振り向かせたい、その背中-1

 駿と教室に戻ると、他のクラスメイトは各々輪を作り楽しそうに過ごしているのに、山際くんはポツンと外へ顔を向けながら、僕の席の前に座っていたんだ。


 仕方ないよ…周りを引き付けたくないようなオーラをそんなに出しちゃったら、誰も声なんてかけられないじゃん…


 それでも、僕は彼の背中を振り向かすと決めたんだ…!よしっ!善は急げだ!早速、行動に移してみよう!


 僕は自分の席に戻り、大きく小さな背中に向かって一声かけてみたんだ。


「や、山際…くん…?」


 ふ、振り向いてくれるかな…?


 そんな僕の想いは届かず、彼は僕に顔を向けようともしない…くそ、負けないぞ…!


「僕…山本…山本 裕翔!聞いてるか分からないけど、もし覚えててくれたら嬉しいなっ!」


 僕から自己紹介をしても、彼は僕に顔を向けようともしない…


 周りのみんなも、裕翔…なにやってんの…?みたいな顔で、コソコソと話しているのが見て取れる…


 そんな周りの言葉は、僕に聞こえていたとしても、僕は彼を振り向かせたい…僕は君の友達になりたい…!


 まだまだ始まったばかりだ…!

 うるせぇ!って言われるまでやってやる!


 その日以降、僕は山際くんに対して、色んなアクションを起こしてみたんだ。


 それと同時に、彼のことを観察してみることにした…え、ちょっと僕が変な人みたいになっちゃってる…?!そ、そこは置いておいて!


 まずは、朝だ!

 不思議とツンケンしているくせに、山際くんは誰よりも早くクラスにいて、僕の前に座っている…


 僕も僕で、自転車通学だから皆より少し早く着いていたんだけれど、それよりも早いって…


 そんな事を思いながらも僕は「山際くん、おはよう!」と声をかけるようにしていた。


 それでも彼は僕に振り返ってはくれない…

 いいんだ、声だけでも届いてくれていたら…


 授業中、山際くんの後ろに座る僕は、彼の動きを観察していた。


 気付けば彼は、ず〜っと外を眺めている…ノートに何かを書こうともしていない…


 まだ新学期も始まったばかりだし、先生は何も言わないのかな…?でも、そんな事してたら駿のようにテスト…大丈夫なの…??


 そう思っていたその時…


「ぶえっくしゅ〜んっ!!!!」


 僕の隣で駿が、とても大きなくしゃみを響かせたんだ。


 さすがに先生も「おいおい、水上〜っ!うるさいぞぉ?!」と注意する。


「すんませんっ!いやぁ、誰かに噂話でもされてんのかな、俺!」


 そんな返答に周りの皆も、あははっと笑って駿に応える…駿、ご、ごめん…くしゃみの原因…きっと僕でぇすっ…


 そんな風にみんなで笑っていても、山際くんはビクとも動かず、ただ外を見つめているだけ…


 今…君は何を考えて、外を見つめているのかな…?


 僕の声…君に届いているのかな…?











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