奇襲



◆奇襲



 朝、聖神世界にジャンプしたちょうどその時、ダートムアが攻撃された。

 相手は魔物の群勢ではない。

 白銀色の装備の兵士たちだった。

 ボクとぴよきちさんが昨日闘った王都騎士団を中心とした、王都の兵士たち。

 無関係の観光客たちを逃しながら、戦力となる勇者たちを集め、現状把握。

「ダートムアは囲まれてる。ただ一つ、北側を除いてな」

 レヴナが飛来してきた砲丸を弾き返しながら言った。

「北側、つまり魔王城の方角ですね」

「追い出そうってわけかよ、クソが!」

 避難誘導はぴよきちさんをリーダーとして行われている。ちょうど北側の訓練場の方に勇者たちが集まる。みな、ドウジマさんの工房で作った武具を抱えてきてはいるが、ほとんど着の身着のままと言った様子だ。

「どうせ相手はレベル2桁の雑魚どもだ。皆殺しだって可能だぜ」

 レヴナが歯ぎしりする。

「ダメだよ。ボクらの敵はゴートマの軍勢だ」

 ボクは担いできたメルを馬車に移した。かなり騒がしいけど、相変わらずよく眠っている。悪夢は見ていないようで良かった。

「ちょっと揺れるからね」

「しかしなぜでしょう。今このタイミングで王都がダートムアを攻撃するだなんて」

「ゴメン……これはボクのせいかも。王都のギョージ王が手下になれって言うから、魔王として、その……つっぱねちゃいました」

「つっぱねただって?」

「うん。ぴよきちさんに騎士団員たちをちぎっては投げしてもらっちゃって」

「なんだよ、あいつ闘えたのか」

「ギョージ王の要求をつっぱねたとは」

「うん。こんなことになると思ってなくて」

「どうりでか。そのおかげで更にキルコが魔王になり、俺らは強くなったわけか」

「昨日のこと?」

「おう。ぐんっとな。とまぁなんだ、キルコの容赦に免じて、あいつらは死を免れ、で俺らは1日早い進軍を強いられたわけだ」

 キヨシのおじいちゃんめ。

「このままここに留まったら、町を壊されちゃうしね。行こう、魔王城へ!」

 馬や巨大ニワトリ……じゃなくてワニトリに跨って、ダートムアの北門を勇者軍がくぐっていく。

 振り返ると、防御陣形をとった騎士団の向こうに、ほくそ笑むギョージ王の姿があった。

「わしこそが王様じゃーッ!」

 しゃがれ声がここまで届いた。

 ゴートマとの戦いの後は、もう一仕事あるわけだ。

「進軍!」

 地響きを立てて、勇者軍は進む。

 王都から流れてきた一般人の兵も合わせると、その数5千!

 ああ……始まってしまった! 

 馬の蹄が大地を蹴る音、ワニトリが高く鳴く声、勇者たちの雄叫び。それに混じって、速いリズムでボクの心臓は跳ねた。ワニトリの手綱を握る手に力がこもる。

「安心しなキルコ! サマになってるよ」

 深紅の馬を駆るレヴナが言った。ボクは馬は乗れなかったのでワニトリだ。うんと逞しい、トサカも大きなやつ。

「あたりまえだよ。魔王なんだから」

 そう返すとレヴナは笑った。

 やべこは軍の周囲をめぐり、全体の流れを整えてくれた。先頭に戻ってくると、

「町に残った者はいないようです」

 と報告してくれた。

 ボクのバイトのシフトと人員を把握していたのは記憶力のほんの一部だったようだ。まさか五千人の顔と名前を覚えているだなんて。

 後ろから牧羊犬のように追ってきていた騎士団が帰ったのを確認すると、ボクは行軍のスピードをゆるめた。そして最も速い馬に乗るレヴナとあー子、他数名を斥候として先へ行かせる。

 魔王城へ着くまでにこれから低くなだらかな山を越える。そこにゴートマ軍の伏兵がいないか、山を越えた先はどうなっているかを調べてもらうため。

 結果、安全と判断されたので、山の中腹あたりのまだらな森に隠れるようにして休憩した。

 その間、ボクは現世に戻った。

 戻るとワタベさんがいた。ミワさんに龍田さん、それからベランダの方に闇黒三美神。

 進軍が始まったことを伝えるより先に、「なにしてるの?」と三美神たちにきいた。窓を外し、紐を引っ張っている。紐は外の……エクレーアの殻に繋がっていた。

「玄関からじゃ入らねえからさ」

「引っ越し業者よろしく窓から搬入を……」

「おさわがせしておりますっ!」

「ああ……」

「テレビ画面で見てたよ。朝の挨拶に行ったきり帰ってこないって聞いたからさ」

 ワタベさんは缶コーヒーを飲んでいた。「ほら、そこ引っ掛かってるよ」と三美神に指示を出す。

 ボクは状況を伝えた。

「ギョージ王がねぇ。ストーリー通り空気の読めないやつだな」

「ワタヌキさん、昨日はごめんね。あんな感じで別れたくなかったから、ミワたちについてきちゃったんだ」

 龍田さんは「つまらないものですが」と菓子折りをくれた。

「画面で見ると全体がラクに把握できますわよ? ほら、魔王城の状態が筒抜けの丸見え~」

 ミワさんがコントローラーを操作して、画面を動かした。

 山で休んでいるボクらの位置から、北へ。湿原を越え、谷を越えた先、屍荒原には魔物が数えられるほどしか見当たらなかった。完全に油断していると言える。

「こっちの声は向こうに届くんだろ? 僕とタッちゃんで常に戦況を伝えるよ」

「ありがとうございます。闇黒三美神! 準備はいい?」

 エクレーアがトレードマークである殻をちょうど背負ったところだった。プルイーナは蛇柄のマフラーを巻き直し、リビエーラは二丁拳銃を手に。

「いつでも行こうぜ!」

「オールオッケー……」

「じゅんびばんたんっ」

 ボクは聖神の攻略本を小脇に抱える。ワタベさんがボクの肩をたたく。

「キルコ君、メルを頼んだよ」

「気をつけてね」

「うん、いってきます!」

 闇黒三美神とミワさんを連れて、再び聖神世界へジャンプした。

 

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