第2章

第30話 キングヴァネス到着

 俺とフィオナは、ザハールたちを捕縛した褒賞金を貰うため、プロメシア連邦国の首都キングヴァネスに向かっている。改めて確認すると、俺が転生した場所は、プロメシア連邦国を構成している州の一つ、リヴァディーア州だ。そして、ずっと滞在していたのが城郭都市レミントンとなる。プロメシア連邦国は、リヴァディーア州、ザラヴェイユ州、インフェルヴルム州の3州から構成されており、インフェルヴルム州に首都キングヴァネスが置かれているようだ。


 プロメシア連邦国の国王ドロテオが用意してくれた、乗り心地抜群の護送用馬車に揺られ、レミントンを出発してから1時間ぐらいが経った。


 「・・・いや、いつまで泣いてんの?」


 俺は、隣でまだ涙を流すフィオナに若干引いていた。さすがに、1時間泣き続けるのはヤバいだろ・・・。


 「ユ、ユリウスは悲しくないの!?この人でなし!!」

 「いや、俺だって辛いけど、さすがに1時間は泣きすぎだろ・・・。というか、誰が『人でなし』だよ。」


 豪華な馬車の中で、不毛な言い争いをしていると、御者の騎士2人の話し声が聞こえてきた。俺はフィオナに静かにするように言い、二人の会話に耳を澄ませた。


 「おい、後ろでの奴らって、『モノ』らしいぞ。」

 「えっ、本当かよ!?『黒南風』の一つの部隊を捕まったっていうから、凄いスキルや魔法を使えると思ってたのに・・・。『モノ』に褒賞金を与えるとか、税金の無駄遣いにも程があるだろ。」

 「それな。どうして、俺たちが『モノ』の護送をしないといけないんだか・・・。歩いて、首都まで来させればいいのにな。」

 「それ名案。」

 「「アハハハハハ!!」」


 ・・・国王直属の騎士でも、『モノ』に対する差別意識がかなりあるのか。


 「はぁ・・・。『モノ』への差別は相当根深いんだな。」

 「『モノ』は、魔力量が圧倒的に少ないし、スキルもエクリプス以下が当たり前だから・・・。どうしても、蔑視の対象になってしまうんだと思う。」


 俺は、『モノ』に対する偏見や差別の解消が非常に難しい問題だと、痛感した。ただ、ここで護送用馬車を先導する、白銀のゴツイ馬に乗ったオズヴァルド財務卿が御者の2人に、凄い剣幕で近づいてきた。


 「騎士たる者が差別発言をするとは何事だ!!!」

 「「ひっ、す、すみません!!!!」」


 オズヴァルドの鋭い目つきから繰り出される威圧と、痺れるような怒声に、御者の2人はたじろいだ。


 「それに、スキルの数や魔力量で、その人の価値が決まるのではない。そこを、決して忘れるな!!」

 「「は、はい!!!!」」


 御者の2人の返事を聞いたオズヴァルドは、「やれやれ。」と言い残し、こちらに一礼して、再び護送用馬車の先頭に立った。


 「いや、オズヴァルド財務卿って、めっちゃ良い人じゃん。」

 「えっ、ユリウス、オズヴァルド財務卿のこと知らないの?」


 オズヴァルドの言動に感動していた俺だが、フィオナはそこまで驚いていない感じだ。むしろ、俺がオズヴァルドを知らないことに驚嘆している。


 「えっ、何?有名人なの?凄い人なの?」

 「凄いというか、『三賢者』の一人でしょ?本当に知らないの?」

 「初耳です・・・。」

 「えっ、嘘でしょ!?『モノ』に対する差別や偏見をなくすために、ルーカス・ガルシアと協力して、色んな政策を打ち出しているから、当然知っていると思ってたんだけど・・・。」


 フィオナの冷ややかな視線が痛い。しかし、国家の中枢にオズヴァルドのような人物がいることに驚きだ。


 「すみません・・・。全然知らないです。」


 キングヴァネスまでの道中、俺はフィオナにオズヴァルドの功績や政策、ルーカス・ガルシアとの関係を教えてもらった。


 ・・・オズヴァルドさん、マジ半端ないっすね。尊敬しますわ。


 俺はオズヴァルドの背中を見ながら、最大限の敬意を表した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 レミントンからキングヴァネスまで、王族専用の街道を通ったこともあり、わずか5時間くらいで到着した。


 キングヴァネスの検問所の兵士たちは、オズヴァルドを見るなり、頭を深々と下げていた。俺たちは来賓扱いなので、特に何も提示することなく、素通りできた。凱旋門のような巨大な石門を抜けると、まさに首都と呼ぶに相応しい街並みが広がった。


