第39話 ユリウスの本気20%

 「ごめんなさい、私、手加減なんてできないの。『インフェルノケルカ』!!」


 「黒南風」の女は宣言通り、火属性の究極魔法を遠慮なくぶっ放してきた。だが、俺にはそんなもの無意味だ。


 「『デウスプロテクシオン』。」


 俺はザハール戦でも使用した、最強の防御魔法を唱えた。俺の膨大な魔力量により、「デウスプロテクシオン」は、究極魔法であっても完全に防ぐことができる。


 「なっ!!あり得ないわ!!!!!究極魔法よ!!!!!」

 「それが防げちゃうんですよ。」


 「黒南風」の女は、驚愕の表情を浮かべ、俺を鋭い眼光で睨んできた。


 「ふっ、どんな手品を使ったのか知らないけど、まぁいいわ。私を本気にさせたこと、あの世で後悔しなさい!レジェンドスキル【百錬成鋼】!」

 「おぉ、マジか、これは厄介そうだな・・・。」


 「黒南風」の女は、ついにもう1つのレジェンドスキルを使用した。スキル名を唱えた瞬間、女の全身がギラギラとした鋼色の輝きを放つ、結界のようなものに包まれた。「最高純度の鋼鉄の箱」というべきだろうか。


 「これこそ、『極鋼』を遥かに超える強度の『天鋼』でできた防御結界よ。さすがのあなたでも、太刀打ちできないでしょ?」


 「黒南風」の女は、完全に勝ち誇ったように俺を見下している。だが、そんなことよりも、俺には気になることがある。


 「フィオナさんや、『天鋼』って何かね?」

 「えっ、ユリウス、それも知らないの!?」


 ・・・だって、「説明書」に書いてないんだもん!「極鋼」は日雇いの仕事で聞いたことがあるけど、「天鋼」は初耳なんです!


 「すみません・・・。」

 「はぁ・・・。『天鋼』はこの世界における最高純度金属の1つよ。究極魔法すらも防ぐ硬度を有しているの。」


 フィオナは呆れながらも、いつも通り簡潔に説明してくれた。非常にありがたい。


 ・・・というか、究極魔法すらも防ぐとか、チートすぎるだろ。まぁ、俺が言えたもんじゃないけど。


 「というか、何であのスキルを使わないの?あれを使えば、一瞬でしょ?」

 「そうだけど、あれは本当にヤバイときの切り札って決めてるから。」

 「ふ~ん。・・・ただ、あまり手加減しない方がいいと思うけど。」


 フィオナは俺を心配してくれているのだろう。変なプライドのせいで、俺が負けてしまわないのか、危惧している感じだ。


 「分かってるよ、心配してくれてありがとう。」

 「べ、別に心配しているわけじゃないわよ!」


 ・・・うんうん、ツンデレ、ごちそうさまです。


 まぁ冗談はさておき、この世界の最高純度金属を相手にするんだ。俺もちょっと本気で、魔法をぶっ放してみるか。実は、ザハール戦のときは、本気で魔法を使えなかったのだ。アジトが崩壊して、フィオナを危険に晒したり、「黒南風」が潜伏していた貴重な証拠を壊したりするのを、どうしても避けたかったから。

 

 しかし、ここは大森林アルゲンティムだ。火属性魔法以外なら、ど派手にぶっ放しても大丈夫だろう。それに、「極鋼」の依頼のときに、土属性魔法が金属には有効だと分かっている。土属性ならお構いなしに、使えるから安心だ。そういえば、この世界のあらゆる金属には、土属性が有効って「説明書」にも書いてあったな。


 「この私は、この世界の最高レベルの防御結界を張っているの。あなたごときの攻撃なんて、すべて無効よ。」

 「それはどうかな?」


 俺は全身を巡る魔力に意識を集中させた。本気といっても、全力100%はさすがに大森林ごと消滅しそうだから、やめておく。


・・・ザハール戦のときが10%ぐらいだったから、今回は倍の20%ぐらいでやってみるか。


 俺は膨大な魔力を調整し、魔力の純度を上げていった。もちろん、この隙に攻撃されると困るので、超高速でだけど。ちなみに、フィオナに付与した魔力も、かなり純度を上げている。だから、先程の「ネージュアバランチ」もえげつない威力を発揮したのだ。


 「さて、それじゃあ、俺の魔法とお前のレジェンドスキル、どちらが強いのか、はっきりさせようか。」

 「何を分かり切ったことを。この結界は・・・」

 「『セウエルドベーベン』!!」

 「「「えっ!?」」」


 俺の本気20%の魔法を見るや否や、「黒南風」の女だけでなく、フィオナとレティシアも驚きの声をあげた。ただ、俺自身も正直、まさかここまでの威力になるとは思わなかった。


 土属性の究極魔法である「セウエルドベーベン」は、対象物に魔力量に比例した強烈な上下振動を与えるものだ。そして、物体はその凄まじい振動に耐えられず、内側から崩壊していくのだが・・・。


 「いや~、やりすぎたな・・・。」


 俺の目論見通り、レジェンドスキル【百錬成鋼】による結界を破壊することには成功した。「天鋼」は究極魔法でさえも防御するというが、それは通常の魔力量の話だ。俺みたいな人外の魔力でぶつければ、一瞬で粉々になってしまうというわけである。ただ、それよりも・・・。


 「ユリウスって、やっぱり人外だと思う・・・。」


 フィオナは、美人な顔を思いっきり引き攣らせて、俺と一緒に眼前に広がる光景を見ている。


 『天鋼』の中とは言え、「黒南風」の女にもその猛烈な振動が加わったのだろう。完全に伸び切っている。そして、その後ろでは、振動の余波が地面に伝わったのだろう、大森林の一部が大きく隆起し、巨大な「山」を形成した。


 「いや~、まさか土地が隆起するなんて・・・。ナハハハハハ・・・。はい、すみません・・・。」

 

 笑ってごまかそうとしたが、フィオナにギロッと睨まれたため、すぐに謝った。マジですみません。


 ちなみに、レティシアは、目の前で何が起こった出来事に脳の処理が追い付いていないのだろう、立ったまま気絶していた・・・。


 ・・・レティシアって、めちゃくちゃ面白いな。これからも顔芸とかで楽しませてもらおう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る