振り向かせたい、その背中-2

 ある日のお昼ご飯

 僕たちの高校は、1年生が3階、3年生が1階と階級が上がる事に、下の階へと下がっていくシステムだった。


 そして、高校の購買は1階にある。

 そう…3年生になると、お昼時間の購買争奪戦争にいち早く参加することが出来るんだ。


 お昼にしか出ない限定メニューや数量限定の飲み物まで販売される。


 でもΩの僕は、身体の作りも華奢で、体格のいい生徒には、3年生になっても敵いっこがなく、買えない時もしばしばあったんだ。


 そんな時は、駿が力を貸してくれる。

 今日だってあれが飲みたい!と言えば、ほらよ!っと駿が手に入れてくれていた。


 いいな…僕もこんな風に強くなりたいな…


 僕にとって、力のある駿は輝いて見えたんだ。そしてそのまま僕たちは、1階のフリースペースで食事を摂ることにした。


 今日のお昼ご飯は、駿が手に入れてくれた僕の大好きな焼きそばパンといちごオレ!


 紙パックのいちごオレは、この高校でなぜだか大人気で、すぐに売り切れてしまう…


 僕は駿が手に入れてくれた大人気のいちごオレにストローを刺し、満足気に口へと運んだんだ。


「裕翔、うまいか?」


「う〜んっ!うんまいっ!!駿、ありがとぉ!」


 喜ぶ僕に駿も満足そうに、フンっと鼻息を荒くしながらドヤ顔で喜んでくれたんだ。


「ってかさ、お前いつまで続けるんだ?」


 駿も焼きそばパンを頬張りながら僕に声をかける。


「なにを〜っ?」


「あれだよ、山際の背中振り向かせたい作戦」


 駿も駿で、僕が頑張っている姿を見守ってくれていたんだ。だからこそ、心配もしてくれている…


「山際くんが振り向いてくれるまで続けるよ?」


「なぁ、なんでそこまでアイツを振り向かせたいんだ…?」


 駿のその問いに、僕は頬張ろうとした焼きそばパンをそっと下ろし…


「1人は辛いから…そして、寂しいから…」


 僕はそのまま続けた。


「駿に1度だけ話したことがあるでしょ?僕、高校に入るまで1人だったって…山際くん、どことなくあの時の僕に似てるんだ…」


「うん、それ話してくれたよな…」


「本当はもっと話がしたいんじゃないかな…本当は笑いたいんじゃないのかな…あはっ、僕…あの時、笑えなかったからさ…」


「そうか…なんか、すまんな…」


 駿は僕に対して申し訳なさそうな顔をしている…駿?君がそんな顔をする必要はないんだ…だって、僕の側にはずっと君がいて、支えてくれたじゃんか…


 なら、今度は僕が、僕の力で閉じ込めてしまっただろう山際くんの心を開いてあげたい…そう思ったんだよ…?


「駿、謝らないで?僕、彼を絶対に振り向かせてみせるから!もしさ、仲良くなれたら駿も彼と仲良くしてあげてね?」


 僕はニコッと駿に返した。

 その答えに駿は「まぁ考えておく、無理はすんなよ?」とだけ残し、僕の背中をポンっと叩いてくれたんだ。


 僕はもう、ひとりじゃない…

 でも、彼は今…ひとりなんだ…


 僕の手で、絶対に振り向かせてやる…!!







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