新魔王城 裏庭 闇黒四天王の反省会



■新魔王城 裏庭 闇黒四天王の反省会



 闇黒三美神、いや四天王たちは業務日報をまとめるために集まっていた。


 また結果を出せなかったようだ。彼らの誰1人として、王冠を握っている者はいない。つまりはこの後、ゴートマ様の厳しい叱責を受けるのは決定事項。


「ヤベェ……また失敗しちまった!」

 炎熱かわずのリビエーラが頭を抱える。

「敵方勇者、やべこという戦士が強力……」

 氷雪おろちのプルイーナは虚空を見つめながら呟いた。

「わたしはひたすら殻にこもってましたっ、ごめんなさいっ!」

 雷電かつゆのエクレーアは殻から顔だけ出して言った。


 3人から少し離れたところで、闇黒四天王の4人目であるイタコのレヴナが爪を噛んでいる。もともとの三美神に後から加えられたためか、1人だけ距離がある。


「俺をおいて逃げやがって。どうせ俺のことなんて、仲間と思ってねぇんだろ」

「そっ、そんなことねえってレヴナ!」

「あの状況では致し方なかった……」

「ごめんね、怒らないでねっ? ねっ、ねっ?」

「はっ! どうだかねェ……」


 そもそも闇黒三美神は魔物だ。ゴートマ様の転移魔法を受け、現世に移った際に人型となってはいるが、ゲーム由来の勇者であるレヴナとは全くの別物なのだ。目に見えない隔たりを感じるのも無理からぬところ。


「コマンドバトルに持ち込むアイデアは良かったんだけどなぁ」

「敵ですがあの芸人たちのネタも良かった……」

「プルちゃん、笑いのツボ変わってるねっ」

 いえ、とプルイーナは静かに否定した。

「あの3人の頑張る姿を見ていたら、なぜか胸が熱くなりました……。戦闘中だというのに、必死になって長い棒を探し回る彼らの姿に胸を打たれたんです。お笑いはともかく、今後ライブ等があれば足を運びたいです……」

 それは、ある意味芸人であるその3人を傷つける話ではなかろうか。知ったことではないが。

「万年寒がりのプルイーナを温めるとはなかなかやるじゃねえかアイツら。じゃなくて!」

「手ぶらでゴートマ様のとこむに行ったら怒られるっ……ってことだよねっ! こわいっ」

 エクレーアはそう言うと完全に殻の中にこもってしまった。殻の入り口に小さなシャッターが下りる。


「そういや俺、山田とかいうオッサンを憑依させた時、なんかキルコに対して重要なことを思い出したんだよな」

 レヴナがそうこぼしたとたん、闇黒三美神がズイっと彼女に詰め寄った。

「いったいなんだそりゃッ!」

「速やかに思い出してください……!」

「おねがいレヴナちゃんっ!」

 期待感たっぷりの眼差しに見つめられ、満更でも無さそうなレヴナ。

「まぁ待ちなって。ケケケケッ、慌てなくたって問題はねえさ。思い出すも何ももっかい憑依させたらそれでいいんだからよ。じゃあさっそくやるぜ? 『死穢憑依』」


 闇のマナとは少々異なる黒い気配が立ち込める。

 この世界で使われる魔法は、全てマナ由来のものだ。世界のエネルギー……、数多の色に染まりしマナを練り上げることで魔法は形を成す。


 しかしレヴナの力は変わっていた。魔法は学んできたが、死霊の云々も勉強しておこう。


 黒い気配がレヴナに集まり、溶けた。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃー! にゃーん、にゃにゃー! ……ごほん! ちょっと待てよ。失敗した」

 予想外の出来事に赤面するレヴナ。「もっかいやるから。『死穢憑依』」


 が、何度やっても、道端で車に轢かれた猫が霊界から降りてきた。どうやらプレッシャーに弱い性格のようだ。それでも幸いなことにレヴナはキルコの情報を思い出した。


「なんかアイツの尻尾攻撃、対勇者においては絶対の威力を誇るらしいわ。主人公勇者の親父を不意打ちで倒したっていう事実が、他の勇者たちにも影響してるみたいだな」


 なんと、つまりゴートマ様が身を削る思いでいくら勇者たちを現世に送り込もうと、真っ向勝負で勝ち目はないということか。


「重要な情報だ!」

「ありがとうございます……レヴナさん……」

「これで怒られないかもっ。ううん、ちょっとしか怒られないかもっ!」

「俺も一応、闇黒四天王だからな。制作者の記憶を辿ればもっと分かりそうだよな。もっかいやってみるわ」

 レヴナが固有スキルを発動させた。しかしながら、またまた轢かれた猫の魂を引き当てて。

「にゃーーーー!」


 暴れてどこかに駆けていくレヴナ。かなりの心労が溜まっていると見た。


 彼女を追いかける闇黒三美神。全く、物事の優先順位がわからない輩だ。こうしている間にもゴートマ様は現世に勇者を転送させているかもしれないことが想像できないなんて、愚かにも程度がある。


 俺はゴートマ様の元へと急いだ。先程の情報をお伝えするために。


 ゴートマ様が俺を褒めてくれたらと思うと、体の震えが止まらなかった。

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