第35話 新たな出会い

 女神から貰った「説明書」やナターシャの話によると、閻魔種は「人魔戦争時代」に魔族側がつくった要塞、―それが「ダンジョン」と呼ばれるものだが― にのみ生存しているそうだ。そもそも、「人魔戦争時代」とは、今から数万年前、人類と魔族が激しく対立・衝突し、生存をかけて長年争っていた時代のことを言うらしい。その時の人類の切り札が勇者であり、魔族の支配者が魔王であったというわけだ。そして、その魔族たちが使役していた魔獣や魔物は繁殖能力が高く、現在も人類の敵として恐れられている。


 大森林アルゲンティムには「ダンジョン」が存在しないため、本来、閻魔種が出現することはない。しかし、俺が倒した「インペリアル・エイプ」を含め、様々な閻魔種が目撃されているらしい。つまり、簡潔に言えば、ナターシャからの特別任務は、大森林アルゲンティムに出現する閻魔種の原因究明とその解決というわけだ。


 ・・・はぁ、マジで面倒くさい。


 ナターシャの計らいというか、宰相への圧力で俺とフィオナは、特別任務が終わるまで、宮殿『エルダグラード』の賓客部屋で過ごすことになった。さっさとこの任務を片付けて、首都での物見遊山に耽りたいは、早速大森林アルゲンティムに向かうことにした。ただ、首都キングヴァネスから大森林アルゲンティムまでに向かう馬車はないようだ。


 「どうするの?今から歩いて向かったとしても、到着した頃には夜だと思うけど・・・。」

 「だから、裏技を使う。」

 「え、裏技?」


 フィオナの言う通り、徒歩で向かえば、到着したときにはすっかり日が暮れて、真っ暗な森の中での調査となってしまう。だからこそ、裏技の出番なのだ。


 「インビジブルザラーム!」


 俺はフィオナと自分に不可視魔法をかけた。そして・・・


 「ヴォルフライト!」


 同様に飛行魔法をかけ、俺とフィオナは空へと浮かんだ。


 「ちょ、え、まさか・・・!!」

 「よし、行くぞ~!」


 俺はフィオナを連れて、全速力で大森林アルゲンティムまで向かった。


 「ちょっ、はや、ま、まって~!!!!!と、とめて~!!!!!」


 フィオナが涙を流しながら何やら叫んでいるが、気にしない気にしない。これが一番早く着く方法なのだ、多少の怖さは我慢してもらおう。



 案の定、わずか15分ぐらいで、俺が転生して最初に降り立った場所に到着した。


 「ゆ、ユリウス、ぜ、絶対に、謝っても、ゆ、許さないんだから・・・。」


 フィオナは相当怖かったのか、生後間もない小鹿のように、足を震わせながら、俺を睨んでいる。


 「ごめんって。でも、これが一番早く着く方法だったんだから、仕方ないだろ。」

 「そ、そうかもしれないけど、私にも、こ、心の準備が必要でしょ・・・。」


 ・・・いや、まぁ、確かにそうかもしれませんね。すみません。


 俺はこの猛スピードでの飛行に慣れているから全然問題ないが、フィオナにとっては初の超高速飛行魔法だったのだ。少しやり過ぎたかもしれない。


 「すまん、次からはもっとスピードを落とす。」

 「約束だからね・・・。」


 しばらくして、フィオナの足の震えが止まったため、いよいよ大森林アルゲンティムに入ることにした。


 「とりあえず、この前『インペリアル・エイプ』がいたところに行ってみるか。」

 「確かに、その周辺に他の閻魔種もいるかもしれないし。」


 俺とフィオナは、かつて『インペリアル・エイプ』を打倒した場所まで行き、そこを中心として調査を始めることにした。鬱蒼と茂る草木をかきわけながら進んでいくと、突然フィオナの足が止まった。


 「どうした?何か見つかったか?」

 「ユリウス、これ見て。」


 フィオナが指差す地面を見ると、血痕があった。鮮明な紅赤であるため、比較的新しいものだろう。よく見ると、点々と同じような血痕がこの先まで続いており、怪我を負った何者かがこの先に進んでいったと思われる。


