十一 証拠と被疑者

 三日後。一月七日、金曜。午後十一時。

 台東区の廃工場で二人の変死体が発見された。指紋照合と顔認証から二人は臼田副総監(警視監)と若松本部長(警視長)と判明した。

 若松本部長の膝の上にメモリーカードがあった。メモリーカードは警視庁の捜査本部で再生された。



『音声変換した声の主が言う。

「警察の警視が買春とはな。

 表の顔は法の番人。裏の顔は麻薬売買組織から賄賂を受けとる悪徳警官とはな」

「賄賂は受けとってない」

 そう言っているのは霧島だ。


「金の代わりに、毎晩、若い女をあてがわれてた・・・」

「そんな事はない。金も女もあてがわれてない」

「お前は警視の立場を利用して、組対の捜査をじゃました・・・」

「じゃまなんかしてない」

「嘘を言うな」

「嘘じゃない」

「嘘を言うこの二枚舌は要らない・・・」

「やめてくれ・・・」

 霧島の声が震えている。


「女をあてがわれた上司がいるだろう?誰だ?名を言え」

「そんなのはいない」

「上司の窃盗や違反を見逃しただろう。誰の犯罪を隠蔽した?」

「わかった。話すからやめてくれ」

「話せ。誰だ?」

「臼田警視庁副総監(警視監)と若松本部長(警視長)だ」

「臼田副総監は何をした?」

「臼田は麻薬捜査を遅らせる見返りに女を斡旋された。我々には、スピード違反と駐車違反を揉み消しをさせた」

「若松本部長は?」

「若松は変態趣味が講じて組織から与えられた女を窒息死させた。我々が後始末して、女が自殺した事にした」


「本部長は独りで女と会っていたのか?」

「そっ、そうだ」

「嘘はいかんなあ。あの現場に、お前も居ただろう?」

「私は居なかった」

「嘘はダメだ。

 お前が組織から女をあてがわれ、お前の出世のために、変態趣味の若松と臼田を誘った。そして、組織の捜査を遅らせた」

「そんな事は無い!あり得ない!」

「そうかな?では、これならどうだ?」

音声変換した声の主は霧島に何か見せているらしかった。


「あっ・・・、何てこった!」

「もう一度訊く。

 組織が臼田副総監と若松本部長に女を斡旋したあの現場に、お前も居ただろう?」

「ううっ・・・、私も居た。居たよ!」

「お前、やっぱり二枚舌だな・・・」

音声変換した声の主が霧島に何かしている。

「うおっっっっっ・・・」

「これで舌は一枚だ。

 女の匂いが好きだろうが、もうこの鼻も、女の声を聞く耳も不要だ」

「うっうっうっ・・・」

 霧島が呻いている。

「あわわわわっ・・・」

「麻酔が効いてるから、痛みはない。

 もう、これも不要だな・・・」 』



「舌と鼻と耳が焼き切られたみたいです。録音はここまでです。

 犯人は痴漢被害者の身内かも知れません」

 捜査第一課の早川修係長(警部)は、東条肇課長(警視)にそう言った。


「早川!そんな事より、霧島の言ってる事は事実か?」

「何のために、メモリーカードを送ってきたんでしょう・・・」

「答えろ!霧島が言ってる事は事実か?」

「・・・」

「お前、一時期、霧島の下にいた。四課の霧島の部下だった。

 霧島と臼田副総監と若松本部長の間で何があった?」

 捜査第四課は組織犯罪対策課だったが、今は組織犯罪対策部として刑事部とは別組織だ。


「早川、答えろ!」

「・・・」

 東条肇課長(警視)の追及に早川修係長(警部)は答えない。どうやって言い逃れるか思案している。

「答えないなら、犯人隠避で逮捕だ!

 野村班長。早川を逮捕しろ!」

「罪状は何ですか?」

 野村修司班長(警部補)が言い訳がましくそう訊いた。


「今、言っただろう。犯人隠避だ。

 被疑者死亡だ。野村!早川を逮捕しろ!」

「そう言っても逮捕理由がありません」

「このメモリーカードが証拠だ!

 霧島の部下だった者を、全員しょっぴけ!尋問しろ!

 まず、早川からだ!」

 東条肇課長(警視)に指示され、野村修司班長(警部補)は、渋々、早川修係長(警部)に手錠をかけた。捜査本部がいっせいにざわめいた。


「いいか!霧島の部下だった者を、全員逮捕しろ!

 わかったら、すぐにやれ!」

 捜査本部に東条肇課長(警視)の怒号が響いた。

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