LiTTlE BoyS

ゆずか

第一章

〜プロローグ〜

 孝弘は無我夢中で走っていた。背後からは大勢の男たちが追いかけてきている。目の前には壁があって行き止まりだった。

「やっと追い詰めたぞ。このガキ!!」

 リーダー格の男が彼の胸ぐらを掴んで恫喝し、拳を振り上げる。孝弘はぎゅっと目を瞑ると、男たちのどよめき声が聴こえてくる。振り返ると、黒い特攻服を着た男がこちらを見ていた。

「貴様はLiTTlE BoySリトルボーイズ小山内おさないマサキか?!」

 彼は男の手を掴んで孝弘を解放した。

「よってたかって一人の人間を囲むなんて卑怯じゃないのか?」

「うるせえ!!そもそも最初にケンカをふっかけてきたのはコイツだ!!」

「そんな……肩がぶつかっただけじゃないですか」

 孝弘が弱々しく言うと、マサキが鼻で笑った。

「……なんだ。その程度でこんな大勢で。大人気ないな。それに相手は高校生じゃないか。恥ずかしくないのか?」

「うるせえな!!お前に関係ないだろうが」

 マサキは男の前に立って顔面を手で掴んで悪態を吐いた。

「卑怯者には痛い目に遭わないと分からないらしい。もちろん覚悟はできてるよな?」

 男はだんだん恐ろしくなってきて逃げようとした。しかし、顔面をロックされているので逃げられない。周囲の者たちはマサキのオーラにあてられて逃げていった。それを見て

笑った。

「お前の仲間だせえな。リーダー置いて逃げるなんてさ。元々人望なかったんだな。可哀想に」

 男を地面に叩きつけて「いいか!?二度とだせえ真似すんな!!」と叫ぶと男も逃げていった。

 マサキは孝弘に声を掛けた。

「大丈夫か?」

「はい。助けていただきありがとうございます」

「この辺は厄介な奴が多いから気をつけろよ」

 彼が立ち去ろうとしたとき、孝弘が呼び止めた。

「あの……あなたのカッコ良さに惹かれました!!俺をあなたの下においてくれませんか?」

 彼は孝弘の体をマジマジと見つめた。

「ふーん。良い体つきだな。スポーツかなんかやってるか?」

「はい。ボクシングを少々やってました」

「なるほど。鍛えたら良い戦力になりそうだな」

 マサキはニヤリと笑いながら「お前をチームに受け入れてやる。手加減しないから、しっかりついてこいよ」と。孝弘は笑顔で元気よく返事した。



※※



 数ヶ月後、孝弘はメキメキと力をつけていき、気付けばNo.2に上りつめていた。そのことにマサキも驚いている。

「まさに光る原石ってやつだな。ここまで成長するなんてよ」

「大勢いるメンバーの中で、副リーダーに任命していただいて光栄です♪」

「何言ってんだ。お前の実力だろ。これならリーダーも任せられそうだな」

 飲んでいたジュースが気管に入って咽せた。

「じょ……冗談ですよね!?」

「さあ、どうだろうな」

 笑いながら缶ビールを飲む。

「でも、もし俺がリーダーになったら、やりたいことがあります」

「何だ?」

 彼の目を見ながら真剣な表情で聴いている。

「リーダーの目指している東京制覇とは違うんですけど、俺は居場所を与えたいなって思っているんです」

「居場所?」

「はい。アジトを家に居場所がない人たちが心から安らげる場所にしたいなって。まさに俺がそうなんで……」

「そういえばお前、何であの日夜遅くに出歩いていたんだ?」

「俺には弟がいるんですけど、ボクシングも勉強も軽くこなしてしまうほど優秀なんです。それで両親も弟ばかり可愛がって、俺はいつも比べられてバカにされて……。それで家にいるのが嫌になって飛び出してきました」

「そうだったのか」

「でも、俺の一人よがりなんで、ここでもっと力をつけて独立するのもいいかななんて……」

「そうかーー、チームをいつか抜けるのか……。ヤンキーチームの掟知ってるか?」

「知らないです」

「制裁だよ。チームのみんなからボコられるんだ。それに耐えたら抜けられるのさ」

「……めちゃくちゃ怖そうですね。耐えられる気がしないです」

 真顔で怯える孝弘を見たマサキは吹き出した。

「冗談だよ!!そんなルールウチにはないから。でもお前にはずっといてほしいんだけどな」

「そう言ってもらえて嬉しいです」

「チームを抜けるくらいならLiTTlE BoySの看板お前にやるよ。お前の色にすればいい。リーダーが変わればチームの方向性も変わるのは当然だから」

「ありがとうございます。そんな日はずっとこないと思いますけどね!!」



※※



 それから二年後。いろいろなチームとケンカして、その中で彼らと協力関係にあう仲間も増えていった。

 そんな絶好調の中、孝弘の二十歳のパーティーをしているとき緊急事態が発生した。孝弘が仲間たちと初めての酒を飲んでいたとき、マサキが遅れてやってきた。彼を見つけた孝弘は缶ビールを持っていき彼に手渡した。

