第3話 結婚しようね

 昼休みが終わって、また別々となった。

 綾も少し寂しそうにして戻っていく。


 同じクラスなら良かったのにな。

 歳が一個下だし、学年も違うから仕方ないけど。



 教室へ戻り、ただひたすらに授業を受けていく。そうして放課後を迎えた。


 ふぅ、やっと終わった。やたら長く感じてキツかったな。綾といる時間はあっと言う間なのに、この差はなんだろうか。


 荷物をまとめ、俺は教室を出ていこうとする。


 すると教室の扉が開いて、見知った顔がこちらに歩いてきた。綾だ。


 周囲の視線を無視して綾は俺の前に立つ。


 クラスには、そこそこに生徒が残っていた。でも、その視線は俺には注がれない。全ては綾に注目した。


 それほどまでに綾の容姿や姿勢、雰囲気はカリスマ性にも似た特性を持っていたのだ。



「帰ろっか、お兄ちゃん」



 手を差し伸べられ、俺はもちろん同意する。断る理由なんてこれっぽちもない。


 だから手を握り返して繋いでいく。


 クラス内がちょっとだけ騒然となる。

 別に見せつけるつもりはなかった。

 綾の方から迎えにきたのが想定外すぎた。まさか俺の教室に来るとは思わなかったんだ。それが嬉しくもあり、照れくさい。


 俺は、圧倒的な優越感に浸れていた。なんていい気分なんだろう。



 * * *



 手を繋いだまま学校を出る。

 空はすっかり夕焼けによって支配され、血のように赤く染まっていた。


 少し不気味さも覚えつつ、自宅アパートを目指す。


「買出しとかは大丈夫だっけ」

「う~ん、冷蔵庫の中あんまりなかったかも」

「それじゃ、スーパー寄っていくか」

「うん、そうしよう。この近くならショッピングモールがあるし」



 付近には、大型ショッピングモールがある。

 スーパーだけでなく、レストランや映画館、服屋、雑貨店、スターハックス、百均、電機屋、眼鏡屋、おもちゃ屋、ゲームセンターなどなどが入っている商業施設だ。


 そんなわけでお店を目指した。


 徒歩十五分ほど歩くと、大きな建物が見えてきた。

 まるでお城みたいだ。



「ここって活気もあるし、利用者も多いよな」

「うん。市内一番のショッピングモールだもんね。一日中居られちゃうよ~」


 お店の数が尋常じゃないし、見て回るだけでも大変だ。


「あぁ、そうだ。足りない物があるなら、先になにか買っていくか。ほら、綾ってアパートに来てまだ一週間だろ」


「ううん、いいの。お兄ちゃんに迷惑掛けられないし」


「いや、迷惑だなんて思ってないよ。綾の欲しいもの、なんでも買ってやるよ」

「でも、お金厳しいよね」



 両親からの仕送りはない。

 アパートだけでも十分だったからだ。


 家賃や諸々の費用は、俺が自分で払っていた。


 バイト・・・まかなっているからだ。

 正直言えば、バイトで十分に安定している。このことは綾にも秘密。なぜなら、自分でもびっくりする額を稼げるようになっていたからだ。


 たった一週間で。


 あの火事のあと、俺は投資を猛勉強。ゲームや趣味を全て捨てて投資だけに集中した。そうして俺は、貯金を切り崩して密かに“株”とか“FX”に手をつけていたんだ。


 一日、三日、五日……チャートとにらめっこが続いた。値動きを的確に読み続け、その結果、株・FXで奇跡が起きた。


 勝てないと言われているフルレバで勝ち続け、数百万が一瞬で数千万・・・になったんだ。続けて勝ち続け、俺はついに五千万の利益を生み出したんだ。


 こんなことってあるんだな。


 自分でも驚いたし、本当に奇跡としか言いようがなかった。

 五千万を入手してからは俺は高額投資を止めた。今は少額に限定して、チマチマこづかいを稼ぐ程度。


 これ以上はリスクが大きすぎるし、万が一にも破産したら……もう立ち直れない。これは一度限りのギャンブルであり、神様がくれた二度目のチャンスなんだ。


 だから、俺は綾を幸せにする為にお金を使う。



「お金のことは気にするな。俺、バイトしてるし」

「でも、お兄ちゃんってばそのバイトのこと教えてくれないよね。なんで詳しいことを教えてくれないの?」


「近い内に教えるよ。今は秘密ってことで」

「え~、気になるじゃん。わたしとお兄ちゃんの仲なんだし、秘密はなしにしよ?」

「うーん、けどなぁ」


「じゃあ、わたしの秘密を教えるから、お兄ちゃんの秘密も教えてよ」



 え、綾の秘密?

 なにそれ、気になるな。

 うーん、投資のことは内密にしておこうと思ったんだけどなあ。綾の秘密も気になるじゃないか。まあ、言えないことでもないし……話そうかな。



「分かった。じゃあ、まずは綾から言ってくれ」

「えっとね、わたしはお兄ちゃんが大好きなの。義理の妹だから、結婚もできるよね。高校を卒業したら結婚しようね」


「んなっ……」



 天使のような笑顔を向けられ、俺は心臓がどうかなりそうだった。すごくドキドキして一瞬で恋に落ちた。


 これは秘密っていうか――告白。

 プロポーズにも思えた。


 マジかよ。

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