第9話 4月の終わり

「ゲーミングスポーツ大会ですか? 会長?」

「そそ、今期から学校の授業でゲームを学ぶ事になったでしょう? ジャン君だってもう授業受けてるわよね?」


「ええ会長……それを聞いてうちの親が羨ましがってましたね……」

「あはは、珍しい親御さんだわよね……うちの両親は渋々納得って感じだったのに」


 うちの親はゲーマーだしなぁ……夫婦でお互いに個人のゲーム部屋を持っているんだぜ?

 そのせいで三階建ての一軒家とはいえ狭く、ダイニング以外で家族で寛ぐ場所がないんだ……。


 アニメとかで家族が寛ぐためのテレビが置かれた和室の部屋とか見ると、なにこの部屋? って子供の頃思ってたわ。


「それでなんで急にそんな話題を持ち出してきたんですか?」


 ちなみに今はゴールデンウィーク前の最後の登校日で、ここは『ペッタン同盟』を使った裏意識での会話中であり、表の俺は午前中の授業に出ている時間だ。


 なのでお互い制服を着ていて、場所は会長の部屋を模した空間だ。

 会長はベッドに座り、俺は小さなテーブルを挟んで床に座布団を敷いて座っている。


「うん……夏休みに行われる高校生ゲーミング全国大会のための前準備がね……急に入っちゃって、ジャン君との貴重なゴールデンウィークのお泊まりが出来なくなりそうなの……」

 会長はそのサラサラ艶々の黒髪を弄りながら悲しそうに溜息をついている……。


「そもそもそんな予定入ってないですよね、全敗会長?」

 俺の予定を賭けた三麻勝負が開かれたのだが、珍しく会長は負け続けていた。

 普段はめっちゃ強いくせに、自分にとって大事な時に実力が出せないタイプなのかもしれない。


「全敗とか言わないでよ! 一回だけトップを取ったじゃない!」

 GWの予定一日分を三試合で決める全二十七試合で競う試合だったんだよね。


 うーん、アイテム使用禁止だったし、そもそも謎な空間での麻雀ゲームな訳で、イカサマも出来る訳がないからなぁ……。


「会長は負け過ぎたからか、途中で通しサインを俺に送ってきましたけどね」


 勿論無視したけど。


「あ、あれは……あのままだとジャン君が楽しみにしている私とのめくるめくお泊まりのお出かけに行けなくなっちゃうだろうから仕方なく……サインの全部を無視する事ないじゃないの……」

「一日のうちに雨になったり、雪になったり、晴れたり、虹が出たり、ダイアモンドダストが発生したりする会話を会長がするせいで、連ちゃんが困惑してましたよ?」


「レンちゃんに通しサインがばれなくて良かったわよね……あれは私とジャン君だけの絆だもの……」

 ……むしろなんで連ちゃんは気付かないのだろうか? と不思議がっている俺がここにいます。


「尊敬している従妹のお姉ちゃんが、そんな悪い事をする訳がないと思い込んでいるんでしょうねぇ……連ちゃんかわいそうに……」

「あ……う……むぐ……でも、でもね、ゴールデンウィーク全日程でレンちゃんとジャン君が遊びに行くっておかしいと思ったの、私の彼氏なのに……おかしいわよね?」


「それは俺もおかしいなって思っているんですよね……なんで俺の意思が関係なく出かける予定が埋まっていくんでしょうか……」

 後、俺は会長の彼氏ではありません。


「ジャン君がずっと三位だったからじゃないかしら?」

「はぁ? 俺は二回二位を取ってますぅ!」


「あっ……うん……そうね? そうだったわ、ジャン君頑張ったものね、私がいっぱい褒めてあげるわ、こっちおいで、いいこいいこしてあげるから」

 行きません、というか行ったら泣いちゃいそうだから行かないよ?


 くぅ……おかしいな、ネット麻雀だと連続ラス目は大体6回くらいで止まるのに……新記録を作ってしまった……。


 連ちゃんがさぁ、なんかこう気合が入るとおかしいんだよ。

 テンパイしててカンすると必ずリンシャン牌でツモるとか、たかが30回弱の試合で役満が10回以上出るとかおかしいから……。


 一回だけ連ちゃんが負けたのも、会長が俺との予定をお泊まりにするべきだとかなんとか言っていて、それを聞いた連ちゃんが動揺していた時だけだしな。

 結局お泊まりは勝利者権限でなしになったからありがたい。


 連ちゃん曰く、早いとかなんとか……。


 ……うん、後2年したら連ちゃんも会長みたいになるのかなぁ……それは嫌だなぁ……。


「なぜだろう、ジャン君が急に物思いにふけった瞬間に私は貴方をしめないといけないと思ってしまったのだけれど」

「それはきっと返事が遅いからイラっとしてしまったんですね、ごめんなさい会長!」

 危ない……この人は勘が良い。


 勝負勘はないくせに、俺がちょこっと余計な事を考えるとすぐ気がつきやがる……。


「そうなのかしら? 取り合えずジャン君はここにきなさい」

 そう言って自分の横のベッドをポンポンと叩く会長……今は違う意味で涙を流しそうなのであそこには行きたくない。


 ……えーと、えーと……そうだ!


