死考

紙巻 吸煙

プロローグ

第1話 夢と獏

 いつの日からだろう。

 眠りにつくと毎回決まって見る夢がある。

 辺り一帯が暗闇に覆われ中心部だけがスポットライトで照らされた空間があり、光の中で眠る一匹の『獏』が浮遊している夢。

 そんな夢を見るのだ。

 ──でも、今日の夢は少し変わっていた。

 普段は寝ているだけの獏がゆっくりと瞼を開き、こちらを見つめて一言。

「ねぇ、。でないと僕は君を……」

 そんなことを言い残され夢から覚める。

 夢に対し些か疑問に思いながらも起きた俺は夜勤バイトへの通勤支度を始めた。


 和テイストな外観、落ち着いたオレンジ色の照明、看板には『鐘鈴かねすず』と書かれた焼き鳥をメインとしている鶏肉専門の居酒屋。

 俺は着替えると腰にエプロンを巻き付けフロアへと向かう。

「へい、らっしゃい!!」

 お客様が来店してくるごとに元気よく出迎え、空いている席に案内していく。

「おう、倉持。お客さんの案内終わったら焼きに入れ」

「おやっさん、良いんですか!?」

「鐘鈴に入って長いんだ。それに日頃練習してただろ? チャレンジしてみろ」

「はい!!」

 カウンター席の厨房に入ると店の看板メニューである焼き鳥の調理を始めていく。

 焼き始めてどのくらいの時間が経っただろう。

 目の前に座る大学生くらいの男女が妙な話を始めた。

「ねぇ、知ってるぅ? あの先生死んじゃったんだって」

「まじかよ!! お前と仲良かったよな」

「──うん。死んじゃう前に言ってたんだけど、を見るようになったんだって。それになんかね、先生が死んだ時にがある手首だけ喰いちぎられて、ベッドの上に残ってたらしいの! 」

「うぇ、気持ち悪……。てか、タトゥーなんかいれてたっけか? あの先生」

 そんなことが実際にあればニュースにでもなるだろうに、見たことも聞いたこともないぞ。

 夏だし男を怖がらせようと作り話でもしているんだろう、なんて思いながら皿を右手に持ち焼きあがった鶏肉を取り移そうとした時のこと。

 突然右手の甲に激痛が奔り眩暈や身体の気だるさを感じ、皿は床と接触し大きな音をたて砕け散る。

 床に倒れる中、朦朧としながらも駆け寄る足音や名前を呼ぶ声が薄っすらと聞こえたが、そのまま意識を失った。



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