第2話 可愛い妹からのプレゼント

 学校に到着し、綾と別れた。

 学年が違うから当然だけど心配だ。


 綾の背中を最後まで見送り、俺は無事を確認して教室へ向かった。


 俺の学年は二年のBクラス。


 教室へ入り、一番隅の窓際の席へ座る。小学生の頃から何故か一番隅なんだよな。しかも窓側。もはや、俺専用なんじゃないかと思えてきた。


 そして、毎度のことながら周囲は俺という存在を認知しない。まるで映画の透明人間の気分だ。


 つまり俺はぼっち・・・という特異な地位を確立していた。そのせいで友達も彼女もいたことはない。


 でも今はどうでもいい。

 そう、今はクラスメイトよりも大切な妹がいるのだから――。



 * * *



 授業が終わり、昼休み。

 スマホの画面を確認すると【綾】の文字があった。つまり、ラインをしてきたということ。


 俺はさっそく画面をタップして進めていく。



 綾:お昼一緒に食べよ、お兄ちゃん

 圭:分かった。食堂へ行くか?

 綾:今日はお弁当作ったから大丈夫

 圭:それじゃあ、屋上にするか

 綾:決定だね。屋上で待ってる



 連絡を終え、俺は教室を出ていく。


 足取りが軽い。背中に翼でも生えた気分だ。

 ルンルン気分で屋上へ続く階段を上がっていく。辿り着くと、そこには綾の姿があった。


 汚れひとつない新品の制服に身を包み、俺を笑顔で出迎えてくれた。


 トコトコと俺の前まで小走りでやってくると、上目遣いで目を合わせてきた。



「お兄ちゃん、こっち来て」



 手を引っ張られ、柵の方まで向かう。

 今日は驚くほど空が青くて風が涼しい。


 景色も綺麗だし、こんな場所で弁当とか絶対美味い。


 柵を背に腰を下ろす。



 綾は、スクールバッグからお弁当を取り出した。レディースサイズの可愛らしいお弁当箱。



「へえ、綾のお弁当箱か」

「うん。ごめんね、わたしのしかないから。今度、お兄ちゃんのも買っておくね」

「自分で買っておくよ。それより、どんなのを作ったんだ?」



 ピンクの布巾を解いていく綾。

 お弁当箱の蓋を開けると、そこには見事な『そぼろ弁当』があった。おまけにスライスされた卵と揚げシュウマイが添えられていた。


 なんて豪華なんだ。


 スプーンを取り出す綾は、そぼろを丁寧にすくう。それを俺の口元へ運んできた。



「はい、お兄ちゃん。あ~ん♪」

「え……綾?」



 はじめての“あ~ん”に俺は戸惑った。今までそんな恋人みたいなことはしなかった。どうしたんだろう。



「突然ごめんね。でも、お兄ちゃんと一緒に暮らすようになって丁度一週間が経ったから……だから、愛情を込めてお弁当を作ったの」


 強い意思で見つめられ、俺は綾の本気を感じ取った。これは、言うなれば綾からの“プレゼント”なんだ。それを無碍むげにするなんて出来ない。


「分かった。いただくよ」


 俺は、綾の“あ~ん”でいただいた。

 もぐもぐを噛みしめ、ゆっくりと味わう。……美味い。美味すぎて涙がボロボロ落ちた。


「お、お兄ちゃん……突然泣いてどうしたの!?」

「めちゃくちゃ美味ぇ。幸せの味がして思わず涙が零れた」


「そ、そんな大袈裟だよ。でも、嬉しいな。わたし、お兄ちゃんに出会ってから幸せ。だから、わたしもお兄ちゃんを幸せにするの」


 そんな告白も同然な気持ちを打ち明けられ、俺はその言葉で幸せしかなかった。余計に涙が溢れ、これ以上の顔は見せたくなくて背を向けた。



「……っ」

「ちょ、お兄ちゃん。本当に大丈夫? ハンカチ、いる?」

「助かるよ」



 ハンカチだけ受け取り、俺は涙を拭った。……って、なんか良い匂いするし。

 おかげで涙が止まった。



「お兄ちゃんってば、涙もろすぎるよ~」

「嬉し泣きだからいいんだよ。こんな可愛い妹に愛されて、俺は毎日が楽しいよ」

「良かった。わたしもお兄ちゃんといる時間が一番楽しいもん」



 そうして手作り弁当をお互いに味わって、お腹がいっぱいになった。幸せもいっぱいだ。


 俺は友達も彼女もいないけど、こんなにも充実した日を送れるようになっていたんだ。


 今日以降、綾は俺に“プレゼント”を贈ってくるようになった――。

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