第5話 天使の微笑み

 コロン、とサメのぬいぐるみが落下した。


 まさか一発だった。



「おめでとうございます!」



 スタッフのお姉さんから祝福され、俺も綾も喜んだ。マジかよ、まさかの一発とかビックリだ。



「やったねお兄ちゃん!」

「綾の実力だろ。凄いよ、こんな特技があったとは」

「えへへ~。はい、お兄ちゃんにプレゼント」


「え、くれるのか?」

「うん。自分のも取るし」



 まさか残りの無料分二回で取る気か。

 そんな無茶な。


 と、俺は高を括っていたのだが――。



 綾は二回目も“サメのぬいぐるみ”をゲット。俺とスタッフのお姉さんを驚愕させていた。てか、凄すぎるだろう。


 あまりのプロ級テクニックに、いつの間にか周囲すら騒然となっていた。



「なんだ、あの子。すごくね!」「あの女の子、無料分で取れてるってさ」「マジ!? どんな腕だよ」「てか、可愛くね。芸能人?」「アイドルにしてもおかしくないよな~」「いいなぁ、彼氏とかいるのかな」「クレーンゲームが得意とか、いいなぁ」



 うわ、気づいたら男から大注目じゃないか。……やめろ、綾は俺の妹なんだぞ。そんな目でジロジロ見るな。


 俺は、綾を危険から守るためにガードする。


 そのせいか、周囲からは舌打ちが聞こえたが、気にしない。



 最後の三回目でも、綾は見事な手捌きを披露してサメをゲット。



 なんと三体ものサメぬいぐるみを入手してしまったのである。



「がんばりすぎちゃった」

「綾、こんなにクレーンゲームが上手なんだな」

「言ったでしょ。おかげでお兄ちゃんにプレゼントできちゃったし、わたしは幸せだよぉ」



 満足気に笑みを浮かべる綾は、自分のことのように幸せを感じていた。俺はそんな幸せを分けてもらえって幸福感が凄まじかった。


 なんだこの気持ち。

 ドキドキするし、ワクワクもする。


 綾と一緒にいる時間がとにかく楽しい。


 ずっとずっとこんな時間が続けばいい。



「そろそろ買い物へ行くか」

「うん。先に袋を貰ったからサメちゃんを入れておこっか」



 ぬいぐるみが入る大サイズの袋を貰い、保管した。



 * * *



 ショッピングモールを去った。

 食材の買い物を済ませ、帰宅へ。



「なんだか大荷物になったな」

「サメちゃんが三体に、食材もたくさん。お兄ちゃん、重くない?」


「綾の方こそ、その三体のサメ、重くないか?」

「こっちは、ぬいぐるみだもん。平気」


「それもそうか。まあ、大丈夫だよ。家までは徒歩10分くらいだし」



 そう割と近所にアパートはある。

 会話をしながら自宅を目指した。


 そうしていれば、あっと言う間に目的地の自宅。



 階段を上がって二階にある部屋へ向かう。



 鍵を取り出して扉を開けて、ようやく帰宅を果たした。



「「ただいま~!」」



 二人して、ただいまを言った。

 靴を脱いでリビングへ。


 制服のまま荷物整理をした。


 食材を冷蔵庫に入れたり、必要なものはテーブルに並べたり。サメのぬいぐるみは寝室へ放り投げた。



「じゃあ、ご飯の準備しちゃうね。お兄ちゃんはお風呂へ行く?」

「そうするよ。綾は着替えないのか」

「うん、もうしばらく制服のままでいる」


「そうなのか。なにか理由が?」


「……えっと。お兄ちゃんに……見て欲しいから」



 もじもじしながら、そんなことを言う綾。そうか、俺に見て欲しかったのか。そういえば、今まであんまり意識はしていなかった。



「大丈夫だ。これから毎日見るし」

「本当に? これからもずっと綾のことを見てくれる?」

「当然だ。綾の制服姿は天使そのもの。でも、私服は私服で可愛いからなぁ」


「お兄ちゃんにそう言って貰えて嬉しいっ!」



 綾は感激してまた天使の微笑み。

 本当に笑顔が増えて良かった。綾にはずっと笑っていて欲しい。



 ――俺はそんな願いを心に留め、風呂へ向かった。

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