第21話

「やです! お父様なんて知りません!」


「お父様がおかしかったのは叔母様の魔法のせいだったの。だからその……少しだけお父様の話を聞いてあげて欲しくて……」


「鏡先生から聞きました。魔法はそんなに長続きしないでしょう? お父様は顔も忘れるくらい会ってませんでした。わたくしを構ってくれたのはお母様だけです! わたくしの家族はお母様だけです!」


とりあえず国王を返して、白雪と話をしたんだけど……白雪は相当父親を嫌っている。ここまで明確に拒絶されていたら、無理に仲良くなれなんて言えないわね。


例え家族でも、受け入れられない事はあるもの。わたくしが無理矢理白雪を説得して父親と話をさせたら、余計拗れてしまう。


「……分かったわ。白雪は、お父様と会いたくないのね?」


「はい。わたくしはお母様さえ側に居てくれたらそれで良いのです!」


「わたくしは白雪の母よ。ちゃんと側に居るわ。無理にお父様と会えとも言わない。この城は白雪の物なんだから白雪が拒否した人は入れないわ。安心して」


白雪は成人したら誰かと家庭を築くだろう。姫なのだから、それなりのお相手と結婚すると思う。それまでは白雪を全力で守り抜くわ。仕事の合間に魔法の研究も進めている。今までの結界魔法や防護魔法を駆使して永続的に城を守れるようにするつもり。もちろん、城の外に出る時の事も考えて白雪の身体にも常に防護魔法をかけている。


「わたくしはずーっとお母様と一緒が良いです!」


やっぱり子どもの時に母親を亡くして、父親に放置された傷は深いみたいね。このくらいの歳なら親離れし始めて、親を鬱陶しく思う場合もあるのに、白雪はまるで幼い子どものように甘えてくる。


たまに一緒のベッドで眠りたいとか、仕事より自分を構って欲しいとか言ってくる事もあるわ。その度に白雪を優先する。そうすると、白雪は安心してくれる。きっと、試し行動の一種よね。もっと酷い我儘を言ったり困らせたりする事も覚悟してたけど、白雪の行動は大して困らない。愛しさが増していくばかりだわ。


もしかして、まだわたくしに遠慮してるのかしら。


「白雪が望む限り、わたくしは白雪の側にいる。だから、安心して好きに過ごしなさいな」


「ありがとうございますお母様! もうお父様の事は放っておきましょう」


「白雪は会いたくないなら例え父親でも会わなくて良い。貴女にはそれくらい言う権利があるわ。けど、わたくしは夫婦として夫と向き合わないといけないの。それに、お父様は国王よ。今のままで良いわけない。この城には入れないから、外で会って今後の話をしてくるわね」


「お父様は、必ず離婚すると仰いました! 今までだってずーっと引きこもってて何にもしてなかったんだから大丈夫ですわ! 今後縁が切れる男なんて放っておきましょう!」


「陛下と離婚したらわたくしは白雪の母ではなくなってしまうわよ」


「大丈夫です! お母様はわたくしの養育権を持っていますよね? だから、離婚してもお母様はわたくしのお母様のままですわ!」


「え、そうなの?」


「はい! 鏡先生と宰相様に確認しました! 我が国の法律では、養育権を持つ大人は子どもの母や父となります。養子縁組と同じ扱いですね」


「わたくしは誰と結婚しようが、独り身だろうが白雪の母でいられるの?」


「間違いなくそうです! 心配なら、明日にでも鏡先生に確認してみてください!」


「なんで鏡に聞くの……?」


「だって、お母様は鏡先生の事を信頼なさっているご様子ですもの。他の方のお言葉は必ず確認や調査をなさるのに、鏡先生の話はすぐに信じてらっしゃいますよね」


あ、あぅ。確かにそうかも。

そうか、白雪は鏡の正体を知らないから……。もう国王にもバラしちゃったし白雪にも教えようかしら。あの男が知ってるのに白雪が知らないなんて許せないもの。


「あ、あのね白雪。鏡は人間じゃないの。わたくしが作った、鏡の精なの。だから、鏡はわたくしには噓を吐かないの」


「やっぱりそうなんですね!」


「え、やっぱりって……」


一世一代の告白だった筈なのに、あっさりと受け入れられて戸惑う。


「だって、鏡先生は今までの先生と違い過ぎましたもの。今までの家庭教師の先生より所作も優雅で、貴族じゃないのに貴族達の事を知り過ぎていました。特に叔母様の事は宰相様も知らなかった。叔母様は、上手く隠していたんです。それを簡単に暴いて証拠も揃えるなんて、人間業じゃありません。だから、鏡先生は人間じゃないみたいって言ったんです」


「う……鏡はなんて答えたの?」


「その質問には答えられない。知りたいならお母様から聞くようにって仰いました。だから、先生が人間じゃない事は知ってました。お母様が言わないなら聞かない方がいいと思って黙っていたんです」


「そうだったのね。白雪に気を遣わせて申し訳なかったわ」


「良いんです。お母様にだって秘密はあるでしょうから。けど……わたくしはお母様の事をもっと知りたいのです! 教えて下さい。お母様の事を全部」


輝く目で質問してくる白雪に、ついついなにもかも話してしまったわ。

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