プロローグ③

 俺は女神から、異世界転生に関する一通りの説明を聞いた。要約すると、次の通りだ。


・転生する異世界は、科学技術ではなく、魔法が発展した世界であること。

・転生する異世界は、人口の約90%がスキルと呼ばれる特殊能力を、2つ以上獲得していること。

(だが、俺は転生体なので、スキルは1つしか獲得できない。)

・今の世界での記憶を忘却して転生することも、保持したまま転生することも可能であること。

(もちろん、俺は記憶保持を選択する。)

・自分の好きな容姿、年齢、性別、種族で転生できること。


 俺は、女神の説明を傾聴しながら、異世界に転生する実感を得ていた。フィクションだと思っていた異世界に転生できるなんて、本当に俺は幸運だな。


 女神はマニュアル的な説明を一通り終え、ふぅっと息を吐いた。


 「ここまでの説明で、何か不明な点はありますか。」


 非常にムカつく女神だが、その説明はお世辞抜きで明瞭かつ簡潔で、とても分かりやすかった。さすがは、神というべきなのか。ただ、異世界転生という非現実的な話だけあって、やはり聞きたいことがたくさんある。


 「えーと、質問したいことがたくさんあるんだが・・・」

 「はぁーー!?ここまで丁寧に説明しておいて、質問があるんですか!?これだから、おバカさんは困るんですよね・・・・・・ちょっ、痛っ!痛い!!じょ、冗談ですって!!!!」


 俺は無言で、女神の脳天にチョップを2発くらわせた。

 よし、時を戻そう。


 「質問したいことがたくさんあるんだが・・・」

 「は、はい、何でしょうか。」


 女神は、涙目で頭頂部を押さえながら答えた。


 「記憶を保持したまま転生する場合、言語はどうなるんだ?」 


 そう、まずは言葉だろう。ただでさえ、俺は中学校からあまり英語が得意ではない。特に、リスニングは壊滅的だ。異世界の言語を話す・聞く・書くなんて、不可能としか思えない。


 「あぁ、それなら大丈夫です。異世界での言葉は全て、自動的に転生者の母語に翻訳されますから。逆に、転生者が書いた言葉も異世界の言葉に自動翻訳されますので、ご安心を。」


 おぉー!さすが、神の御業と言うべきか。母語への自動翻訳付き、しかも書き言葉までなんて、最高すぎるだろ!


 「なるほど、それはめちゃくちゃありがたい。次に、魔法とスキルの関係について聞きたいんだが。」


 次は何といっても「魔法」だろう。魔法や魔術はファンタジーの醍醐味だが、そこに「スキル」という要素が介入すると、どうなるのだろうか。「スキル」と「魔法」の関係は何としてでも聞いておきたい。


 「魔法とスキルは相互関係にある場合とない場合があります。そもそも、使用できる魔法には、魔力や適性、才能などで、個人差がありますし、スキルは完全にその人にしか与えられない恩恵です。使用可能な魔法とスキルの相性が抜群の人もいれば、その逆の人も一定数存在しますよ。」


 うーん、なかなかシビアな世界だな。生まれつきの魔法の才能とスキルで、その後の人生が左右されてそうな気がする。もしかしたら、俺がいた世界よりも、格差や差別が厳しいのかもしれないな・・・。


 「じゃあ、スキルについては・・・」


 「あの!!」


 俺の疑問を遮るように、怒った声色で女神が言い放った。え、何か、癇に障ることでも言ったか?


 「もういいですか?早く戻って、寝たいんですけど。」


 こいつーー!!マジでムカつく!!誰だよ、こいつにこの職務を任せたの。ミスマッチにも程があるぞ。今すぐ担当を変えるべきだろ!!


 「はぁ~!?こっちは、異世界への転生に色々と不安があるんだよ!察しろよ、このアホ女神が!!」

 「誰が、アホ女神ですか!!この童貞ヘタレ野郎!!」

 「誰がヘタレだって!?仕事も碌にできないクソ女神だけには、言われたくないんですが!!」

 「何ですって!?」


 俺の罵倒に、女神も変なスイッチが入ったのだろう。そこから、俺たちは10分ぐらい、マシンガンのように不毛な罵詈雑言を言い続けたのだった・・・。



 お互いに息切れする中、俺はおもむろに口を開いた。

 

 「はぁはぁ・・・。もう分かったよ。だったら、何か説明書みたいのがあったらくれよ。自分で読んで、理解するから。」 


 俺は説明書を熟読してから、ゲームなどを始めるタイプの人間だ。だからこそ、異世界転生やその異世界に関する説明書的なものがあれば、そっちの方がすごく助かる。


 「はぁはぁ・・・。あっ、そういえば、異世界転生に関する説明書がありましたね。」


 息を整えた女神は、今思い出したかのように淡々と言った。


 「おい、それ大事なやつだろ、忘れるなよ。」


 呆れている俺を横目に、女神は何もない空間からひょいと一冊の本を出した。

 何それ、すごい!めっちゃ、神っぽい!俺もやりたい!


 「これが具体的な内容を詳述した説明書です。恐らく、知りたいことはこれに全部載ってますから。」


 女神は、もう私に何も聞くなという圧をかけながら、文庫本と同じサイズの説明書を渡してきた。200頁ぐらいだろうか。だが、不思議と重さはあまり感じない。パラパラとめくると、転生する異世界の一般的知識や転生後の安全な暮らし方などについて、事細かに書かれていた。


 「どうも。これで、何とか疑問は解決しそうかな。」


 俺は素直に感謝の言葉を述べた。多々ムカつくところがある女神だが、ちゃんと説明してくれたことは確かだ。まぁ、良しとするか。


 「いやいや、もっと感謝してもいいんですよ?跪いて首を垂れても、私は全然構いませんよ?さぁ、ほら!早く!さぁ!」


 前言撤回、やっぱりこいつは大嫌いだ!感謝なんて絶対するか!

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