第5話「戦闘」

 カウントダウンが続いている。


 モニターの時刻によれば、〈クロック〉の示す時刻は八時九分四十二秒。


 今しがた大槍を投げつけたばかりの巨人は、まだ動く気配を見せていた。空に向けて、ぐぐっと腕を持ち上げている。


『コアを外していたみたいよ』

「ちぇっ、残念」


 AIの音声に短く答えながら——ヨルワタリを巨人の手前で上昇させた。巨人のひとつ目が発光するよりも先に、槍の後端を蹴りつけ、さらに深く地面に突き刺す。


「この子に触らないでよね」


 巨人に突き刺さった大槍を両手に持ち、乱暴に引き抜く。そして胸部の、緑色のコア目がけて地面ごと刺し貫いた。


 ぱぁん、と巨人が光の粒子となって弾ける。


 後には何も残っていない。陥没した地面のみだ。


 少女はすぐさまモニター上部を確認した。時刻は八時十分を過ぎたばかり。鎖のない懐中時計——〈クロック〉から放出した光を帯びた長針は姿を変えていた。今度は足のないタイプで、背部に細い放熱板のようなものを背負っている。


「十分針か」

『〈ヤリダマ〉を使用しての接近がいいわ』


 最後まで聞き終えるよりも速く、少女は空に向かってスラスターを噴かした。巨人の背部の放熱板から薄い、いくつものレーザー光が射出されるが、くるりと空中で弧を描き——下腕部に装填されている〈ヤリダマ〉を連射。


 クナイに似た、何十発ものの小型の槍。いくつかは外したが、大半は巨人のコアに命中、そして爆発。コアを破壊しきれなかったものの、明らかに動きが鈍くなる。その機を見逃さず、大槍を斜め上へと向けて、二体目のコアを深々と貫いた。


 二体目も弾ける。


 残るは〈クロック〉のみ。


 時刻は八時十一分。次の巨人を生み出すまでにまだ間がある。それに——〈クロック〉には反撃するような機能など持ち合わせていない。取り巻きの巨人さえ破壊できれば、無防備そのものといっていいのだ。


〈ヤリダマ〉で叩き落すこともできる。だが——


「弾が惜しいね」

『同感だわ』


 少女は大槍で、宙に浮かんでいるだけの〈クロック〉のど真ん中を突き刺した。文字盤ごと粉々に砕けた〈クロック〉は重力に従って落下していったが、地面に触れる前に、巨人と同じように金色の粒子となって、空気中にかき消えた。


「ふぅー……ヨルワタリ、周辺に敵は?」

『いないわ。残存反応はゼロ』

「おじさんは?」

『健在よ。モニターをご覧』


 半ば自動的にモニター画面が動き、光一の姿を捉える。少女が知る光一よりもだいぶ若かったが、それでも彼であると確信できた。


 ふと——少女の口に、押し入れから懐かしいものを見つけたような笑みが浮かんだ。やっと会えた、という感慨が胸を満たしていく。泣きたくなって、すぐに飛んでいきたくて、抱きついて——自分の名前を呼んでくれたら、どれだけ幸せだろう。


 でも、今はまだその時ではない。


 もう少しだけ、我慢しなくては。


 少女はゆっくりとヨルワタリを下降させ、地面に膝をつける。コクピットを開き、タラップを使って下り、ヘルメットを外して——光一に告げた。


「久しぶりだね、おじさん」

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