三枚目

あお。

サイケデリックな、瞳の虹彩。三枚目に覗いた絵画は、不思議な色の抽象画で。極彩色の眼球が一つ、ポツンと床に置かれている。生ゴミをついばみに来た鴉のように。狭い空の中を飛び回る、銀色の紙飛行機達。ほんのりと下地に塗られた、薄いクリーム色。複雑な折り目が残った画用紙の生地は、とても狭く感じられて。紙飛行機が折られた跡なのだという。

解説には、そう粛々と書かれている。

「一度は折られた紙飛行機は、『いっその事、文字の無い世界へと飛んでいってしまいたい』と願った、彼の心境を表しており……」「失語症を患った彼の世界観は、同時代の芸術家にも影響を与えたが……」「深い哀愁を抱えたこの絵画は、彼の死後……」

余計で、しかも無価値な文章の集まり。彼らには、どうして自重という物が無いのだろうか。

無垢で純粋な、青い色彩。

曇り硝子のようにボヤけた、彼女の瞳の虹色は、物憂げな薄暗さを帯びており。裸になった眼球から、私の心臓を覗き込むような生々しさを、感じ取っている。

現実の世界を真似た、幻想的な水彩画の質感。

静かに、透き通った額縁が語る、余白の重力。

彼女の要素が散らばった、絵画の引力。

非現実に思えていた、力。

目の前には、彼女が立っている。

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