第四章――襲撃②※らくがき有り――
「いってぇ!」
外れた肩に振動が響いて、たまらずトルヴァは頭を雪に押し付けた。
自由の利かない状態での苦痛はどうしようもない。歯を食いしばり、姿勢を立て直して相手を睨みつける。
肩越しに見上げた
「うるさい」か「黙れ」と言うことらしい。自分を見下ろすこちらの
共通しているのはみな一様に冷ややかな表情であることだろう。これまで遭遇してきたどの
トルヴァは視線を逸らすと、ボズゥににじり寄って小声で問いかけた。
「帝国の戦士ってあれだろ?昔話にも出てくる、すんごい強い奴らだろ?間違いじゃないのか」
「……奴隷であちこち連れ回されてた頃さぁ、でっかい建物の前で立ってんのが、こんな感じの格好してた気がするんだよなぁ」
「なんだよそれ。曖昧だな」
「ほら、こいつらなんかさぁ、妙な雰囲気だろぉ。笑ったことあんのかな?っていう感じがさぁ……帝国で見た奴と似てんだよなぁ」
帝国の戦士は地帝と帝国を守るために戦う剣であり、盾であり、手足である。彼らは遠い昔女神と共に天王と戦い、多くの
女神の娘たちに代々仕え、必要に応じて戦に出むく。そんな話を老人や、集落の大人たちから伝え聞かされてきた。
そして皆、最後には必ずこう言っていた。
(
つまりそれだけ、無事でいられた
トルヴァの全身の毛穴から、ぶわっと汗が噴き出した。
「お前何だってそんな奴に、喧嘩ふっかけてんだよ…!」
「だからぁ…ごめんってぇ……ふざけて構えただけだったんだよぉ……」
「構えただけってお前な!人にあんな話しといて、なんで警戒されないと思ってんだよ!」
再び、背中を蹴られた。
トルヴァは雪に突っ伏して唸る。
「~~もう!」
憤懣やるかたないとはこの事だった。
この手が自由だったなら、すぐにでもボズゥを羽交い締めにしてやるところだ。
(てか、なんでそんな奴らがこんなところに?)
トルヴァは雪で頭を冷やしながら考えを巡らせた。
確かに
(なのに戦士がだけがここにいるって……まてまてまて!なんかヤバいんじゃないか?)
『気づかれてからじゃ遅いんだよ』
フェンリルの言葉が思い出された。
トルヴァは歯ぎしりし、痛みを堪えて身体を起こした。
「お前のせいだぞ!」
「えっ、うわぁ!」
そのままボズゥ目がけて体当たりをかましてやった。ボズゥも縛られているので、当然二人は倒れ込む。
「――おいボズゥ。こいつらおれ達でどうにかするしかないぞ」
「どうにかってぇ?」
喧嘩をしているように見せるため、耐性を立て直そうとするボズゥを押さえつけた。目まいのする激痛が走ったが、頭に血が上っているので痛くはない。
そう思うことにする。
ボズゥにもトルヴァの意図が伝わったようで、派手に足をばたつかせる。はたからはもみくちゃの喧嘩のように見えるはずだ。
「戦士だってのが本当なら、おれ達は最悪の奴らに見つかったんだ――足止めなりなんなりしないと、全員がヤバい」
「いやぁ無茶だってぇ。ダインがフェンリルを連れてくるまで、待ったほうが良いってぇ!」
ボズゥが覆いかぶさるトルヴァから逃げようとするのを、させまいとさらに体重をかけた。
※らくがき
https://kakuyomu.jp/users/nomimaru/news/16817330669223692070
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