 「魔獣に襲われたのかもしれないな。先を急ごう!」


 俺とフィオナは、全速力で血痕を辿っていった。すると、数十m先の方から悲鳴のような声が聞こえた。


 ・・・クソ!!何とか、間に合ってくれ!!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 悲鳴が聞こえた場所に着くと、そこでは1人の可憐な少女が、巨大な蜘蛛の魔獣に襲撃されているところだった。魔獣は『インペリアル・エイプ』と同様の巨体を持つ、タランチュラによく似た化け物だった。口から栗色の糸を吐き、右腕から血を流している少女をガチガチに拘束していた。そして、まさに今その少女が食べられそうになったいた。


 「だ、だれか、助けて~!!!!」

 「ファイアーボール!!」


 俺は森林を燃やさないように細心の注意を払いつつ、蜘蛛の魔獣の顔面にファイアーボールをぶつけた。すると、蜘蛛の前半分全てが吹き飛び、そのまま魔獣は息絶えた。


 ・・・えぇ、『インペリアル・エイプ』のときよりも威力を抑えたんですけど・・・。


 「大丈夫か?」


 俺は限界まで威力を抑えたファイアーボールを手に乗せ、その熱で少女を縛っている糸を燃やした。その後、右腕以外にも色々と怪我をしていたみたいなので、回復魔法の「エクセレンテクラーレ」をかけた。


 「す、すごい・・・。」


 少女は何が起きたのか分からないという感じだったが、すぐに目をキラキラと輝かせて、俺をマジマジと見始めた。


 「ユリウス、間に合った!?って、なにこれ!!!!!」


 俺の方が、身体強化がある分、この現場に早く到着しており、フィオナは今着いた感じだ。それでも、常人より相当早いと思うが・・・。俺がプレゼントしたブレスレットの効果もあるのかもしれない。


 「こ、これ、ユリウスがやったの?」

 「あぁ、そうだよ。頭部に『ファイアーボール』をぶつけたら、そのまま上半身ごと吹っ飛んだんだ。」

 「あはははは・・・。それはすごい・・・。」


 俺の言葉を聞くや否や、フィオナは急に遠くを眺め出した。そんなにあり得ないことなのだろうか・・・。


 「この魔獣は、閻魔種なのか?」

 「・・・えっ、知らないで倒したの!?」


 ・・・だって、『説明書』には魔獣の種類しか載ってないんだもん!


 正気に戻ったフィオナは、驚き呆れながらも答えてくれた。


 「コイツは、閻魔種の『レクス・アラクネ』で、『インペリアル・エイプ』と同等の強さを誇る魔獣と言われているわ。」


 俺の予想通り、この魔獣は閻魔種だったか。ナターシャの言う通り、やはり大森林アルゲンティムで何か異常事態が起こっているのだろう。


 「で、その女の子が怪我をしていた子なの?全然、怪我してないようだけど・・・。」


 フィオナは、俺の横に立つ少女に目を向け、聞いてきた。


 「そうだよ。怪我をしていないのは、俺がさっき回復魔法をかけたから。」

 「なるほど。」


 よく見ると、この女の子は、フィオナと同じようにめちゃくちゃ美少女だ。透き通る碧い眼、美しく煌めく金髪、華奢な体躯、まさに「アイドル」というべき少女だろう。年齢は15~16歳ぐらいだろうか。ただ、服装はお世辞にも綺麗とは言えない。ところどころ破れたボロボロの服を着ており、靴すら履いていない。


 「君、名前は?」

 「・・・・・・レティシア・ミナージュ。」


 少女―レティシア― は、名前を言うかどうか迷った感じだったが、覚悟を決めたように名乗った。


 「え、ミナージュ?もしかして、あなた、ミナージュ家の人なの?」


 フィオナはレティシアの家名を知っているようで、かなり驚いた様子だ。そして、フィオナの問いに対し、レティシアは静かに頷いた。

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