第19話 火災事件の犯行グループ

 「でもまさか、ユリウスさんがそこまでの実力者とは・・・。5分で2つの依頼を達成したときも、とんでもない人物だと思いましたが・・・。それを遥かに上回る功績ですね。公表すれば、爵位を授けられるのでは?」


 エルマさんは、「ウェグザムの奇跡」を俺一人で成し遂げたことに、非常に驚いているようだ。そんなに凄いことなのか・・・。俺には、その実感がないんだが・・・。というか、授爵なんて絶対に嫌ですけど!公表してたまるか!


 「まぁ、ユリウスの魔力量は『ウィザード』に匹敵するから。」

 「えっ!?」

 「ちょ、おい!」

 「あっ!・・・ごめん。」


 ・・・やっちまったな、フィオナさん!それは言っちゃいけないやつよ。


 うっかり口を滑らせたフィオナは、申し訳なさそうに俺を見ている。一方、「ウィザード」という言葉に反応したエルマさんは、驚愕の表情を浮かべ、少しだけ後ずさりした。


 「えっ・・・ユリウスさん・・・『ウィザード』なんですか・・・?」


 エルマさんの質問に、俺はどう答えるべきか、一瞬悩んだ。ただ、「ウェグザムの奇跡」の件がバレている以上、逆に『ウィザード』ということを否定する方が怪しまれるだろう。そのため、正直に話すことにした。


 「じ、実は、そうなんです・・・。」

 「・・・・・・・」


 エルマさんは驚きのあまり、言葉を失った。そこまで驚かれるとは・・・。


 「私からバラしておいてなんだけど、このことは秘密でお願い。ユリウスには、何か言えない事情があるっぽいから。」

 「そうですね、他言無用でお願いします。」

 「・・・・・・あ、はい、分かりました。絶対に、誰にも言いません。お約束します。」


 エルマさんは吃驚しながらも、強く頷いてくれた。本当に良い人だ。


 「・・・あれ?そういえば、最初にユリウスさんのステータスカードを確認した際、魔力量は1万もなかったと思うのですが・・・。」


 ・・・ギクッ!!やばい、「リューゲフィケイション」を使っていたのを忘れてた!!


 「えっ、そうなの?でも、私のスキル【魔力感知】で調べたときには、異常に高かったんだけど・・・。」

 「いえ、たぶん、私の見間違いですね。仕事で目が疲れていたんだと思います。」


 ・・・良かった~!!あぶねぇ~!!ギリギリ、セーフ!!


 ただ、ここで「そう、見間違いですよ。」なんて言えば、確実にエルマさんのスキル【虚偽看破】の餌食になってしまう。ここは、話題をすり替えるのが賢明だろう。


 「そういえば、フィオナは『ウェグザムの奇跡』の話をしに来たんだっけ?」

 「あっ!確かにそれもあったけど、それは2番目の目的。1番の目的は・・・。」


 フィオナは大きく深呼吸して、再び真剣な目で俺を見つめた。さっきまでの雰囲気から、ガラッと変わったので、俺も少し緊張した。フィオナが来た、本当の目的は一体何なのか。


 「ユリウス、私と一緒に戦ってほしい。」


 全く予想していない言葉に、俺は一瞬思考が止まった。


 ・・・えっ、戦う?どういうこと?


 「えっ、ごめん、よく聞こえなかった。何て?」

 「私と一緒に戦ってほしい。」

 「・・・・・・・マジで、どういうこと?何と戦うの?」


 フィオナの表情から、その発言が冗談じゃないってことは容易に分かる。ただ、「一緒に戦う」というのがよく分からない。何か厄介な魔獣を一緒に討伐しに行ってほしいのだろうか。それこそ、閻魔種とか。


 「何から話すべきか、すごく迷うんだけど・・・。今回の火災事件で炎上した全ての建物に共通する点が大きく二つあるんだけど、分かる?」


 ・・・共通点?比較的大きな建物が多かった感じだけど、それ以外に何も思い当たらないな。


 「いや、全然分からない。建物自体は、ある程度大きかったと思うけど。」

 「確かに、建物は比較的大きかったと思う。でも、それは共通する点の一つ目の結果に過ぎないの。」

 「ん?どういうことだ?」

 「共通点の一つ目は、裕福な家だったってこと。だから、家屋も比較的大きかったの。ちなみに、独身の人もいたけど、ほとんどが家族で住んでいたらしい。」

 「なるほど。」


 ・・・裕福な家が狙われたのなら、お金持ちに対する恨み・妬みが火災事件の発端かもしれないな。


 「それで、二つ目は?」

 「共通点の二つ目は・・・・・・・どの家も世帯主が、『モノ』だったってこと。」

 「・・・えっ!?」


 ・・・どういうことだ?裕福な家で、「モノ」?


