お遊び



◆お遊び



 ボクとやべこで手分けをし、メルやあー子が起きるまで散らかり放題の部屋を片付けていた。許可は昨夜のうちに取っておいたからオッケー。


「ふんふんふ~~ん」自然ともれる鼻歌。

 まずは不快度数の高いゴミ、飲食にまつわるものからまとめていく。空き缶や酒瓶は水ですすいで乾燥させておく。


 次は部屋に散らばる乾き物のゴミを、打ち上げられたクラゲみたいにそこかしこに落ちているビニール袋にまとめる。ゴミを排除し終えると、部屋に残るのはボクでは必要かどうか判断できないものたち。ゴミだと思うけどもしかしたら……のチラシなどを集める。他の物はカテゴリーごとに仕分け。


「あっ!」

 崩れた雑誌の地層に埋もれていたロボット掃除機を見つけた。

 ダスゲテクレデ、ドーモ、アリガド……と言う声をボクは心の耳で聞き取った。掃除でハイになっていたらしい。

「よしよし。後で走り回っていいからね」


 ゴミを捨て、物を分ける。これだけで雑多な視覚情報だらけだった部屋はスッキリと見違えた。家主でないボクができるのはここまで。

 本当は水回りも掃除したいのだけれど、時間が足りそうにない。また後日だ。


「うわっ! 床が見える!」

「足の踏み場がある!」

 メルとあー子が起きたのは10時過ぎだった。


「コレ使っていいよね?!」

 ロボット掃除機を抱えながら、メルにたずねた。捨て猫を拾ってきて「飼っていい?!」ときく子供の図が思い浮かぶ。ともかく、足の裏に感じるホコリを除去したい。この広い部屋を自由に走らせてあげたい。

「もちろん。コレもらったんだけど一回も使ったことなかったんだよね」

 生きる意味まるごと奪われていただなんて!

 4人でロボット掃除機が生き生きと動き回るのを見守った。

「よし、動作確認OK。じゃっ出かけるかぁ」



 4人で連れ立って吉祥寺の街を歩く。

 外は晴れていた。日差しはいかにも夏らしく、己が責務を全うするように太陽は熱をまき散らしている。これまでのボクだったら、日陰ばかり探して歩いていた。でも今日はみんなと太陽の光を浴びている……それだけでウキウキと胸が躍る。


 昨夜「何して遊びたい?」とメルに聞かれて「迷路遊びや神経衰弱」と答たら笑われた。


 メルがたくさん提案してくれて、ボクは少ないイメージの引き出しをあさって、若者の遊びっぽいことを全力で考えた。職場近くの高校に通う同い年の子たちは何して遊ぶのかなと。


 井の頭公園でボート、プリクラ、タピオカ、ボーリング…………。


「全部やろう!」

 メルは気前よく言った後で、ボクにこっそりと「お金はダイジョブ?」とささやいた。

「いつかの贅沢用資金があるから大丈夫」とボクは答える。

 そんなのないけど、胸の高鳴りに任せてそう答えてしまった。


 レヴナも誘ってみた。「楽しんでおいで」と言ってくれた。

 お言葉に甘えて、ってやつだ。


 井の頭公園のお池、ボクとやべこ、メルとあー子のチームに分かれて、スワンボートで競争した。


「どわぁぁああああああ!」

 ゲームや勝負事となると手を抜かないメル。だけど、「ちょ、そんなはしゃぐと出る……」と二日酔いで青ざめた顔のあー子の脚がおぼつかない。2人のボートは池の中央でぐるぐると回っていた。


 ボクとやべこは順調に進む。出発前に「おっ、3番だね」と言われた。なんのことかと聞くと、「3番だけ王子様なんだよ」と係のお兄さんが教えてくれた。

「あ、ほんとだ。眉毛がある」

 他のスワンはまつげがかわいいお姫様だ。

 王子様か。ラッキーだったな。


 その後、タピオカを飲んだ。初めてだった。美味しい。

 世の若人たちはこんなものをもっちゃもっちゃしながら遊んでいたのか。


 そしてボーリング。みんなでああだこうだと笑いながらゴロゴロと。

 ある時、ボクが投げようとするとフッと辺りが暗くなった。なんとかチャレンジと言って、他のレーンの投球者たちもずらりと並ぶ。カウントが始まる。


「いけキルコー!」


 たまたま手にしていたのが、隣の男の子たちが持ってきたらしい重たいボールだった。ボクは緊張しながら、怪我が治ったアヒルを池に帰すような動作で投球。


 ゴロゴロ…………ゴロゴロゴロ…………。


 極端に遅いその球は、周りの視線を一身に受けながら、なんと全てのピンを倒した。

 会場から盛大な拍手が起こった。嬉しいけど、恥ずかしくてたまらなかった。


「どぞー」

 店員さんがくれたコインは、プリクラ一回無料の効力を持っていた。


「チーーズ!」

 エイリアンみたいな目をキラキラさせながら、シャープなアゴにピースをあてがって、撮影。まるで別人だと笑いながら、ラクガキの時間。この時間は制限があると風の噂で聞いていたけれど、なぜか無制限だった。

 こんなに楽しくてバチが当たらないだろうかと不安になりながらも、みんなの頭の上に王冠を描いた。メルを真似して、うんちのスタンプも押した。


 本当に、バチが当たらないのだろうと、笑いながら思ったりした。

 切り分けたプリクラを、ボクはワイファイ圏内でしか使えない契約切れのスマホに貼った。

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