テレポート電話ボックス

 暗闇を照らす街灯の隣にぽつんと、青白く光るガラスの箱が佇んでいる。中に入ると、じっとりとした空気が肌にまとわりついた。昼間の熱気が溜まっていたかのようだ。

 これはテレポート電話ボックス。行きたい場所を告げると、その場所に行けるらしい。そんな噂が囁かれていた。そんな面白そうなものを、僕の好奇心が放っておくはずがなかった。

 受話器を握る手に、汗がにじんだ。

「海辺に行きたい」

 すると外の景色は万華鏡のように変化して、気が付いた時にはさざなみが打ち寄せる砂浜になっていた。涼しい海風が心地良い。

 噂は本当だったんだ。

 そう思うと僕はすっかり楽しくなってしまい、次に「サバンナへ行きたい」と言ってみた。

 辺りはたちまち草原に変わった。アカシアの根元ではインパラの群れが寝息を立てている。

 それからも僕は、ヒマラヤの山麓やユーコン川の畔、ゴビ砂漠の砂丘へと旅をした。

 最後に、僕は欲張ってこんなお願いをしてみた。

「未来に行きたい」

 次の瞬間、電話ボックスは夏の夜の街灯の下に戻ってきていた。

 少し残念だったけれど、僕はささやかな冒険に満足して電話ボックスを後にした。


 実はちょっとだけ未来に帰ってきたのだけど、彼には内緒の話。

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