 「ちょっと待ってくれ!・・・言い方は不適切かもしれないけど・・・、その・・・『モノ』って、そこまで裕福になれるのか?差別や偏見が、昇進とかの大きな障害になるんじゃ?」

 「あまり知られていないけど、『モノ』だからこそ、必死に努力して、お金持ちになる人は一定数いるの。ただ、『モノ』ということが裕福になる前にバレてしまうと、かなり難しいと思う。」

 「そうなのか・・・。」


 ・・・「モノ」の人たちは、スキルが1つしかないという事実を、できる限り隠しながら、社会の中で頑張らないといけないのか。やはり、「モノ」に対する社会通念を打破する必要があるな。


 「今まで頑張って稼いだお金で、やっと大きな家を買うことができたのに、それが一瞬で水の泡になったのか。」

 「そういうこと。」


 ・・・火災事件を仕掛けた犯行グループが一刻も早く捕まってほしいけど、フィオナの話を聞いて、結構ムカついてきたな。わざわざ、裕福な「モノ」の家を狙うなんて、悪質すぎるだろ。この手で、ぶっ飛ばしてやりたいな。


 「警察隊は、一体何をしてるんだろうな。さっさと、犯行グループを捕まえてほしいんだが。」

 「実は・・・・・・犯行グループに心当たりがあるの。」

 「・・・・・・えっ!?」


 フィオナの衝撃発言に、俺は驚きを隠せなかった。え、今何て言った?


 「ごめん、俺の耳が悪くて、『犯行グループに心当たりがある』って聞こえたんだけど、絶対に聞き間違いだよな?もう一度言ってくれ。」

 「私は、ちゃんとそう言ったんだけど?」

 「いや、マジですか・・・。」


 フィオナから飛び出した驚愕の言葉に、俺はフィオナの正体がとても気になった。本当は、フィオナは諜報部隊に所属しているエージェントなのだろうか・・・。


 「具体的には?」

 「・・・もしかして、『黒南風』ですか?」

 「さすが、エルマ。」


 これまで俺たちの会話を静かに聞いていたエルマさんだったが、フィオナの衝撃発言に思い当たる節があったのか、「もしや」という顔で答えた。


 ・・・クロハエ?なにそれ、黒い蠅のこと?蠅が火事を起こしたの?どんなにデカい蠅なんだ・・・。


 「恐らく、同時多発火災事件は『黒南風』の構成員、その中でもウェグザムに潜伏している奴らが起こしたものだと思う。」

 「確かに『黒南風』なら、火災事件の内容に納得がいきます。」


 フィオナとエルマさんは、二人で真剣に話している。一方、俺は全く会話についていけてない。そもそも、「クロハエ」が何なのかよく分からない。構成員というワードが出たってことは、蠅ではなく、何かの組織なんだろう。どういう組織なのか、全く分からないけど・・・。


 「あのー、ちょっといいですか・・・。」

 「何?今、大事な話を・・・」

 「『クロハエ』って、何?」

 「「えっ!?」」


 フィオナとエルマの声が綺麗に重なった。知らないのは、そこまで驚くことなのか。


 「え、ユリウスさんって、本当に『モノ』なんですよね?」

 「あ、はい。」

 「『モノ』なのに、『黒南風』を知らないって・・・。どういう生き方をしたら、そうなるの?」


 エルマさんとフィオナは、「コイツ、マジかよ。」という冷めた眼差しで俺を見てくる。


 ・・・そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか!!知らないものは、知らないんだもん!!


 「あははは・・・。世間知らずな者で・・・。」

 「いや、世間知らずの域を超えてると思いますが・・・。」


 ・・・エルマさん、やめて!そんな汚物を見るような目で、俺を見ないで!


