第46話 寂しい寮

地上についた俺たちは、ブーギーメーシィと解散し、本部へ向う。

ヒナミも当然のように付いてくるが、緊急事態というのであれば戦力は多いに越したことはない。

レイアは不満そうだが、現状残念ながらレイアよりも変身したヒナミの方が強い。繰り返すが、味方でいてくれれば心強いのだ。


いつもどおり警備の人に軽く頭を下げてから本部に入る。

ここでは事務方の団員が黙々とデスクワークをしているイメージが強いところだが、今日はバタバタと走り回っている人が多い。しかも、表情に余裕がない。


「いったい何が起こったんだ…?」


ハルキは代わる代わる目の前にやってくる団員に指示を飛ばしている。

邪魔をするのも悪いので、人の流れが切れるのを待っていた。

少しして、俺はレイアとヒナミとともにハルキの前まで行くことが出来た。


「戻ったぞ」


「ああ!紳弥くんにレイアくん!それにヒナミくん…だね?」


特にヒナミが何も反応しないので、俺は話しを進めることにする。


「それでハルキ、これはいったいどうしたんだ」


ハルキは、いつもにこやかな顔をゆがめて、こう言った。


「遺跡の調査をしていた前線組の213名が行方不明になった、恐らく遺跡だと思う」


「行方不明って、端末は?」


「端末の反応が消えたんだ。壊したわけでも、捨てたわけでもない。まるで電波が遮断されたかのような感じだね」


「なるほど。俺たちも遺跡に向かえば良いか?」


「いや、現在救出部隊を編成している。君たちには、何かあったときにすぐに動けるように待機していてほしい」


「分かった」


要件が済んだ俺は、自分たちの後ろでハルキと話したそうな雰囲気の団員が並んでいたので、話を切り上げて本部を後にする。


「ああそうそう!レイアくんたちの待機する部屋も用意したから、端末で確認してくれ!」


出口までさしかかったときに、ハルキの声が後ろから聞こえる。


「分かった、ありがとう!」


俺も振り返って返事をし、寮へ向かうのだった。

寮の中はいつもより閑散としている気がする。

普段は、日中帯でも非番の団員などを談話室等で見かけることができる。

だが、今は出払っているのか、人の気配があまり感じられない。


「夜になればもう少し帰ってくるのかな…」


200人ほどが消息を断ったということだが、調査団の人数はそんなに大規模なものではない。かなりの人数が行方不明になったと言えるだろう。


「貴方は今は何かあったときに動けるように、ゆっくりしてなさい。例えば、寮に来たことがない私に案内をするとかね」


レイアは俺の不安そうな顔を見て励ましてくれたのだろうか。

そうだな、確かに、俺が辺に落ち込み必要は無い。今、救出部隊が向かっているはずだし、ゆっくり待っていよう。


「じゃあ、俺の部屋から案内するか!」


俺は気持ちを切り替えて、寮の中の案内を始めたのだった。

そうして寮内を見て回っているうちに、日は落ちていき、夕飯の時間となる。

そのころになると、街の中で働いていた団員たちが寮に帰ってきた。もちろん数はいつもより少ないが、それでもその光景に少し安心した。


「俺たちも夕食食べるか」


「良いのかしら。ここに、夕食の申し込みは15時までって描いてあるけれども」


「大丈夫、寮の案内してるときに3人分申し込んだから」


「あら、スマートじゃない」


「だろ」


今日のメニューは、初めて聞いた名前の肉の生姜焼きだった。

寮で出る料理は、元の世界での料理に似ているところがあるから、きっと豚肉みたいな味がする肉だろう。


「ヒナミは食べられそうか?」


「ええ、私、好き嫌いありませんから」


「そっか、それなら安心だな」


「私も好き嫌いはないわよ」


「え、そうだったか?レイアはレバーとか駄目だったと思っていたが」


「覚えていてくれるのは嬉しいけれど、ここでは言わないで欲しかったわね」


「え、ごめん」


なんて雑談をしながら食堂に入っていった。

料理は美味しかった。

食事のあと、各自入浴を済ませ、何故か俺の部屋に3人ともが集まっていた。


「私が目を離したら、紳弥が危ないわ」


「私が貴方から離れるわけないじゃないですか」


「いや駄目だろ…」


「え?初めてでもないのに何を今更言うんですか」


きょとんと首をかしげて言うヒナミ。

待ってくれレイア、俺は知らない。そんな目で見ないでくれ。


「レイアだって、前に泊まるのは嫌だって言ってなかったか?」


「仕方ないじゃない。この状況でそんな悠長なこと言ってたら、紳弥が汚さされてしまうわ」


「け、汚されるって…」


ヒナミはそういう目では俺を見ていないだろう。


「仕方ない、俺はそこの椅子で寝るから、2人はベッドを使ってくれ」


同じ部屋で寝るくらいなら許容できる。


「嫌よ。こんな女と寝たら妄想癖が感染ってしまうわ」


「こちらこそ願い下げです。ゴリラと同じ檻で一晩過ごすようなものじゃないですか」


「相変わらず仲悪いなお前らな…」


さて、どうするか。


「もう面倒くさいな…3人で床に寝るか…」


悩んでいると、俺の部屋の扉がノックされた。

扉を開けると、そこにいたのは相良先輩だった。


「相良先輩?」


「紳弥たち一行、全員いるな?至急本部まで来てくれ」


「…分かりました」


表情を見れば良いことがあった訳ではないことは分かる。


「すぐに行きます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死んだ幼馴染に逢うまでは 愛夢 永歩 @grayfoxf238

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