族は多くいました。ですが、ダイアナお姉様が侯爵を切り盛りし瞬く間に成果を次々と発揮し始めると、誰もダイアナお姉様に対して何も言えなくなりました。


 それはそうでしょうとも。


 男の自分達よりも、年上の自分達よりも、遥かにダイアナお姉様は優秀だったのだから。侯爵領の開発に勤しんでいたダイアナお姉様は、医療施設を設置し、領民のための教育機関を造り、福祉厚生をどの領よりも発展させ、数年もしない内に国内随一の領にとなったのです。流石ですね。ダイアナお姉様が愚兄と結婚してアンピール公爵夫人になっていたら今のシャールトン侯爵領の繁栄は我が領にあったのに、と嘆き悲しむ領民が後をたちません。


 公爵家の婿として跡を継いでくれた夫は良くも悪くも典型的な大貴族のお坊ちゃま。次男なので何れ自分自身で身を立てるか何処かの貴族に婿入りするかを選択しなければならない身の上、そのため、文武に優れ所作も完璧な努力家です。ただ、やはり貴族。些か……いいえ、とても保守的なのです。変化を嫌うという訳ではありませんが、ダイアナお姉様にような先進的な女性を「慎みがない」と感じ苦手としているのです。急激な変化にも付いていけない傾向のようで……ここは私自らがダイアナお姉様に教えを乞うべきでしょうか。我が家の愚兄のせいで要らぬ苦労を背負い込んだというのに、未だに私にもお優しいお姉様。昔のような蜜月関係に戻れるとは思っておりませんが、切っ掛けさえあれば以前に近しい関係に成れると思うのです。


 どこかに切っ掛けが落ちていないでしょうか?

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