第一二話 暗闇の中で

小百合に突然、不幸が襲い掛かる。

女学校にて小百合と留美は授業を受けていた。


「留美、あの黒板に書いてある字はなんて書いてあるの」


「小百合、もしかして見えないの」


「そうなの、最近、黒板の文字がなかなか読み取れなくなって」


小百合は不安でたまらなかった。


「目の病院に行ったらどう」


「そうね、でも、生活が苦しいからなかなか行けないの」


「達夫さんに相談してみたら」


「それは達夫さんに悪いわよ」


兵舎にて、留美は達夫に相談することにした。


「上杉少尉、相談があります」


「どうしたの、留美ちゃん」


「実は小百合が最近目が急に悪くなったみたいで心配しています」


「そういえば、最近元気が無いかなと思っていたよ」


達夫も気になってはいたのだった。

留美は女学校での出来事と家庭の事情を話した。

そして、達夫が医療費を支払うということで行くことになった。

そして、病院にて小百合は受診をして検査も行った。


「小百合さんだね」


「はい、先生」


「いつ位から見えにくくなったんだ」


「最近、突然です」

「それから、次第に見えなくなってきて、今は黒板の字がみえません」


「そうか……」

「さっき検査をした結果だが原因がわからないな」

「このままじゃ目が見えなくなるかもしれない」

「あまりにも見えなくなってしまうのが早過ぎる」


「そんな、先生、もう見えなくなるのですか」


「大丈夫よ、小百合」


「そうだよ、小百合さん」


「う~ん、こればっかりはな」

「原因さえわかればいいのだが」


「先生、何とかならないのですか」


「もういいです、達夫さん」


「小百合さん……」



その後、兵舎にて、留美に小百合の様子を聞いた。


「留美ちゃん、小百合さんの目はどうなの?」


「それが、学校に一人では通えないから、私が送り迎えをしていたんだけど」

「もう、行かないって言うの……」


「そうか、それじゃ、ずっと家にいるんだね」


「はい」


「僕が家に行ってみよう」


「そうですね、一緒に行きましょう」



達夫と留美は小百合の自宅に訪れ様子を伺いに行った。



「すいません、上杉達夫と言います」

「いつも、小百合さんにお世話になっております」

「お母様でしょうか」


「はい」


「小百合さんの様子はどうでしょうか」


どうやら、一人でお手洗いにも行けない状態であり、母親が連れて行っているとのことだった。

母親も体が弱かったため付き添うのが大変であったのだ。

達夫は会えないか母親に相談してみることにした。


小百合の母は小百合を呼びに行った。


「小百合、上杉さんという方がお見えになっているわよ」


「お母さん、具合が悪いと言って断って」


「どうして?」


「恥ずかしいでしょ、いいから、断って、お母さん」


「わかった、仕方ないわね」


待っていた達夫に悲しそうな表情で母親は告げた 。


「上杉さん、申し訳ありませんが小百合は具合が悪くて寝込んでいます」


「そんなに悪いのでしょうか」


「はい、わざわざお見えになられたのに申し訳ありません」


「わかりました、ゆっくり休まれるようお伝えください」


「ありがとうございます」


母親は小百合に先ほどのやり取りを伝えた。


「小百合、上杉さんという方に伝えたわよ」


「ありがとう、お母さん」

「怖いの、怖いの……」

「私はどうやって生きて行けばいいのかしら」


「小百合……」


「お母さん、見えないの何も見えないの……」

「これじゃどこにも行けないじゃない」


数日後に達夫は留美に女学校でのことを聞いた。


「留美ちゃん、小百合さんはどうしているの」


「もう、女学校には行っていないの」

「恥ずかしいのよ、きっと」

「私も同じ立場だったら、そう思うわ」


「そうだね……」


留美はある事を思いついたのだった。


「達夫さん、大丈夫よ」

「私が手紙を渡してあげるから」


「でも、小百合さんは手紙を読めないじゃないか」


「お母さんに代わりに読んでもらえるようにお願いするのよ」


「ありがとう、留美ちゃん」


達夫は留美に手紙を託した。



小百合さんへ


小百合さん。

暗闇の中だと怖いよね。

もう、長くは書かない。

明日、僕が家まで迎えにいくから。

小百合さんはどんなに辛くても生きていくと言ったよね。

僕も出撃日が決まったよ。

それじゃ、明日ね。

約束だよ。


上杉達夫




翌日になり達夫と留美は会って話をした。


「留美ちゃん、小百合さんのお母さんに手紙を渡してくれたかな」


「はい」


「どうだった」


「お母さんが言うには、とても悲しんでいるみたい」

「でも、そうよね、上杉少尉」


留美と佐々木にも別れの時が来たのだ。


「そうだね、ところで、僕もようやく出撃日が決まったんだ」


「いつですか……」


「それは軍事秘密で教えられないんだ」


「いやです」

「上杉少尉まで……」


「留美ちゃん、優しくしてくれてありがとう」

「留美ちゃんは強いから必ず幸せになれるよ」

「必ず留美ちゃんを幸せにしてくれる人が現れるよ」


「いえ、私は佐々木さんを忘れません」


「それで、留美ちゃんはいいのかな」


「いいの、佐々木さんが空の上で見守ってくれているだけでいいの」


「留美ちゃん……」


「上杉少尉、前を向いてください」


「どうしたの?」


「いいから、ほら、気持ちいいですか?」


「肩を揉んでくれているんだね」

「ありがとう」


「私はこうやって佐々木さんの肩を毎日揉んでいました」


「そうだったんだね」


「はい、まるで佐々木さんが現れたみたいです」


「そうか……」


「はい。」


「そろそろいいよ」

「僕も留美ちゃんのことを空の上から見守っているからね」


「私は一生、上杉少尉のことは忘れません」

「どれだけ優しくしてくれたか」


「僕も留美ちゃんの明るい性格にどれだけ救われたか」

「それを忘れないでいってくるよ」

「留美ちゃん、しばらく会えなくなるかもしれないけど……」

「元気でね」


「さようなら」

「上杉少尉殿……」


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