第2話 初めての魔法

 神の手違い(?)によって、草原の中に転生させられた俺は、再び絶望に打ちひしがれていた。


 「おいおい、マジかよ。鬼畜すぎるだろ、あのアホ女神。どれだけ性格悪いんだよ。もう引くわ。」


 俺の異世界生活は、早くも終焉を迎えようとしているのかもしれない。


 だが、ここで俺は、この世界は科学技術ではなく、「魔法」が発展した異世界だと思い出した。


 「ちょっと待てよ!俺には、よく分からないスキルがあったな。それに魔法だって、もしかしたら使えるかもしれない!」


 ・・・うん、俺は絶望の淵から舞い戻る天才かもしれないな。


 というわけでは、俺はつい先程、プロ投手顔負けのストレートで地面に叩きつけた説明書を優しく拾い上げる。


 「スキルや魔法に関するページは、どれどれ・・・」


 俺は再び説明書の目次から「スキル及び魔法について」というページを開いた。

 その内容を簡潔にまとめると、次の通りだ。  


<スキルについて>

・スキルは各個人特有のもので、同じ時代に同一のものは存在しない。

(※しかし、とあるスキルをもつ人が逝去すれば、その人と同じスキルをもつ人が誕生する場合がある。)

・この世界の約90%の人がスキルを2つ以上獲得している。

・転生者はスキルを1つしか獲得できない代わりに、身体能力がかなり強化されている。

・スキルに使用回数制限はないが、魔力がゼロになると、スキルは使えなくなる。

・スキルは、個人情報登録カード(通称:ステータスカード)で確認できる。

・スキルは、その能力の強さに応じて、アンコモ、クラウン、エクリプス、レジェンド、ゴッドに分けられる。


<魔法について>

・この世界には、火、水、土、雷、風、闇、光の7属性の魔法が存在する。

・火<水、水<雷、雷<土、土<風、風<火、という関係になっている。

・火、水、土、雷、風、闇、光の7属性の魔法は、下位魔法と上位魔法に分かれている。

・下位魔法は、レベルに応じて、初級魔法、中級魔法、上級魔法に分けられる。

・上位魔法は、レベルに応じて、超級魔法、究極魔法、創始魔法に分けられる。

・魔法は、個人に宿った魔力を媒介に使用するが、適性のない魔法は使えない。

・使用する魔法の名前を唱えることで、魔法を放つことができるが、魔力が不足していると使えない。

・使用可能な魔法の種類や個人の魔力量は、ステータスカードで確認できる。



 俺は説明書を読みながら、魔法が本当に使えるという好奇心を抑えられずにいた。


 「やべぇ~、早く魔法使ってみたいな~。」


 だが、魔法を使う前に一つ、調べておきたいものがある。


 「『ステータスカード』って、何だ?」


 そう、スキルや使用可能魔法、魔力量を把握できる超重要なアイテムのようだが、このページには全くその説明が載っていないのだ。そこで、俺はもう一度目次のページをめくり、目次の最後の方に「個人情報登録カード(ステータスカード)について」という項目があるのを見つけた。俺はすぐにそのページを開け、一文一文、丁寧に読み進めた。


 「えーと、個人情報登録カード(以下、ステータスカード)は、この世界における、非常に大切な身分証です。街の中に転生した場合は、ポケットの中にステータスカードが入っているので確認してください。万が一、草原や森林の中に転生した場合は、周囲3㎞以内のどこかにステータスカードが落ちています。はい、頑張って、探しましょう(笑)!」


 ・・・もうこのパターン、何回目?もう死にたくなってきたんですが・・・。


 ここに来て、転生後、俺の最初の目標が明確になった。そう、俺の最初の目標は・・・「自分のステータスカードを見つけること」だ!


  う、うぅ・・・、み、惨めすぎる・・・。


 涙を堪えながら、俺はステータスカードの捜索に向けて動き出した。


 「俺の周囲にカードっぽいものは落ちてないし、やっぱりこの森の中か、向こうの草原の方かな。」


 残念ながら、俺の近くにステータスカードは落ちていなかった。となると、俺の右手に見える鬱蒼とした森林か、左手に見える広大な草原かのどちらかに落ちているのだろう。

 ただ、説明書に書いてあったように、草原や森林の中には魔物や魔獣などのモンスターが数多く棲息している。万が一、遭遇したら、確実に殺やられるだろう。そこで、俺は魔法を試してみようと考えた。


「せっかく、だだっ広い草原が目の前にあるんだし、あそこに向けてぶっ放してみるか。」


 もちろん、ステータスカードを紛失している俺は、自分が使える魔法が何なのか一切分からない。ただ、「スキル及び魔法について」というページには、下位魔法のうち初級魔法が全7属性で1つずつ掲載されていたのだ。さすが、一応は神が作りし説明書、気が利く!


 「とりあえず、最初はカッコイイから火の魔法からいってみるか。えーと・・・。」


 俺は右手を草原の彼方に向け、火属性魔法を唱えた。


 「ファイアーボール!!」


 俺が魔法名を言うや否や、右手に膨大な光を凝縮したような、眩しい小さな赤光が現れた。そして、瞬時に右手から放たれた赤光は徐々に大きくなり、平原に一つの巨大な火球、まるで「小さな太陽」が出現した。


 「おぉー!!すげぇー!!これがファイアーボールか!!・・・・・・んっ!?」


 初めての魔法に感動したのも束の間、俺は衝撃的な光景を目にした。俺が放った、小さい太陽のような巨大な火球は、草原の地面に着くと同時に、地表を深く抉り出したのだ。周囲の空気を震わせる轟音とともに、草原の彼方まで火球は進んでいった。火球の軌跡を見ると、地表から数百mがむき出しになり、プスプスと焦げる音を出しながら、新緑の草原に赤土の太い直線ができていた。さらに、通過した近くの草花は、灰燼に帰していた。


 「この世界だと、初級魔法でもこれぐらいの威力なのか・・・。ハハッ・・・。」


 俺は、某夢の国のネズミのような、乾いた笑いしか出なかった・・・。

 上位魔法なんて、この世界を滅ぼせそうな気がするけど、パワーバランス大丈夫か・・・?

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