三桁



◆三桁



 聖神世界、ダートムアとヤジキタの町を隔てている赤樺の森に住む部族、シラキラ族との問題が顕在化した。


 かなり、怒っているらしい。


 シラキラ族は歴史が古いのに、ほとんど外との交流が無い。そのために彼らの素性を知る者はなかなか見つからなかった。どんな人ともすぐ仲良くなるハナコさんや、気さくなドウジマさんのコミュ力も通じない。レヴナがシラキラ族の先人の魂を呼ぼうと試みるも、

「見つからねぇや」とのことだった。


 ワタヌキさんは「強硬手段も止むを得ん」と強気な姿勢をとったけど、それにはみんなが猛反対した。ボクも止めた。ある日部屋を壊され、「今日からここに道作るから」と言われたら誰だって怒る。納得できない。

「とりあえずシラキラ族について少しでもいいから、知っている人がいないか探すため、全国に勇者を派遣した」

 レヴナは不服そうに話した。派遣したのはワタヌキさんだろう。


「ファイヤ!」

 ボクはレヴナの前で前置きなしにファイヤを披露した。


 レヴナは目を丸くした。

「おおッ、できてんじゃん!」

「うん。昨日の土壇場で成功したんだ」

「へぇ! さすがはキルコ」

「先生が良かったんだよ」

「な……なんだよ」レヴナは頬をゆるませる。にまにまと。

 やべこが隣から言った。

「なるほど、キルコ様がご成長されたから私たちのステータスが上がったわけですね」

「ステータスが上がった?」と聞くと、彼女は鑑定スキルを使った。

「私とレヴナのレベルが、『12』となったんですよ。初めは何かの間違いを疑ったのですが、攻撃力などはちゃんと上がっていまして」

「どういうこと?」

「つまりよ、俺たちはレベルが112になったんじゃねぇかってことよ。鑑定で表示されるレベルは2桁までだと推測するとな。現に、力が増してるのが解る」

「それが、ボクが強くなったからだってこと?」

 眷属がどれほど力を得るのかは主による。

 やっぱり特訓は無駄じゃなかった。

 みんなを強くさせてあげられたんだ!

「ねぇ、ではわたくしはどうでしょうかぁ?」


 横から声を挟んできたのはゆうべ闘った歌姫。名はハジネミワ。


「ミワさんのステータスは……レベル93です」やべこが鑑定をおこなった。

 ハジネが苗字でミワが名前らしい。

「高いじゃん。お前、もともとのレベルはなんだったんだよ」

「え~~と? 忘れてしまいましたわぁ」

「じゃあ分かんねえじゃねえかよ」

「ですが、キルコ君の眷属になった途端に強くなるのは感じましたわぁ」


 拷問にかけられる寸前、彼女には随分と怖い思いをさせられたけれど、ミワさん自身は見た目通りのおっとりとした、忘れっぽいお姉さんだった。今夜も龍田さんと歌うらしい。


「あの子、ハジネミワって名前なの? 思い出したんだ」

 マイコで龍田さんに会うなり、ボクはミワさんのことを教えた。

「じゃあ名前変更しとかないと。なんか、『今日は楽しかったよ』とか『またタッちゃんのギターが聴きたいな』だとかの絵文字やハートまみれのメッセージが、魔王レームドフから来るのが可笑しかったんだけどさ」


 強面のお父さんが絵文字だらけの文章を送っているのを思うと、たしかに笑えた。

「昨日ちゃんと帰れましたか?」

「うん。帰って即爆睡したけどさ」

 話してみたところ、こちらには少しも疑いを抱いてはいないようだった。

「良かったです」

 ボクが炎を出したとか、カエルになったとか、建物が崩壊したとか、そういった悪夢も見なかったようでほんとに良かった。

 今日のお仕事はランチ上がり。遅い昼食を摂って、4時半ごろにマイコを出た。龍田さんとの話で盛り上がっていたけれど、メルが来ているらしいので。

「改めて思うけど絹繭メルと知り合いってすごいよ」


 別れぎわ龍田さんが言っていたけれど、メルってそんなに有名なのかな。コスプレ関係の仕事と副業で暮らせてるって言ってたし、まぁ有名なんだろうな。


 良いな、綺麗な人は。ボクも綺麗だったら――――と、あの衣装の数々を思い出して身震いした。やっぱりボクには恥ずかしいし、きっと向いてないだろう。


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