賑わうヤジキタ



◆賑わうヤジキタ



「日に日に仲間が増えるね」

 すっかりウチに入り浸っているメルが言った。合鍵も渡したほどだ。

「まぁキルコの魅力ならしょうがないねー」

 酔っているのか、ボクをぎゅっと抱きしめる。

「くるしい……」

「おい、てめぇ。キルコから離れろや。呪殺されてぇか?」

 レヴナがメルに詰め寄る。

「キルコの大ファンですからねぇ~」

「あん?」

「まぁまぁまぁ!」一触即発の2人にやべこが割って入る。

「そうだよ、やめてよ2人とも」

 狭い部屋で争わないでください。下の人から苦情が来ちゃうよ。


「さぁさぁ、聖神世界のみんなの様子を見に行こうよ。もうすぐ待ち合わせの時間だから」

「そうだね。ところで良い職の勇者を引き入れたね」

「俺はレベルは99だ。三美神たちをヒーヒー言わせてたそこの戦士の姉ちゃんと同じだぜ」

「彼女はやべこだよ。でもさすが暗黒四天王に選ばれるだけのことはあるね」

 場の空気を少しでもかき混ぜるために言ったら、レヴナが勢いよくボクを振り返った。

「……はい?」

 あまりの目力にたじろぐ。

 するとレヴナは不意に頬を緩ませ、えへへ~と、全身がふにゃけた。

「だろ~? 俺って使えるんだよ~。キルコの役に立てるんだよ~」

「イタコ職はね、戦闘で倒れた敵味方の力を使える『死穢憑依』と、自身の体力を大幅に削っての攻撃『全身全霊』のスキルを覚えるキャラだね。大器晩成型のステータス」

「よく知ってんじゃねえかよ」

「でしょ? イタコ職はアタシも好きだったんだよね」

「好きって、おい。なんだよ、バーカ」

 照れまくるレヴナ。

 褒められることに弱いみたいだ。

 会話はそれで終わり、ボクらはメルを残し聖神世界へと移動した。

「メルは来ない?」と誘うと、

「けっこうマジなんだけど、ホントに向こうに住み着いちゃいそうだから」

「わかった」


 ボクはゲームを起動して、聖神世界にジャンプした。

 いちいちゲームを起動しないでも聖神世界に行けたらラクだけど、ゲームをつけないとイマイチ……世界の場所が掴めない。座標と言ったら良いのか。緯度経度、それから高さがハッキリしづらい。

 たぶんだけど、ゴートマは勇者や魔物を現世に送ったり戻したりする時、経緯なり高さなり、なにかの情報が確定できずにいるんだと思う。イワフネに行くのと似てるかもしれない。高さは合ってるけど…………とかそんな感じかな。


 聖神世界の宿場町が一つ、ヤジキタは大いに盛り上がっていた。

 断続的に小さな花火が打ち上がり、夜空が照らされる。派手すぎない火の花に彩られるのは町の広場に設けられたステージだった。大勢の人の笑いが波のように起こる。芸人の3人はもう人気者になってしまったらしい。


「いやーこんなにも盛大な拍手ありがとうございます。ここで皆さんにちょっとおねがいがあるんですけどね、実はわれわれ長い棒を探してましてね。ええ、こないだ闘ったチーズ職人が探してまして、ええ、そうです。長い棒です」

 チーズカッターズをチーズ職人と呼んでいるのは、間違いなのか、冗談なのか、芸人ってことすら認知していなかったのだろうか。


 少し離れたところで、子供たちがハナコさんと手持ち花火で遊んでいる。

「人に向けちゃだめだからね」ハナコさんは人懐っこい笑顔を見せるかたわら、弟子と思しき男たちを指導していた。「ばかやろ! 火のそばから離れるやつがあるかい! 筒が倒れて人に撃ち出されたらどうするつもりだ!」

 こないだボクらにがっつり向けてましたが? いやあれは操られていたんですもんね。


 更に離れた隅っこで、ひよこ鑑定士のぴよきちさんが「ひよこ釣り」なるものを催していた。カラフルなひよこたちが、金魚釣りよろしく集められ、そのひよこたちを子供達が丸い水飴のようなもので釣っている。


