最後の日

 ねぇ。抱っこしてくれない?



 すごくねむいの。



 ありがとう。離さないでね。



 あのね、私がねむるまでお話聞いて。



 アナタと出会ったのは、私が1歳の頃だったよね。だから、もう13年も経つのかな。



 いろんなことがあったわね……どれも楽しかったなぁ。



 私ね。お義姉さんの赤ちゃんを見た時分かっちゃったの。



 私とアナタは結ばれないんだって。



 ずっと……今の私の姿は仮の姿で、大きくなったらお姉ちゃん先生のようになれると思ってた。



 でも、そうじゃないのね。



 馬鹿ね。



 夢をみていたのね、私。



 本当に、馬鹿。



 私はヒトになることを夢見た…‥。



 ごめんなさい。自分のこと、なんて呼ぶのか分からないの。


 

 でも気付いたの。



 この前脚ではアナタと手をつないぐことも、抱きしめることもできない。


 この口ではアナタの言葉を話すことはできない。


 この瞳ではアナタと同じ色を見ることはできない。


 アナタの為に涙を流すことも……。



 私はアナタのつがいにはなれない。




 そのことに気付いてから、ずっとこの気持ちを抑えようとしてた。



 でも



 それでも



 私は



 アナタのこと愛してる。



 抑えることなんて、できないよ。



 ねぇ、ヒト同士の恋って素敵なのかな?



 手を繋いだり



 抱き合ったり



 お話したり



 私もしてみたかった。




 ……。





 ……ごめんなさい。嘘よ。




 アナタの顔を見たら、今のままで充分になっちゃった。



 そんな悲しそうな顔で泣かないで。



 ……あ。



 私の名前……呼んだ?



 今、分かった。



 アナタがくれた名前。



 「さくら」



 私は……それ以外の何者でもないんだね。



 ふふ。そっかぁ。



 それで良かったのね。悩むことなんてなかったんだ。




 ねぇ、私と約束してくれる?



 私がいなくなったら、アナタは自分の為に生きて。



 だって、アナタは……ずっと私の為に生きてくれていたでしょう?



 アナタはずっとこのウチに帰って来てくれた。



 アナタの選択の中にはいつも私がいた。



 私だってそれくらい分かるわ。




 通じ合ってたのかな? そうだったら素敵ね。




 たとえ私達がつがいになれなくても。



 アナタが私を愛してくれたことだけは分かるわ。



 私はしあわせ。



 アナタに出会えたから。



 アナタが私のことを想ってくれたから。



 アナタと……歩むことができたから。



 私たちの中には、何かがあったから。

 


 それが何なのか、言葉にできないけど。



 確かにあったと分かるから。





 ……アナタの腕、あったかいね。



 大好き。




 あぁ本当にねむい。





 もう目を開けてられないわ。





 ごめんね?





 またね。






 また、いつか。

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おやすみ。さくら 三丈 夕六 @YUMITAKE

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