第3話 準備

 先ほどのマッチの反省会に入りきってしまいそうになってしまったわたしは、本来今やるべきことである《面接対策》を思い出し、それを本気で考えようと思った。だが——


 ——全っ然考えられない。


 小学校もまともに行ってなければ高校受験すらもしておらず、就活なんてもちろんしていないわたしは、まず一般的な面接対策というものも分からなかった。

 なので、わたしは検索サイトで『面接対策 何をする』と打ち込み、どんなことをするのかを調べた。


 調べてみたところ、基本的に必要なことは『企業研究』『よくある質問の答えの用意』『立ち振る舞いの練習』らしい。

 立ち振る舞いに関しては基本的なマナーを覚えれば良いと蒼空が言っていた気がするので一番楽だと思う。実際、少し調べた感じでも基本的なマナーはそれほど多くはないと感じた。

 企業研究はもう済んでいる。というか、必要ない。蒼空が入るときに、いつか自分も入りたいなと思って端から端まで調べたからだ。


 一番の問題は『よくある答えの用意』だ。どんなに探しても『プロゲーマー事務所に所属するときによくされる質問』なんて記事は見つからず、見つかっても『現役世界トッププロが教える! プロゲーマーになるための面接対策』というタイトルだが、世界トッププロのはずなのに検索しても名前が出ないような人が書いていたりする、なんだか信頼性の低そうなものだった。


 蒼空に訊こうと思ったが、蒼空はスカウトで入ったから《入るための面接》というよりは《確認するための面接》みたいな感じだったと言っていた。そして、現在Harbinger所属で、自分から応募して入った人はいないとも言っていた。

 そしたらあとの選択肢は『今まで応募した人を探し、どんな質問をしていたか訊く』というものと『ぶっつけ本番』の二つしかない。


 ならば、選ぶ選択肢はただ一つ。ぶっつけ本番だ。


 そうと決まれば後は早く終わる。実家の東京から親に適当なスーツでも送ってもらい、それを着て《Harbinger》に殴り込めばいい。


 そこまで考えたわたしは、メールを開き、母親に向けて『面接で使うから、XSのスーツ送って』と送り付けてまたBFAにログインした。


 ——これで心置きなくできるな。




 三日後、東京の実家からスーツが送られてきた。手紙が同封されていて、要約すると『さっさと就職して働いて、蒼空の負担を減らせ』とのことだった。もちろんそのつもりだ。


 スーツも届いて、わたしは準備万端。なので蒼空に日程を合わせてもらうため、わたしは蒼空の部屋になっている和室の前に立ち、ふすまをダンッという音とともにブチ開けた。


「ふぁっ!?」


 蒼空が情けない悲鳴を上げるが、それを無視してわたしは驚いてアホ面になっている蒼空に向けてスマホを突きつけた。


「は? ——『面接の日程組みたいから相談しろ』? いいけど、ノックくらいしろよ・・・・・・」


 こうして半強制的に相談に乗らせ、わたしは「スーツも届いたし、なるべく早く日程組んで」と書いたスマホの画面を蒼空に見せた。


「はいはい。えーと、一番早く空いているのが・・・・・・あ、今日の午後からだ。今日の午後行く?」


 冗談めかしたように蒼空が言った。確かに、今日の午後からはさすがに早すぎる。ここまで早いと向こうも落ち着いてできないだろう。


 わたしは、今度は「明日以降で空いている日は?」とスマホに書いて見せる。


「ちょうど明日の十六時からが空いているけど、そこにするか?」


 わたしは大きくうなずき、そこでわたしの面接をしてもらうことにした。


「——そういえば、おHarbingerの事務所の場所わかってるのか?」


 もちろん知っている。蒼空が入ったころにやった企業研究の時にしっかりと見ていた。


 確か、宮崎県にあるこの家から東京の《Harbinger》事務所まで飛行機を使う必要がある。だが、当日予約でも一人数万円で確保できるので、特に問題はないだろう。


「・・・・・・もしかしてお前、俺の金で行こうとしてるのか?」


 わたしはもちろん頷く。


「即答かよ・・・・・・。仕方がない、今回はやる。いつか職に就けたら給料から取るからな。さてと、じゃあ適当なの予約しとくから、今から準備しておけ。あと、席が空いてるかもわからないからな。もし空いてなかったら諦めて次の機会にしろ」


 蒼空はそう言うと、すぐに手際よく飛行機の手配をし、わたしに「一時からの飛行機取っておいた」と伝えてくれた。


 その後、蒼空はすぐに配信があるからと部屋からわたしを追い出した。

 特にやることもないのでわたしも部屋に戻ってBFAをやろうと思い、自室のパソコンを起動してBFAを開いた。


 その後は眠くなるまでBFAをやっていた。

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