「ぴよきちさん、おつかれさまです。すごい色のひよこたちですね」

「やぁキルコ君。先に言っとくけどこの子たちはむりやり染めたわけじゃないからね? この世界に元からいた品種だからね?」

 そうなんですか……と生返事。隣で1人の男の子がびよきちさんにたずねる。

「なーなーにいちゃん、こいつら2匹を同じにしといたら、朝には3匹になる?」

「ならないね。この子たちはみんなオスだから。僕が仕分けしたんだ、間違いない。きみだって隣の男の子と朝まで一緒にいたって3人にはならないだろ」

「お父さんにきいたら、ケッコンしたら子どもができるって聞いたけど?」

「じゃあ釣ったひよこたちに婚姻届を書かせなよ」

「こんいんとどけってなに?」

「お父さんにききなよ」

 男の子は行ってしまった。

 若干ムキになるぴよきちさんがなんだか可笑しくてこっそり笑った。


「繁盛してますか?」

「赤が3羽、青が4羽、黄緑が1羽、虹色が6羽、お別れしたね」

 売り上げ面で聞いたけど、ぴよきちさんのひよこ愛を前に問い直すことはできなかった。

「あ、あと黄色が12羽だ」

「黄色……やっぱりそのままが一番良いんですかね」

「だから染めてないって」


 結局、この日一番ジェニーを稼いだのはハナコさんだった。とても評判が良かったらしい。

 芸人の3人は「地べた這い回って集めたおひねり」から出演料を引くと、いくらも残らなかったという。

 チーズカッターズも大変なんだろうな。


 全ての儲けを現世の円に換算してしまうと、バイトの時給より低い金額だった。みんなの生活費を考えれば、雀の涙の円よりジェニーを優先すべき状況だ。


 残念ではあったけれど、ヤジキタの人々は楽しそうだったし、一朝一夕で大金持ちになるなんて、ありえないよね。


 でも、もしかしたら――――。


「提案なんだけどさ」

 12時過ぎ、皆が集まってから、ボクは言った。


「新メンバーのレヴナにさ、商いの天才の霊を降ろしてもらうってのはどう?」

 言ってみて、ありえるかもと思った。一朝一夕では無理でも、やっぱり億万長者は可能だと。


「いいかもしれませんね。今まで無名の芸人や花火師がなんの知識も後ろ盾もなく有名になるには限界があります。皆さん素晴らしい成果をあげてくれましたが、スピードを重視するならもう一手打つべきですね」

「勇者の人数を増やしても大丈夫なようになるべく早くにダートムアを再建したいよね。レヴナ、できるかな?」

「キルコの頼みなら出来る。やってみせる。ちょっと探すのに手間取るかもしれないけど、いくぜ『死穢憑依』」

 皆が固唾を飲んで見守る中、

「にゃにゃーにゃにゃにゃーにゃ!」

 レヴナは猫になった。

「えと、レヴナ……?」

「にゃにゃにゃーにゃ……はッ! すまん。今のはほんのジョーダンだよ。『死穢憑依』」


 この後、レヴナに憑依した人物が中心となって今後の会議を執り行われた。


「死んだ後も商いができるなんて思わなかったわい。わしをリーダー……つまりは王の座に据えたからには、わしに従ってもらうぞ。営業も人事も広報もぜんぶ指揮するからそのつもりでおるんじゃ」


 レヴナはカリスマ性を色濃くまとっていた。お父さんのモデルである山田さんの時もだけど、いろいろな人になれてレヴナが羨ましい。


 ちょーっと心配なのは、レヴナの人格は憑依中に引き下がってしまうわけだから、みんなとレヴナ本人の距離感は縮まるのかってところ。

 闇黒四天王の時も、なんか他の3人とは雰囲気が違ったし。


「どうだ? すごかったろ?!」

 会議が終わり、レヴナが言った。

 すごいのはさっきの人だろ――――、なんて雰囲気がじんわりと漂っていた。


 とりあえずボクだけはレヴナをフォローしておく。

「すごいよレヴナ。なんでもできるね!」

 本心ではあった。


「そうか? えへへ~~」と全身をふにゃけさせるレヴナ。「力になれて嬉しいわぁ」


 いつかみんなが、しっかり1つになれるよう統べることができる、威厳ある魔王になりたい。

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