「リーダー待ってましたよ!!一緒に乾杯しましょう!!」

 ビールを受け取った彼の表情が曇っている。そして、孝弘の肩を掴んで言った。

「……リーダーの座をお前に渡す。どうか何も訊かずに受け入れてほしい……お前しかいないんだ」

 彼はワケが分からず、いきなりの出来事に驚きを隠せない様子。マサキは苦虫を噛み潰したような表情をしている。

「すまん……」

 マサキはそれだけ言ってアジトを去った。周りのメンバーも表情が曇る。孝弘はこの雰囲気をなんとかしたくて笑顔を見せた。

「なんかすごい誕生日プレゼント貰った気分なんですけど!!」

 みんなは無反応。すっかりしらけた様子だ。

「皆さんまだまだ未熟ですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!!」

 微妙な空気の中、その日はお開きになった。



※※



 翌日から孝弘が新リーダーとして活動が始まった。重い足取りでアジトに行くと、そこには時間になっても誰も来なかった。

「おかしいな。時間間違えたかな……」

 スマホでグループRineを見ていると、No.3の男がやってきた。

「ああ良かった来てくれて。時間間違えたかと思って焦ってたんです」

「……間違えたんじゃない。みんな来ない。リーダーが変わったから」

「どうしてですか?」

「俺もだけど、みんなマサキさんのカリスマ性に憧れてチームに入ったんだ。だから彼のいないチームにいる理由がなくなった。ただ、それだけのことだ。お前には申し訳ないけどさ。俺はただこのことを伝えにきたんだ。じゃあな」

 孝弘はだんだん自分にチームを引っ張るほどのカリスマ性がないことが分かり悔しくて涙が溢れた。



※※



 彼が去った後、一つのチームがやってきた。意気消沈している孝弘は顔を上げて彼らを見やる。

「お前が新リーダーの孝弘か?みんなに逃げられたって噂本当だったんだな!!」

「なんなんだお前ら……」

「天下のLiTTlE BoySがこんなことになって、もう見てられないから潰しに来てやったぞ。感謝しろよな」

 男たちは大笑い。孝弘は拳を固く握って堪えている。男は彼の胸ぐらに手をかける。

「すっかり戦意を失ったようだな。やられる気になったらしい」

 彼らが孝弘に殴りかかろうとしたとき、背後から男たちの悲鳴が聴こえてきた。声のする方に目を向けると、一人の青少年が竹刀を持って立っていた。彼は首にスカーフを巻いている。

「キミは?」

 孝弘が尋ねると、彼は竹刀を構えて言った。

「話はあとや!!とりあえず、今の状況をなんとかせんと」

「ああ。そうだな」

 孝弘は男の手首を掴んで投げ飛ばし、男たちを拳一つで殴り飛ばしていった。

「ほんま強いなぁ……さすがリーダーに選ばれるだけのことはある。俺もいっちょ本気出すとしようか」

 彼は目を閉じて深呼吸して、意識を集中させる。そして目を開いて走り出し、竹刀で彼らの腹部を突いて回り、たった二人だけで一つのチームを潰してしまった。

「なんや。もう終わりなんか。物足りんな」

「助かったよ。ありがとう。ええと……」

 竹刀を脇に抱えて手を差し出した。

「佐々木洋介や。俺をチームに入れてほしいねん」

 突然の申し出に驚きを隠せない孝弘。洋介はなかなか握ってこない孝弘に痺れを切らして自分から手を握った。

「何で……?お前ほどの実力なら他にも有名なチームで活躍できるだろう?」

「俺はある人に勧められてここに来たんや。チームの人たちはみんな優しいから、お前も気にいるだろうって。来てみたらみんないなくなっててビックリしたんやけど……」

「そうだったんだ。なんだか申し訳ないことしたな」

「それは別にええんやけど、これでリーダーの理想とするチームをつくれるんちゃう?ほら、家に居場所がない人たちの憩いの場にするっていう」

 

 何故彼が知っているんだろう……?孝弘は不思議に思った。

「キミは……一体何者なんだ?」

「俺は普通の高校生やで。ほんで洋介って呼んでくれると嬉しいな」

「あ、ああ。洋介よろしくな」

「うん!!」

 満面の笑顔で頷いた。孝弘はすっかり彼のペースに巻き込まれている。まあいいかと今は詮索することをやめた。

「さて、これからどうするん?」

「仲間を捜そう。どこかで居場所がなくて苦しんでいる人がいるかもしれないから」

「分かった!!早速捜しにいこうや」



プロローグ終わり。


 






 

 



 

 

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