おやすみ。さくら

春の日

　ほら見て。花がいっぱい！

　私の「さくら」って名前はこの花からきているんでしょ？

　前アナタ達が話していたのを思い出したの。

　すっごく綺麗ね。白い色が素敵だわ。

　それに……名前を呼ばれるって嬉しいものね。

　あの施設じゃ名前を呼ばれることなんてなかったから。

　特にアナタの声で呼ばれるのが良いわ。すごく心地よい響きだもの。

　あ、私の名前呼んだ？

　なになに？

　え。

　もう！　なんでここまで来たのに忘れ物取りに帰るのよ！

　なんでそんなに忘れっぽいのよぉ。

「財布が無いと買い物できない？」いいじゃない無くたって。

　私は帰りたくないよぉ。

　う、お義母さんに怒られるのは嫌ね……。

　でもぉ……。

　お願いお願いお願い！

　どうしてもダメ？

　じゃあこうしましょう。

　ここのさくらを見終わってから帰りましょ？

　それから財布を取りに帰って、もう一回お出かけすればいいじゃない。私も付き合ってあげるから。

　そうしたらもう一回お出かけできるし……。

　え？　なんでもないわ。

　ね？　ね？　いいでしょ？

　やった。

　はい決まり。じゃあ行きましょう。

　ほらはやくはやく。この先の大きな池まで行きますよー。

　……ありがとね。