 「はぁ・・・。仕方ないわね・・・。『黒南風』は、数十年前に登場したスキル至上主義を掲げる裏組織の名前。特に、スキルの質と量に固執していて、弱いスキルを持つ人々や『モノ』たちを劣等種扱いしているの。」


 フィオナは溜息をこぼしながらも、簡潔に教えてくれた。フィオナの説明通りなら、「黒南風」は「モノ」への差別・偏見を助長している存在とも言える。つまり、俺の天敵だ。それに「優生思想」を掲げる連中を、決して認めるわけにはいかない。


 「『黒南風』の信念はただ一つ、弱いスキルを持つ人や『モノ』の淘汰です。だから、強力なスキルを2つ以上持つ人、上位魔法を使える人などを次々にスカウトして、その勢力を次第に伸ばしているんです。そして、自然淘汰を大義名分に、これまで何万人もの『モノ』の人々を虐殺しています。」


 エルマさんは、唇を噛み締めながらそう言った。信念といい、行動といい、相当危険で極悪非道な差別集団・テロ集団だな。何としてでも、壊滅させなければ。


 「なるほど。・・・でも、その『黒南風』がこの前の火災事件を起こしたっていう根拠はあるのか?」


 「モノ」を目の敵にしている「黒南風」には、十分な犯行動機がある。ただ、「黒南風」が起こしたという確たる証拠があるのだろうか。


 「物的な証拠はないんだけど、火災事件の現場すべてを回って、当時の目撃者とかに聞き取り調査をしたの。」

 「え、すごいな!それで?」

 「そしたら、5人の目撃者から、『大きな爆発音がしてすぐに外を見たら、黒い奇妙な仮面をかぶった人たちが数人、全速力で遠くの方に走っているにを見かけた。』っていう証言を得たの。」

 「・・・黒い仮面?」

 「『漆黒の仮面』と呼ばれる黒くて不気味な仮面は、『黒南風』構成員の証とされています。」

 「・・・なるほど。」


  状況証拠に過ぎないが、5人もの目撃者が、その「漆黒の仮面」をつけた人物を複数人見たと証言しているのだ。おそらく、間違いないだろう。


 「でも、フィオナ。聞き取り調査なら、警察隊もしていますよね?彼らがもうすでに、逮捕に動いているんじゃないですか?」


 エルマさんの言うことには一理ある。フィオナでしか手に入らない情報というわけでもない。まだ情報が出回っていないだけで、すでに、警察隊がウェグザムに潜伏する「黒南風」の構成員を逮捕しているかもしれない。


 「もちろん、レミントンやウェグザムの警察隊も、『黒南風』による犯行だって気づいていると思う。ただ、警察隊も、一枚岩とはいかないから・・・。」

「というと?」


 ・・・まぁ、何となく予想はできるが、一応聞いておこう。


 「警察隊の中には、『黒南風』の構成員と裏で繋がっていて、逮捕しないかわりに、色々と金品を賄賂として受け取っている人が、一定数存在しているから。」


 ・・・予想通りだな。裏組織と一部の国家権力が陰で繋がっているなんて、よくある話だ。


 「なるほど、だから警察隊もあまり逮捕に積極的じゃないのか。」

 「そういうこと。特に、都市が大きくなるほど、裏との繋がりが深いから、レミントンやウェグザムの警察隊は他のところのよりも、かなり消極的かも。」


 警察隊に相当の不満があるのか、フィオナはかなり呆れた様子だ。一方、エルマさんは、初めてそのような裏世界の話を知ったこともあり、茫然自失となっていた。まぁ、信じられないわな。


 「それにしても、フィオナはよくそこまで知っているな。どうやって、情報収集してるんだ?」


 お世辞抜きで、フィオナの情報収集能力は凄まじい。単独で「黒南風」の犯行まで辿り着いたし、警察隊の裏事情まで知っている。探偵というよりも、情報屋に近い感じだ。やはり、どこかの国のエージェントか?


 俺の質問に、フィオナは無言のまま、しばらく俯いていた。しかし、その後、何かを覚悟したかのようにパッと顔をあげ、俺とエルマさんの目を真剣に見つめた。一気に緊張が漂い始め、雰囲気も引き締まった感じだ。


 「・・・エルマにもまだ言ってなかったけど、今ここで、私が旅をしている本当の目的を伝える。」

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