「ゲーミング大会の話はどうなりましたか!?」

「え? ああうん、ほら、政府としても急に話を進めているでしょう?」


「ええ、まぁゲームの腕が命を繋ぐ世界になった訳ですから、それらを奨励するのは仕方ない事だと思いますけど」

「そうよね、でもまぁ世界が変わって一月かそこらだから、そういった大会のノウハウが政府にないのよね、なので高校生相手の全国大会をやる前に、小さな地域で大会を開いて色々な機関に経験を積ませようって話でね」


「ほうほう、全国大会のための地区大会とかではなく、小規模な高校生大会をやってみるんですね?」

 どんな事でも立ち上げる最初の頃とかは色々苦労とかしてそうだしな、何事も最初は大変そうだよね。


「そうそう、なので学校の代表同士が戦う感じで……お試し大会で生徒から選ぶ時間もないので生徒会長がリーダーで、後は適当に指名でって感じになってね」

 ん? 指名? すごく嫌な予感がするのは。


「そうですか、大変なんですねぇ会長」

「そうなのよ! なのでジャン君を指名しといたわ」


「やっぱりかよ! タメもなく素で言わないでくださいよ! 生徒会のメンバーとかでいいじゃないですか!」

「うーん……彼らは皆して海外旅行とかの予定が入っちゃっててね……急な話だけど……すっごい内申上がるわよ?」


 む? 内申?


「大学の推薦を貰いやすくなったり?」

「するかもね? ジャン君は私と同じ大学に行くのだから、やっておいた方がいいと思うのだけど」

 なんで俺の行く大学まで決めてるんだこの人は……いや、でも推薦は美味しい気がする。


 特に決まった大学に行きたい勢じゃないからな俺は、TEC系に進むのに有利な勉強が出来るのなら何処でも……。


「んんっ……ちょっと話を聞いてみようと思います会長」


「ありがとうジャン君! もう本決まりしているからいまさら断ったらすっごい内申下がる所だったわ! ジャン君の!」

「俺のかよ! って本決まりなんですね……もっと早く相談してくださいよ……」


「ギリギリだから交代要員が出せないんじゃないの、アータイヘンタイヘン、ダイジなヨウジがハイッタカラ、レンちゃんとの予定がクルッチャウワネー」

 棒読み過ぎる……。


「後でいっぱい連ちゃんに怒られてください会長……ちょっとあからさま過ぎて俺では庇えないです」

「それくらい覚悟の上よ! このままではレンちゃんが本妻とかそういう噂になっちゃう……ただでさえいまだに一緒にお昼ご飯食べてるし……私が気付いて突撃しなかったらずっと二人で食べてたでしょうに!」


「あー、何故か連ちゃんは俺の教室に突撃してくるんですよねぇ……会長が生徒会室を提供してくれて助かりました」

「周りにジャン君は自分の物だと見せつけてたのよ! 気づきなさい! ああもう……ジャン君の鈍い所も愛おしいのだけど、今だけは引っぱたきたいわ……そんなんじゃまた新たな噂が立っちゃうわよ?」


 え? あれってそんな意味があったの?

 俺に用事があったついでだからって連ちゃん言ってたけど……。


 ……いやいや、やっぱりそこまでするかなぁ? たまたまじゃね?


「まぁもう俺は噂の事は諦めましたからねぇ……」

「私の周りとジャン君の周りでは微妙に内容が違うっぽいのよね……ちなみに今はどんな感じに? 私の周りでは嫁と愛人が入れ替わったか! みたいに言われたんだけども……ちゃんと恋人のままですって訂正しておいたわ」


 それは訂正でなく捏造です。


「俺の周りですか? ……ジゴロからハーレム系に進化しまして、今は俺のハーレムに追加すべく新たな獲物を狙っているそうですよ? ははは」

「なんで自分の事なのに疑問刑で話すのよジャン君は……」


「他人事ですから……あれは俺じゃない俺の噂なので」

「もう……私を恋人だって宣言して皆の前でキスの一つもブチューっとやっちゃえば済む話じゃないの、今日はGW前の最後の帰宅だし、帰宅者がいっぱい見ている校門の前あたりでやっちゃう?」

「やりませーん!」


 ……。

 ……。


 そうして後はいつものごとく雑談で時間が過ぎていく俺と会長だった。


 会長とずっと会話しているのに、いつまでも飽きることなく雑談が終わらないんだよなぁ……なんでだろ?





 ◇◇◇

 ★が入っていたので新たな麻雀好きが?

 なので1話追加しました。

 麻雀の話? 結果の話をしているので実質麻雀の話です。

 ◇◇◇

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