第5話 推しのための任務遂行計画

「初任務ゲットですわ!」



ガタガタと揺れる王宮からの帰りの馬車の中で、1人興奮気味の声を漏らすソフィア。

彼女は任務遂行にあたってのやる気に満ち溢れていた。


もし、この任務を成功させることができたなら、それはソフィアの一生モノの成功であり、誇りだ。絶対に成功させてあげたい。また、グレンと離れ離れになるとしても、それは正直今までの暮らしとほとんど変わらないのだ。グレンが幸せになれるように、バックアップすることがソフィアの愛の形だと思えた。



(...かといって、これからどうやって任務を遂行させようかしら....全く考えておりませんでしたわ....)







そう、彼女は無計画であった。もう一度言う、正真正銘のノープランだったのだ。

これは普段考えてから行動する癖のあるソフィアにはあるまじき行為。それだけ、グレンの力になりたいという思いが強かったこともあるが....。


(.........。)



勢いで引き受けたことと、両親や国王夫妻を説得させるという任務自体の難易度が高く、なかなか案が浮かばない。今日は色々なことが一度に起こったこともあり、次第に眠気が襲ってきた。



(....計画なんて、ぱっと思いつくものではありませんわ。家に帰って情報を整理してからでも遅くない。今は疲労を回復させることに集中しましょう....)



そう思い、ソフィアは夢の中へ落ちていった。






ー----------------







ガタンッッッ



「!?!?!...」


「ソフィアお嬢様、ご到着しました。」

「....そう。ありがとう。...また、明日からもよろしくお願いね。」





眠ってからそう時間はたっていないように思えるが、馬車が屋敷についたようだ。

ソフィアは眠い目をこすりながら、馬車から降りる。早く、計画を立てなければ。




「今日はお疲れかな?ソフィ」



眠気から気づくのが遅れたが、馬車の扉の先には父が出迎えに来てくれていた。

いつもは、仕事柄ソフィアより帰宅時間は遅いのだが、今日はソフィアが王宮に招かれていたこともあって、彼女より早く帰宅したようだった。



「....ええ、今日1日で動揺した回数の記録は、多分この先更新されることはないでしょうね。....それにしても、お父様。私に謝らなければならないこと、ありません???」



百歩譲って、ソフィアが今朝の招待の話を聞き逃していたことは、たしかにソフィアが悪いと考えている。しかし、しかしだ。当日の朝に、婚約とそれに関する招待の連絡をするとはどういうことだろうか。婚約というのは家同士のつながりのことだ。そう軽々しいものではない。したがって、朝に急に決まったりするものではないのだ。つまり、この婚約自体、何日も前から決まっていたことになる。そして、この目の前にいる父はそれを当日の朝まで隠していたというのだ。なんとあるまじき行為....。


ソフィアだって、婚約のために準備はいるし、今日だって、取り返しのつかない失言していた可能性だってある。そう思って、父の次の言葉を待っていたが...






「....それは.....ないかな?ハハハハハッ」


「このッッ!!!!....それ本気で言ってますの!!?!?」


「本気だぞ?別に、婚約の準備だって、こちらの方で進めているし、現状特に問題はない。今日の茶会だって、ソフィアに関する問題も報告されていない。何も問題はないだろう?」

「...。」





そうだ。こういう父親だった。にやにやした顔をしながら、そう言い放った父にソフィアはあきれ果てた。

父は昔からこういう人間だった。ソフィアに唐突に難問を言い渡しては、彼女の実力を試すのだ。ソフィアならできるだろう?というように。母もこの教育方法には賛成であるため、この行為は黙認されている。


ソフィア自身、これには両親の彼女に対する期待を感じるため、嫌というわけではないが、少々限度というものがある。世の中の思春期の子供たちが、親に対し反抗的になる理由がわかる気がした。(違う)




「...そうですね。なーんにも問題はありませんでした。では、私はやることがありますので、これにて失礼いたします。」

「そうかさすがわが娘だ。では夕食の時間にな。」




ソフィアは父とこのまま会話するのは墓穴を掘られるだけだと思い、早々に解散することにした。





ー------------------










「.....そうねぇ。なかなか思いつかないものだわ....」



ソフィアは自室に戻って、3時間以上かけて情報を整理し、計画を練っていたが、なかなか方向性が決められなかった。

基本的に、両親や国王夫妻は厳格な人たちだ。常に国と民の未来を見据えて、行動しているため、その行動自体も慎重に、そして、厳しく行動している。今日の父の行動も未来のための投資活動に他ならない。...ソフィアにかまって楽しんでいるだけかもしれないが。


そんなこともあって、なかなか、説得するにおける決定打とおけるものが見つからない。悶々と計画に行き詰っていたところ....



コンコンッ


「...はい。」

「マリーでございます。お嬢様、お茶をお持ちしました。」

「入っていいわ。ありがとう。」



マリーはソフィア専属の侍女だ。基本的な身の回りの世話はすべてマリーが行ってくれている。

小さなころから世話をしてくれているため、年は10ほど離れているが、ソフィアと仲のいい人のうちの一人で、お姉さん的存在だ。




「ありがとうございます。.....お嬢様、今日はどうなされたんですか?少し煮詰めすぎでは?」

「...お茶ありがとう。特に重要な問題ではないの。心配してくれてありがとうね。」



嘘である。が、マリーに婚約破棄について話すわけにはいかず、隠し通すしかなかった。



「....そうですか。困ったときはぜひともこのマリーを頼ってくださいませ。


今日はそれとは別に、お嬢様から頼まれていた本もお持ちしました。」


「!!ありがとう!その本、とても楽しみにしていたの!」





ソフィアは普段、難しい本を読むことが多い。どこかの論文や研究所、自伝、参考書などなど勉学に関係している本だ。そんな中で、唯一そういった勉学に関係がない本で読むものが、「悪役令嬢のものの本」である。

ざっくりというと、王子と婚約していた令嬢が、王子と親密な関係になっている令嬢に対して嫉妬をし、令嬢をいじめてしまう。その過程で、王子の逆鱗に触れ、婚約破棄を言い渡されるというものだ。


ソフィアは婚約していた令嬢がいじめてしまう過程もよくないとは思っているが、実際、婚約者のいる王子と親密な関係になってしまっている令嬢の方も節度がなってないとは思っている。ただ、王子と婚約できない状況で最終的に好きな人と結ばれる工程にとても夢があるなと思いながら読んでいた。



「...でも、まって、この状況って、私の立場で言うと私が嫉妬して、いじめる役よね?」




ソフィアは自分の状況を少しだけ、この本に当てはめて考えていた節がある。ずっと好きだったグレンとどうにか近づけないかと思っていたからだ。しかし、現在の状況に置き換えると、自分はいじめる役、つまりは悪役令嬢とよばれる方にあたる。

少し悲しい気もするが、この悪役令嬢は最終的に「婚約破棄」されている。

この状況に、そして、目的にぴったりではないだろうか....?

その瞬間、ソフィアに雷のような衝撃が走った。








「そうよ。私が悪役令嬢になればいいんだわ!!!!!!!!」









計画の方向性が決まった瞬間であった。



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