十 若松本部長 臼田副総監殺害事件

一週間後。二〇三二年、一月四日、火曜。午後十一時。

 元麻布にある若松本部長(警視長)の自宅前に黒の大型SUVが停車した。SPらしい黒のスーツの男が降りて門のインターホンで、

「若松本部長。臼田副総監(警視監)の指示で、お迎えに上がりました」

 と伝えた。

「こんな時間に何かね?」

「余興の続き、とお伝えするよう言いつかっています」

「おお、そうか!すぐに行く待ってくれ」

 インターホンが切れた。まもなく若松本部長がSUVの後部シートに座った。


「飲み物を用意しました。ホテルに到着するまで、飲み物を飲んでくつろいで下さい」

 男が言うと、若松はブランデーをグラスに注いで飲み干した。そしてもう一杯。

 若松の意識が薄れた・・・・。



 若松は台東区の廃工場で目を覚ました。階下から呻き声が聞える。

 若松は動こうとしたが局部麻酔が効いて身体が動かない。パイプ椅子に腰と腕と脚を結束バンドで固定されている。そして、若松の舌は電極で挟まれている。

「余興の続きだ。この二枚舌は要らないな」

 パイプ椅子の横に立つ覆面の男が音声変換した声で言って、小型高周波電流発生機のスイッチを入れた。

 若松は舌を焼き切られて呻いた。さらに若松の鼻と耳が焼き切られ、両手がハンマーで叩き潰された。


「最大の余興はこれだ・・・」

 覆面の男は若松のズボンを切り裂き、股間の一部分をピアノ線で括った。

「これから、椅子ごと落ちてもらう。下で、お前とともに、組織からあてがわれた女を絞め殺した、お前の仲間がお待ちかねだ」

 そう言って男は、パイプ椅子の若松を椅子ごと三階から蹴落とした。


 若松の身体は一瞬、二階で止まったように見えだが、そのまま股間から血しぶきを飛びちらせて、コンクリートの床に落下し、腰と背骨を骨折した。その上に、千切れた股間の一部分が落ちてきた。

 若松の隣には副総監の臼田の死体があった。臼田も舌と鼻と耳を焼き切られて両手を潰され、股間の一部を引き千切られて腰と背骨を骨折していた。


 黒覆面の男が若松の傍に立った。小型高周波電流発生機や針金、プライヤーやハンマーなどの入ったバッグを降ろして、若松の身体から結束バンドを切り離し、それをバッグに入れた。黒覆面の男の靴底は特殊素材で足跡が一切残らない代物だった。

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