 キングヴァネスは、レミントンの数百倍の城郭都市のようだ。聳え立つ建物は、摩天楼と呼ぶべきものがほとんどで、街を歩く人々の数もレミントンとは比べ物にならない。東京やニューヨーク、ロンドンなどと比較しても、遜色ない首都と言える。


 「これは、すごいな・・・。」

 「私も2回目だけど、やっぱり圧倒される・・・。」


 俺とフィオナは、キングヴァネスの都会さに愕然とした。プロメシア連邦国の首都というだけあり、見るもの全てが輝いている。時間があれば、是非とも色んな場所を見て回りしてみたい。


 「ユリウス、あれが今から私たちが行くところ。」


 フィオナは馬車の窓から一つの建物を指差した。その方向を見ると、キングヴァネスの中央部に、威風堂々と佇む巨大な宮殿があった。ヴェルサイユ宮殿の外観に近く、まさに貴族や王族が住むところという感じの建物だ。


 「まさか、あれがプロメシア連邦国の宮殿?」

 「正解。」


 ・・・マジか、めちゃくちゃ豪華な宮殿じゃん。急に緊張してきたんですけど。心臓が口から飛び出そう。


 「えっ、あんな立派なところに俺たち行くの?」

 「当たり前でしょ?国王から直々に褒賞金を貰える機会なんて、一生に一度もないんだから。」


 確かに、一般人の俺が、国王に謁見できる機会なんてまずない。だから、本来は喜ぶべきなのだろう。しかし、貴族の挨拶など全く分からない。それに、国王の前で変なことすれば、最悪、死刑になるかもしれない。


 ・・・いやいや、一般人がこんな豪華な宮殿に入るなんて、無謀すぎるだろ。即死の罠かよ。


 俺は一気に帰りたくなったが、もう後戻りできないので、なるべく穏便に事を済ませようと誓った。


 キングヴァネスに入って、30分ぐらい経っただろうか。ついに、プロメシア連邦国の国王が住まう宮殿前に到着した。宮殿の入口には、屈強な騎士、可憐なメイド、礼儀正しい執事が何十人体制で出迎えてくれた。


 「ユリウス殿、フィオナ殿、お待ちしておりました。」


 到着するや否や、黒の執事服を着た、長身で白髪頭の男性が馬車の扉を開けた。


 「私は、このプロメシア連邦国が誇る宮殿『エルダグラード』で執事長を務めている、ギオンと申します。以後、お見知りおきを。」


 ギオンと名乗った執事長は、うやうやしく一礼した。


 「あぁ、これはご丁寧にありがとうございます。改めまして、自分はユリウスと申します。この度は、何卒よろしくお願いします。」

 「私はフィオナと申します。様々なご配慮、感謝申し上げます。」


 俺とフィオナは馬車からサッと降り、急いでギオンに挨拶をした。ギオンは、優しい笑顔で対応してくれ、まさに「好々爺」と呼ぶにふさわしい人物だ。しかし、何だろう・・・。よく分からないが、俺の中の何かが、油断してはいけないと警鐘を鳴らしている。


 ・・・何だ、この感覚は?ザワザワするというか、何というか・・・。


 確かに、ギオンは年齢の割に筋肉がしっかりしており、鍛えているのが分かる。ただ、それは健康や若さを維持するためであり、何か他に理由があるとは考えにくい。それに、プロメシア連邦国の国王が住む宮殿で執事長を務める人が、危険人物であるはずがない。俺の気のせいだろう。あまりに緊張しすぎているのかもしれない。


 「では、早速で申し訳ないのですが、国王陛下がお待ちしている『迎賓の間』に、ご案内いたします。」


 ギオンに連れられ、俺たちはいよいよ、宮殿の中へと足を踏み入れた。ギオンとオズヴァルドが俺たちの前を歩き、複数の騎士が列全体を護衛する隊形だ。


 宮殿内は、外観と同じく豪華絢爛で、あらゆる装飾品が素人である俺でも、一級品であることが分かる。一つ一つの廊下が異常に広く、「迷ったら、一生出られないのでは?」と思うほど、色んな部屋が用意されている。


 「到着いたしました。ここが『迎賓の間』でございます。」


 ギオンは、緋色で染められた大きな扉の前で立ち止まった。そして、両開きの扉前で直立していた騎士4人が、ギオンと俺たちを確認すると、左右それぞれの扉を2人がかりで開け始めた。


 いよいよ、国王に謁見するのかと思うと、かつてないほど緊張してきた。不安になり、横を見ると、フィオナも何度も深呼吸している。


 「では、中へお進みください。」


 ギオンに促され、俺たちは国王ドロテオが待つ「迎賓の間」に足を踏み入れた。

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