第6話 こんなお茶会だなんて聞いていません

それにしても、王家のお茶会なんて本当に面倒だわ。でも来年にはヒューゴ様も15歳になる。そうなれば、正式にお妃候補が発表されるだろう。もちろん、その後もお妃候補は増え、最終的にヒューゴ様が17歳の時に、正式にお妃が決まる。


その際惜しくもお妃に選ばれなかった候補者たちは、側室になる事も可能だ。今思うと、本当にふざけたシステムよね。王族だからって、色々な女性を妻に出来るのだから。


もちろん、私はもう夫を誰かと共有するなんて御免だし、何よりあんな孤独な日々は二度と送りたくはない。だから頼まれても絶対にヒューゴ様のお妃候補に何てなるつもりはない。


まあ、あれほどヒューゴ様に相手にされなかった私が、頼まれることもないのだろうけど…


そんな事を考えているうちに、王宮に着いた。今回の会場は中庭だ。そのまま中庭へと案内された。早速リリアやミリアナを探すが、2人の姿は見当たらない。どうやら早く来てしまった様で、私以外4人程度の令嬢しかいなかった。


仕方ない、2人を待つか。そう思っていたのだが…


「皆様、そろそろ王妃様と王太子殿下がいらっしゃいます。どうぞお席へ」


使用人からそう言われたのだ。え…まだリリアやミリアナは来ていないのだけれど…それでも使用人に指示された席に、急いで座った。私を入れて令嬢は5人。そして、私以外全員が、青色のドレスを着ていた。この子達、既にお妃候補に名乗りを上げている子たちじゃないの?


そうだわ、この子達、1度目の生の時に私と共にお妃候補として共に戦った子たちだ。どうなっているのよ。私はヒューゴ様の婚約者に何てなりたくないのに…


もしかしてお父様が私に黙って、陛下にお妃候補の打診をしたのかしら?でも、お父様はそんな事をしないわ。という事は、何かの手違い?


そんな事を考えているうちに、王妃様とヒューゴ様がやって来た。


「皆、今日は王宮主催のお茶会に参加してくれて、どうもありがとう。ぜひ楽しんでいってね」


王妃様が挨拶をした。そして、いよいよお茶会がスタートだ。早速王妃様の自慢話が始まった。やれヒューゴは優秀だの、このお茶は隣国から取り寄せただの、本当にくだらない話が続く。


どうして私がこんな話を聞かないといけないのよ。そもそも私は、お妃候補に名乗りを上げていないのに…


ふと別の令嬢に目をやると、真剣に王妃様の話しを聞いていた。なんだか以前の私を見ている様ね。あぁ、早く終わらないかしら?


そう思っていると


「母上、もう母上の話しはよろしいでしょう。今日はせっかく王宮のお茶会に来てくれたんだ」


「あらごめんなさい。そうね、それじゃあ、私はこの辺で失礼するわ」


そう言うと、席を立った王妃様。やっと王妃様の自慢話が終わった。既に疲れたわ。


王妃様がいなくなった瞬間、すかさず令嬢たちがヒューゴ様に話けている。


「王太子殿下、今日はお招きいただき、ありがとうございます。さあ殿下、私がお菓子を取り分けますわ」


「あら、こっちのお菓子の方が美味しそうですわよ」


「いいえ、こちらがいいですわ」


早速ヒューゴ様をめぐって、熾烈な争いが始まったのだ。それにしても、こうやって第三者目線で見ると、見苦しいわね。でも前回までは、最前線にいたのよね。なんだか恥ずかしくなってきた。


次第にいかに自分は王妃に向いているかの、アピール合戦が始まった。


本当によくやるわよね…そういえば私もよく“私が王妃様になれたら、ヒューゴ様をしっかり支えますわ”なんて、言っていたわよね…


そんな事を考えていると


「マリア嬢は、どうなんだい?王妃とか興味があるかい?」


急にヒューゴ様が私に話しを振って来たのだ。


「私は…私だけを愛してくれる人と結婚したいと考えております。もちろん、私もただ1人だけの男性を愛したいと思っておりますわ。ですから、王妃様には向いていないかと」


自分の気持ちを正直に答えた。一夫多妻制が当たり前の王族の前で、さすがに失礼だったかしら?でも、ここはしっかりと自分の意見を言っておいた方がいいと思ったのだ。これで私がヒューゴ様との結婚に興味がなく、お妃候補になる事はないとはっきり示せた。


そんな私に


「まあ、王族でもあるヒューゴ殿下の前で、よくそんな事が言えますわね」


「本当に失礼な令嬢ですこと。大丈夫ですわ、あなたの様な令嬢、きっと殿下の方から願い下げでしょうから」


次々と非難の声が飛ぶ。この子達に何を言われようが構わない。はっきり言って、こんな醜い争いに参加すらしたくないのだから…


そうよ、私がここにいる事自体無意味だわ。


「殿下、申し訳ございません。私はこの場所にふさわしくない様なので、これで失礼いたします」


ヒューゴ様に頭を下げ、そのまま中庭を後にしたのだった。

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