第27話 テーマパーク


 オレはオレのパンツに鼻を擦り付け、目を白黒させながら臭いを嗅いでいる妹を見て、扉をそっと閉じ、自室へと逃げ込んだ。その時、カメラのような音が鳴った。オレのポケットにはスマホが入っていたが、カメラ操作はできるはずもない。

 妹はやはり変態であり、危険人物だったようだ。心の声を少しでも疑い、妹を信じたオレがバカだった。 


「こわっ」


 部屋に戻ったオレはそのままベッドに横になり、眠りについた。

 



 数日後……美咲、のあさんとテーマパークに遊びに行く日だ。ヤンデレたちを相手にするということで、かなり緊張していたが、待ち合わせ場所には既に二人が待っていた。


「英二くんおはよう」


 のあさんの服装はデニムのホットボトムスに薄手の上着を合わせている。トップスは白Tシャツで、胸元が大きく開いており、そこから見える谷間は破壊力抜群だ。


「よっす、英二」


 美咲の服装は水色のノースリーブワンピース。肩紐が無く、首回りが広く開いている。首からは十字架を模したアクセサリーが垂れ下がっていた。

 それにしても……二人の格好がエロすぎる。こんなのオレに見せていいのか?


「お、おはよう」

「どうしたの?」

「いや、何でもないよ」

「ふーん、英二くんまさか、わたしの胸に目が行ったね」

「いや、アタシじゃねえか。アタシの方がでけえしよ」

「勘違いしているようだから言っておくけど、胸の大きさが女性の価値というわけではないよ」


 オレは巨乳好きというわけではなく、いわゆる形が整ったおっぱいが好きであり、大きいやつは正義、小さいのは悪と吹聴している奴には異議を唱えてやりたい。大きいだけがすべてではないのだ!


「さ、早く行こうぜ!」

「おっと」


 ぐいぐい来る美咲はオレの腕を取り、そのまま引っ張っていく。のあさんは先手を取られたことに憤っており、早足でオレたちとの距離を詰め、美咲とは反対側に位置するオレの腕を絡めてきた。


「ちょ、ちょっと待って」


 腕に伝わる柔らかい感触は服越しでも十分伝わるほどだ。

 しかし……この二人に挟まれると男としては非常に辛い状況になる。左右からくる柔らかさと温かさに意識を奪われないように必死に耐えているが、このままではオレの理性が崩壊しそうだ。

 そんな事を考えていたら、いつの間にかテーマパークの入り口まで来ていた。

 三人分のチケットを購入し、入場ゲートを通ると、そこには様々なアトラクションが待ち構えており、これからの楽しい時間を想像させる。


「ん?」

「どうかしたか?」

「いや、視線を感じるんだよ」

「……気のせいじゃねえのか」

「どうだろうな。なんかべったりと生々しくてどうしても意識してしまう」


 テーマパークに入るなり、視線を感じる。詳しい狙いは分からず、心を読もうとしても距離が遠過ぎて失敗する。

 今のところ、気のせいだと断じて放置する以外に手の打ちようがなかった。


「まずはどこ行く?」

「アタシはどこでもいいぞ」

(英二と行けるならどこでも良い)

「じゃぁ、最初はあれかな」

「おう! 楽しみだな」

(ああ……幸せ。何度来てもここは最高だよ)


 のあさんは何か知っているようだけど、オレは知らない。ま、いっか。

 遊園地内のマップを見ると、どうも絶叫系が中心となっているようだ。ジェットコースターにフリーフォール、観覧車もある。


「じゃ、最初はこれにしよう」

「うん」

「ほれ、英二いくぞ」

「ああ、分かった」


 美咲とのあさんはオレの手を引いて、ジェットコースターの方へ歩いて行った。その後ろからのあさんがオレの背中を押してくる。


「痛い、痛い、押さないで」

「英二くん、ちゃんと並んで」

「はい……」

「順番が来たぞ。ほら、並ぼう」

「う、うん……」

(英二くんと一緒に乗りたい。隣に乗りたい……)

「あ、あの、押し過ぎ」


 彼女はそのままオレと美咲の間に入り、美咲を押し退けてしまう。


「何すんだよ!」

(この女、アタシを退かそうとしてやがんな)

「ごめん、後ろがつっかえていてね」

「混んではいるけど、そこまでではないと思う」

「認識の相違だね。僕は前に行きたかったんだ」

(英二くんの隣にはわたしだけが座りたい。だから美咲は邪魔なんだ)

「おい、いい加減にしろよ」

「うるさいよ。君こそ」

(邪魔なのはそっちじゃないか)


 二人は睨み合い、険悪な雰囲気が流れる。遊びの場でどうしてこうなったんだか、理解に苦しんだ。


「喧嘩しないでくれ」

「だってよ……」

「でも」

「ほら、仲良く仲良く」

「うん」

(あ、英二くんからの命令だ。妻として夫の要望に応えないとね)

「ちっ、わかったよ」

(英二の言うことなら仕方ねえな。英二に嫌われたら生きて行けない)

「ありがとう。二人とも」


 何とか言い争いを止めてくれたので、ほっと一息つく。席は横に三つ並んでおり、ちょうど三人一緒に座ることができた。これが二人同時にしか座れなかったら血みどろの戦いが始まっていただろう。


「英二くんはどっちに座るの?」

「ん? ここ」

「えー、そこはわたしでしょ」

「いや、ここはアタシだ」

「いやいやいや」

「いやいやいやいや」

「……」

「いやいやいやいやいや」

「……」

「……」

「二人とも、オレは真ん中がいいんだけど……」

「分かった」

(英二くんからの命令だ。従わないとね)

「ちっ、しょうがねえな」

(英二の言葉、好き、好き)


 ジェットコースターにて、オレの両側に二人が腰掛ける。肩が触れ合うほどの距離で、しかも腕を組んできた。これは嬉しいけど、心臓に悪い。

 ジェットコースターに乗っている最中も、美咲とのあさんの口げんかが勃発していた。


「おい、てめえ! 英二にくっつきすぎだろ! 暑そうにしてんじゃねえか」

「それはこっちのセリフだよ」

「離れろや!」

「君が離れてくれないかな」

「ああん!?」

「何だい?」

(ふん、馬鹿だね。僕と英二くんがどれだけ仲が良いか分からないなんて)

「……」

「……」

(この女、やっぱり英二を狙ってやがんな。英二を誘惑する気満々じゃねえか)

「……」


 二人の剣幕は凄まじく、頂上に登るジェットコースターよりも彼女たちの方が怖い。

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