星空のダンナサマー 八十八星天葬遊戯

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序詩&1:半身タバコマン




 序詩


夏雲のなか ながながと

なびいていくよ ナパーム弾

情け無用だ なぎ払え

汝、奈落で 泣き濡れよ


並木を窓から 眺めつつ

投げる爆弾 滑らかに

ナイーブなのは 内緒だよ

舐めてかかると 南無三だ


内偵仕事 成し遂げてきた

泣く子も黙る ナイスガイ

涙ぐんでる なじみの姪に

なすすべもなく なじられる


なだめすかして なぐさめナイト

ならば明日は なだれ込もう

万貨店(ナンデモニウム) なんでもあるぞ

悩みはそれで ナッシング


七重に八重に 難攻不落

ナンデモニウム 名は轟けり

なんでも揃う ナイスアイテム 

なぜかお金は 無いッス…もうね


夏雲を背に ながい坂道

ならんで行けば 波音はるか

“撫子”姪は なでて美し

仲良しふたり 萎えることなし!



 ■



 生き埋めにして、ほんとうによかった。


 事の発端はこうだ。

 姪とともに万貨店の入口まで来たとき、つい百貨店と言ってしまった。すると見知らぬ男がシュバッと参上、シュシュッと干渉。

「ちゃうちゃう。ここ百貨店やない、万貨店いいまんねや。知らんのかいな。百万年遅れとるで、自分?」

 と、見知らぬ男は少数民族の用いる消滅危機に瀕した言語で訂正してきた。

 その得意顔が癪にさわり、つい手が出たのだ。

「なんでやねん。親切でかまっとんのに、そないにカッカしたらあきまへんて。血管なんぼあっても足りひんやん。見た目シュッとしてはるのに、手がシュッと出るのはちゃうやん。好かんわ、ワシも手え出るで? ……あ、いった! またやったな。なめくさりよって、しばくぞボケ。おい聞いとんのかカスコラ。歯食いしばりいや!」

 姪の前で情けないところを晒すわけにはいかない。どつきあいはエスカレート。

 ただでさえ玉のような汗が噴き出す炎天下。往来はなぜかプールサイドの匂い。

 無益な喧嘩の末に、男をレンガ造りの花壇に埋めてやった。

 一列にならぶ向日葵の下で、首だけが喚く。

「なんやこの戦闘狂、マジもんやけ! ごっついベッド買うたろ思て万貨店来よったんが裏目も裏目。入る前からワンパンしばかれて、ちいちゃい娘に笑顔でパチキかまされるとは思わんやん。ほいでなんで二対一やねん! そら三分でクッキングされますわ……せや、兄ちゃん、煙草が欲しいんか? 煙草ならなんぼでも分けたるさかいに、これで堪忍してえやホンマ、あんじょう頼んますわ」

 だが、煙草を分けてくれる気配がない。

 男の両手は完全に土の中に埋まっていたから。

 ゆえに、堪忍することはできなかった。

 そいつの脳天で吸いさしの煙草をもみ消すと、そいつは黙った。

 男はいまでも入口で喫煙者の灰皿にされていて、口に耳に鼻にと身体のいたるところにひしゃげた煙草を次々とねじ込まれているらしい。

 かわいそうですね。半身タバコマン。


 ここは万貨店。またの名を、ナンデモニウムという。

 都市と都市が結び合ってメガロポリスを形成するように、百貨店と百貨店が集まって万貨店ができあがった。


 そして姪と仲良く自動ドアをくぐり、まもなく二人は迷子になった。





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